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纏物語  作者: つばき春花
第参章 月姫と月読尊
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其之捌拾伍話 一縷今昔物語 其之参

『お祓い少女』


『お祓い少女』の噂はあっという間に学校内の都市伝説となった。しかしこの学校は、生徒数が多いせいなのか誰が『お祓い少女』なのか特定は出来なかった。というか一縷本人が直接『憑いた人』を探すのでは無く仲介役を通して依頼者を探すのでまずバレない。


その仲介役は先日、記念すべき初祓いをした親友の純が快く引き受けてくれた。


そのシステムはこうだ、一縷が気になった子がいたら純に伝え、純がさり気なくその子に近づき近況を探る…と言う手順だ。


取り憑かれ、本当に困っているのならば疑う事無くお願いされる。本人は藁にも縋る状況だったので祓い終われば感謝の気持ちの表れか『お祓い少女』の事を他言する事は無かった。


そして今日の祓い人は……六年生の貴子(仮名)。屋上で純と二人、柵の前で待っていた。


そして一縷が戸を開け、屋上に入ると二人の方を凝視する。その目に見えたのは……黒く蠢く何かだった……。


(うぅぅん……此奴は…獣? 違うなぁ、何かの悪い氣の塊……ゴムみたいに蠢いて気持ち悪い。でもやるしかない!)


「行くよっ! 目を閉じて動かないでねっ!」


腰の短刀を握りしめ、全速力で走り出す。とその時、塊がいきなり弾け走り寄る一縷の四方から襲いかかってきた!


(弾けた!? ちぃぃぃ!)


一縷は、走りながら体を捩じり、背面になりながら抜刀し、瞬で三体を斬った。そして止まる事無く一度刀を鞘に戻し、迫る残りの三体を抜刀し斬った。すべて斬り祓ったと思われたが一縷の動きは止まらない、再び刀を鞘に戻し貴子に向かって走って行く。


「お前が本体だぁぁぁ!!」


そう叫びながら抜刀し斬り祓った!


『ギャッ!!……オオオオオォォォォォォォォォォォォォ………………』

 

けたたましい断末魔を上げながらその化け物は蒸発し消えていった。


「ふうぅぅ…『カ…チン…』」


一息つき、刀を鞘に戻した。そして貴子に話しかける。


「もう大夫、悪い奴は居なくなったよ」


貴子は、ペタッと座り込み、手を地面に着け、泣き崩れた。


「エッ…エッ…本当?……ありが……とう……ありがとう……」


貴子は、その化け物が取り憑いたせいで気性が荒くなり、急に言葉使いが悪くなったり、家族全員に暴力を振るったりする事を悩んでいた。


【バレた…】


「ただいまぁぁ……」


恐る恐る玄関を開ける。返事がない、どうやら母親は、留守のようだ。この隙に…と居間へ急ぎもう一度周りを確認し一礼しそっと指輪をもとに戻す、そして再び一礼をした。『良しっ!」と後ろを振り返ると扉の向こうに母の姿が。


「お、おおおおお母さん!?……たたたただい……ま……」


母親は、一縷を冷ややかに見つめながら側に近づいてきた。


(やばいやばいやばい! 見られた?! もうダメっここここ殺されるぅぅぅ!!)


そう思って身構える。すると母親は横を通り過ぎ神棚の前に行き、コンセントに手を伸ばした。


「あらあら、電気が一つ点いてなかったわ…ん? どうしたの一縷…」


顔色が一瞬で真っ青になった一縷。


「はははい! なななんでもありま…ないです、ははっはははっ! そそそそうだ! しししゅ宿題、やらなくちゃ!」

 

そう言いながらそそくさと逃げるように部屋へ帰る。


(良かったぁぁぁ……バレてないぃぃぃ!)


