其之玖拾壱話 偽者
月下の半刀……それは最強最悪の凶鬼、蛇鬼を祓った東城舞美の愛刀だった『月下の刀』その折れた刃先の事である。
(何故、月下の刀が折れたのか……それは『其之肆拾漆話 般若の面』をお読みください)
『ガラララララララッ!!』
「お母ぁぁさぁぁん! お客様だよぉぉぉ!!」
勢いよく玄関戸を開け、廊下の奥に向かって叫んだ一縷。暫く後台所の戸が開き母、舞(嫗めぐみ)が顔を出した。
「舞! 久しぶりっ!」
舞は、暫く美月を凝視し何かを考えこんだ後、急に笑顔を作り……
「美月ぃ?! 久しぶり! どうしたのぉ急にここに来るなんて! 連絡くれれば迎えに行ったのにっ! さあ上がって上がって!」
そう言いながら舞は、美月を広間に案内した。
一縷は、着替えを済ませると台所へ行きお茶菓子が入った菓子鉢と湯呑を用意すると広間へ持って行った。そして舞がお茶葉を急須に入れお湯を入れると湯呑に注ぎ始めた。それを一縷が美月の前へ取り分けたお茶菓子と湯呑を並べた。その光景を見ていた美月が……
「一縷さん……凄い手際良いんだね。手伝いを沢山やってるっていうのがよく分かる! 感心感心!」
そう言いながら感心した素振りを見せた。
「いやぁぁ……そんなぁぁぁ……やっぱわかりますぅ?!」
一縷は、その言葉に謙遜しながら美月の向かい側に座った。友人の結婚式に参加する為、隣の街に来たついでに会いに来たと話す美月、しかし一縷は、お茶を啜りながら美月をチラ見する一縷……それというのも、少し美月に違和感を感じていたからだ。
(この人の、この気配……今日、視線の先から感じた余りよくない気配と……よく似てる。古い友人って言ったけど……お母さん、何も感じてないのかなぁ……)
「それで、優は元気なの? もう何年も会ってないし連絡も取っていないけど」
「うん! 元気元気! 相変わらずね、今自分が卒業した中学校の二年生の主担任だったかな、頑張ってるよっ!」
「ねぇ舞……実はこの前、私の神社に妙な奴が現れたの! 『月下の半刀はどこだっ』って行き成り刀を突きつけてきたのよ! まぁとっとと追っ払ってやったけどね、舞の方にも変なの来なかった?」
一縷が……
「あのぉ……」
そう話し出そうとした時、それを遮るように舞が言葉を被せた。
「そのっ…………妖者……どんな奴だった?」
「そいつは、白い着物のような物を纏っていて……顔には狐の様な面……声は女の声だった」
狐の面……美月の話を聞く限りその風貌は、ここに現れたあの二人とよく似ていた。
「月下の半刀って優が使っていた刀の折れた半分の事だよね? 確か黒鬼を倒した後、行方不明になった……。舞は、其れが何処にあるか……知ってるの?」
その問いの後、舞は暫く黙り込み答えを返した。
「半刀なら……ここにあるわよ……みづき……」
「えぇぇっ?! ここにあるのっ? 私もそれが見たい! 見せて見せてっ!」
子どもの様に、はしゃぎ哀願する美月、舞はゆっくり立ち上り……
「こっちよ……」
そう言って舞は、半刀がある場所へ案内を始めた。
居間の戸を開け廊下に出ると、道場の方へ歩み始める。
美月の前を歩く一縷は……
(やっぱりそうだ……今日感じた得体のしれない視線と気配……美月さんから同じものを感じる……なんでだろ?)
そう思っていた。
そして舞が道場の入り口を開ける。
『ガラガラガラガラガラ……』
「ここよ、さぁ入って……みづき」
舞は、そう言いながら扉を開いた。開いたと同時に一縷が廊下から入る灯りを頼りに電灯を点ける為、スイッチがある場所へ小走で向かった。
しかし舞は、一縷が電灯を点けに向かっているのが分かっているはずなのに、『カラカラカラ……』と静かに戸を閉めてしまった、すると当然灯りが遮られ道場内は真っ暗闇になる。と、その瞬間!