安堵する一縷の背中に冷たい汗が流れた。



そして次の日…


昨日危ない目に遭ったばかりなのに……その日も朝から指輪を拝借した一縷……止めておけば良かった……と後に思う。


学校が終わり帰宅した一縷、そっと玄関を開ける。


『カラ……カラカラ…カラカラカラ……』


「た…だいま…」


まずは、玄関から中の様子を窺う。そして玄関を上がり、忍び足で廊下を歩みゆく。居間の前でもう一度周りを見渡し、そっと戸を開け顔だけを突っ込み部屋の中を見渡し、誰も居ない事を確認するとサッと素早く入り戸を閉める。


足早に神棚の前に行き一礼をすると偽の指輪と本物の指輪をそっと入れ替え、再び一礼をし、頭を上げた。そして振り向くと………


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


驚きの余り叫び声が上がる。其処には母親、神舞の姿が。


「一縷ぅ…貴方…何やっているの?」


「あ…あ…あ…あ…あ…あのその…ああああああれは……ここここれでぇぇ……」


驚きと恐怖の余り、吃る一縷。


「貴方……指輪……を?」


「いいいいいや………それはそのぉぉぉ……………ごごごごごめんなさいっ!!」


深々と頭を下げた一縷、その姿をじっと見つめる母、舞。ふぅぅぅ…と一息つくと、くるっと背を向けたまま、一言呟いた。


「一縷…着替えて道場へ来なさい…」


「ははは、はいっ!」


もう生きた心地がしない一縷。道着に着替え道場へ行くと舞が神棚の前で姿勢を正し座っていた。一縷は、静々と舞の後へ座った。すると…


「防具を着けて、短刀を取りなさい」


何時もは『防具を着ろ』とは言わない母のその言葉に、益々不安が募る一縷。ゆっくりと立ち上がり後ろの棚に並んでいた防具を一つ取り、正座をして着け始めた。その間、母は静かに神棚を見つめていた。


防具を着け終わると、いそいそと母の後へ歩み立った。すると母も立ち上がり一縷と向き合った。


「一縷…今から行うのは…神武館流しつ…乱取り。時間は三十分、その間に私の体にその短刀が三本、どこでもいい、掠るだけ…でもいいわ。私に当たればあの指輪は、貴方に譲ります」


その言葉に驚き聞き返す。


「えっ? どこでも?!…当たれば…いいの?」


「ええっ…顔でも頭でも、お尻でもどこでもいいわよ…」


「でも………お母さんは…」


一縷は、木剣も持たない母親を気遣った、しかし……


「私? 今日は初めてのしつ…いや乱取り、特別に何も使わないからチャンスよ…遠慮しなくて良いからね。さぁ始めるわよ」


(お母さんは素手……多分逃げ回って時間を稼ぐ作戦だ…そうはさせない。ここは一丁本気出して何としても指輪を手に入れるっ!)

 

そう思いつつ抜刀の構えを取り、一呼吸置き、猛然と向かって行った。が、突如として舞が一縷の視界から消えた! 


次の瞬間!


『ドゴッ!バギベギッボギッ!』


電光石火の膝蹴りが防具越しに鳩尾に入り、続けて矢継ぎ早に強烈な回し蹴りが脇腹を捕らえる!!


『ドダンッ!!ドダッダダッダダダダドォォォォン!!!!』


一縷の身体は、床に激しく叩きつけられ、跳ねながら床を転がり、壁に激突して止まった。


「ふぅぅぅぅぅ………………あらあら、ちょっとお痛が過ぎたかしら?」


恐るべし神舞。その威力は凄まじく、一撃で防具の真ん中にぽっかり穴が開き、蹴りが入った脇腹付近は、真っ二つに割れていた。


「ゴハッ! ゲホッゲホッ! ゲボッ!」


余りの苦しさに四つん這いになって咳き込む。一縷の目には、舞の動きが全く見えていなかった。


(い、痛ぁぁぁぁい……………お母さん相当怒ってるぅぅ…。今の…全然見えなかったし、防具を着けていなかったらどうなったか…でもこんなの着けてちゃ動きが鈍る、それならば!)


そう思いつつ一縷は、防具を全部外し短刀だけ持って構えた。その時、一縷の目に映った舞……母親の背後に、焔が揺らめいているのが見えた気がした。


それから三十分。案の定、剣を当てるどころか掠る事さえ出来ずボコボコにされた一縷。終わった頃には精魂尽き果て、立つ事さえ儘ならなかった。


「一縷……終わりますよ、立ちなさい、最後の挨拶を…………一縷……………こらぁぁ!!一縷、いつまで寝てる!立たんかぁ!!!」


容赦ない激が飛ぶ。


神武館流乱取りと言う名のしつけ、その始まりであった。



つづく……



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