『ガシャンッッ!』
甲高い金属音が道場内に響き渡った! 一縷は暗闇の中、壁を伝い電灯のスイッチがある所へたどり着き電気のスイッチを入れた。
そこで目にしたのは……白い柄の刀で舞を斬り付ける美月と、それを神楽鈴で受けている舞の姿だった。
『ギリッ……ギリリッ……』
金属が軋む音が響く。美月は不敵な笑みを浮かべながら舞に言い放つ。
「あら? ひょっとしたら……気付かれていたのかしら?」
「気付かれてないと思っていたの? 偽者さん。 だとしたら、あなた……相当おまぬけでお馬鹿さんね……」
舞は、神楽鈴を振り抜き、美月を後方へ吹っ飛ばした。
「分かってて、私の猿芝居に付き合ってくれてたの……人が悪いわね、貴方も……」
美月は、そう言いつつ何処からともなく狐の面を取り出し、それを顔に当てた。すると一瞬にして容姿が変わりその姿は、銀色の長い髪に白い袈裟を纏った細身の長身になった。
「貴方……私が偽物と分かっていてここに連れてきた……という事は……半刀は、ここには、ない……という事でしょうか?」
その問いに舞はこう返した。
「貴方達……本当に……本当に、むかつきます……妖者……絶対に許さない」
『ババッボッボバァァァンッ!!』
舞の髪が逆立ち、身体から炎が沸き上がり一瞬で焔の纏を纏った。そして手には雷神の剱を持つ。
焔の纏を纏いつつもその体からは、雷電が『パチッバリッバリッ』っと乾いた音を立てている。そして妖者に剣を向けつつ一縷に言い聞かせた。
「一縷……貴方も刀を抜きなさい……」
「は、はいっ!」
一縷は、慌てて返事を返すと、平野藤四郎を鞘から抜き妖者に向かって指し構えた。
「凄く感がいい子と思っていたけど……まだ纏えないんだ……。良かった一縷さん、ふふふっ……まぁ私にとっては好都合だけどね……」
『ガキッ!! キンキンッ!! バリッパパパァァァァン!!』
突然、舞が話している妖者に容赦なく斬りかかり、雷撃の火花が辺りに広がった。しかし妖者は、その一の太刀に素早く反応し、舞の剣を振り払い、素早く後ろに飛び下がる。舞は、刀を妖者に指し示し言い放った。
「貴方……よそ見をしている暇は無くてよ……」
同時に、妖者の纏の袖がはらりと斬れ垂れ下がる。しかし妖者は、それを見ても慌てるそぶりを見せず、落ち着いた口調で言い放つ。
「そのようね……でも……ここに半刀がないと分かったのなら、これ以上争うつもりはないし長居は、無用……また出直すとしましょうか……」
そう言いながら刀を鞘に納めた。殺気が消えた妖者、しかし舞は、警戒を解こうとはしなかった。
「貴方……ここから逃がさない……絶対に今、ここで祓う」
「おぉ怖い怖い。帰るって言ってるのになぁ……。じゃぁちょっとだけ……試させてもらうわ……一縷さん」
『ドンッ!』
そう言うと妖者は、すぐさま抜刀術の構えを取り、一気に一縷の方へ駆け出した。その瞬発力、舞もそれを見て一縷の元へすぐ駆け出したが彼女の速さをもってしても、この距離からでは到底一縷の元には届かない。
一瞬で一縷の懐に入り、抜刀する妖者!
「一縷っ!!」
叫ぶ舞っ!
『カキィィィィィィィン……キィィィィン』
甲高い……それでいて綺麗な金属音が道場内に響く。
「私の……抜刀を……止めた?」
驚愕する妖者……
一縷は、妖者の抜刀を瞬時に見切り、首元で受け止めていた、そしてその身体には、うっすらと桜色の纏が見えている。妖者の気が怯んだ隙に、刃筋を素早く裏返しそのまま思いっきり振り上げる、その速さで妖者の刀が手を離れ、宙を舞い後方の壁に勢いよく突き刺さった。
「一縷さん?! くっ……速い! なんて速い剣なのっ?!」
妖者は急ぎ後方へ下がり、刀を回収し鞘へ納めた。一縷も刀を一旦鞘へ戻し、腰を低く落として抜刀の構えをとった。虚をつかれた妖者は、咄嗟に手を合わせ唱えた。
「ちっ……爆っ!」
『ボバァァァァァァンンンッ!!』
低い爆音と共に辺りが白煙に包まれた。次第に煙が薄まると妖者の姿は、何処にもなかった。
「逃げられた……わね」
そう言いながら舞は、刀を鞘に戻した。呆然として纏姿の舞を見つめる一縷。その視線に気づいた舞が微笑みながら語り掛けた。
「ふふっ……どうしたの一縷、そんなに目を丸くして」
「お母さん……お母さん! 私もっ……私もお母さんの様に、纏えるようになりたいっ! この指輪で纏えるんでしょ?! お願いお母さん纏い方を教えてっ!」
「一縷……」
舞は、悩んでいた。母親に櫻嘩の指輪を託された一縷、確かにその才は、あの東城舞美や青井優以上だとめぐみは、確信している。しかしそのせいで母親を目の前で亡くし、今また自分も殺められそうになってしまった。そんな危うい状況に幼気な少女を巻き込むわけにはいかないと……母親に変わって自分がこの子を守っていかなければならないと……強く感じていた。
「あのね……一縷……」
「お母さんが言ってた! 私には東城家の、神守だった東城家の血が流れてるって! それは清い力、皆を助ける正義の力だってお母さんが言ってた! 私は不幸になんか絶対ならないっ、この力で皆を悪い奴から助けて幸せにするんだっ! そして……そしてお母さんを守るッ! 絶対守って見せるッ! だって……だってもう……あんな悲しい思いは……したくないから……ねっ、お母……さん……」
そう言いながら一縷は涙を流した。俯き方を震わせる娘を舞は、肩を抱き引き寄せしっかりと抱きしめた。
つづく……




