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纏物語  作者: つばき春花
水上村の化猫編
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其之漆拾玖話 この街が好きだから

黒鬼との戦い終わった後の帰路……嫗めぐみと井桁舞、そして神酒美月の会話である。


(舞……)


(ん? どうしたの? めぐみさん)


(私……未熟な貴方に纏われたお陰で…神氣を殆ど使い果たしてしまったの……元の姿に戻れそうもない…なので、このまま貴方の中で暫く眠らせてもらうわ…ごめんな……さい…)


「眠らせてもらうって……ちょ、ちょっと何言ってんのよ! 私はホテルじゃないのよ!めぐみさん! おい!めぐみぃ!」


「どうしたの、舞?」


「めぐみさんが、神氣を使ってしまって元に戻れないから貴方の中で暫く眠らせてって…」


「プッ…ハハハッ! 余程貴方の中が居心地いいんじゃない?ふかふかのベッドみたいで!」


「笑い事じゃない! にしても『未熟な貴方に纏われたから』だって!そんな風に言わなくったっていいじゃない、めぐみさん超酷いっ!」





黒鬼との死闘から幾月が経ち、優達の高校生活も残り少なくなってきた頃。


三年生は部活動を引退し、卒業後の進路を真剣に考えなければ行けない時期となっていた。


しかしそういう事はどこ吹く風。この三人は、自由気ままに今、この時を楽しんでいた。


今日も帰り道、地元のスーパー『サンロード』に立ち寄りアイスクリームとお菓子を買い込んで近くの公園のベンチに座り、他愛のないお喋りをしていた。


「ねぇ美月ぃあんた卒業したらどうすんの? 進学すんのぉ??」


ソフトクリームをベロつきながら舞が聞く。


「うぅぅん。私、やっぱり神社を継ごうと思ってるんだ。お父さんにあんな事があって暫く、顔を合わせるのが凄く辛かった時期もあったけど……だけどね、だから私がお父さんをしっかり支えてあげなきゃって……今は思ってるんだ。そういう舞は? 卒業したらどうするの?」


「わ、私はぁ……うぅぅん……」


はにかみ下を向く舞に、美月が肩に手を回しけしかける。


「何々! 人には言わせといて自分は言わない訳ぇ?! ずるいよぉ!」


「わ、分かった分かった! 言うよ、あのねっ、私地元に帰って警察官になろうと思ってるんだ! 小さい頃からの夢だったし。それにほら私、剣道強いから!」


「そうねっ! なんてったって全国二位だからねっ! 全二!!」


「くぅぅぅぅ……言うわねっ美月ぃぃぃ! あとちょっと、あともう少しで私が優に勝って全国一位だったんだからっ!!」


「へぇぇぇぇぇ……お情けで一本、当たってくれたのに。ねぇ、優!」


「ななな、何ぃぃぃぃ?! そそそ、そうなの優ぅ?!」


「はははっ! そんな訳ないじゃん、剣道はいつも真剣勝負! あれは見事な面だったよっ!」


「こらぁぁぁ! みづきぃぃぃ!!」


「私は、みづきじゃないっ!! み、つ、き!! 美月よっ!!」


睨みあう二人を優が諭す。


「ほらほら二人とも喧嘩はしない『仲良き事は』でしょ?」


「ふんっ!」


「べぇぇぇだっ!」


仲が良いのか悪いのか……これが三人のいつもの掛け合い風景だった。


「ねぇ人の事ばっかりじゃなくてさぁ、優は将来どうするの?」


話を振られた優は、ちょっと戸惑いながらも胸を張って答えた。


「私? うん! 私は、もう何になるか決めてるんだ!」


「なになに? やっぱり警察官? よっ全国覇者! 憎っくいねぇぇ!」


「違うよ! 私はぁ、私はね、ここっ! 人吉で、この街で学校の先生になるのっ!」


「へぇぇぇぇっ学校の先生か! いいじゃん、優らしい!」


優はそう言うと、ベンチの隣にあるブランコに小走りして飛び乗り、思いっきり立ち漕ぎをしながら大きな声で語り始めた。


「私はぁぁ!! この街でぇぇ!! !! 学校の先生になってぇぇ!! そしてぇぇ! ここでぇぇ! 良い人見つけてぇぇ! 結婚してぇぇ! ここでぇぇ! 子どもをたくさん産んでぇぇ! ここでぇぇ! 家族みんなでぇぇ!! 楽しく暮らしてぇぇ! そしてぇぇぇ! そしてぇぇぇぇぇぇぇたぁぁぁぁぁぁ!!」


そう叫びながらブランコを思いっ切り大きく漕いで飛び降りた!


優の体は高く舞い上がり見事、綺麗に着地を決めた。そして体操選手のように両手を真上に挙げ、くるっと二人の方を見て笑みを浮かべながら……


「ここで、この街で幸せな最期を迎えるの……」


そう言いながら手を下ろすと夕焼け空を見上げながら続けた。


「私、この街が……人吉が大好きなの、皆が命を懸けて守ってくれたこの街……舞美おばあちゃんが大好きって言ってくれたこの街……私が生まれ育ったこの街が……私も大好き。だから何処にも行きたくないし離れたくない、だから私、この街でずっと生きていくって、決めてるんだ……」


優のその言葉に二人は笑みを浮かべ静かに頷いた。


そして暫くの沈黙の後……舞が……吹き出しぼそっと呟く。


「ぷっ……水色……」


「えっ?」


美月も呟く…。


「ばか……パンツ丸見えだったよ……」


その言葉に優は『カッ』と顔を赤らめながらスカートを押さえ、二人を睨みつけながら唸った。


「見ぃぃぃたぁぁぁなぁぁぁ!」


「ああっ! 見たよっ! 見たさっ! 優の今日のパンツはぁぁ! みぃぃずぅぅいぃぃぃろぉぉぉ!!」


二人が声を揃えて叫ぶ!


「ばかっ止めてっ! 恥ずかしいぃぃぃ!!」


「ハハハッ!ハハハハハハッ!」


手を振り上げ、二人を追いかける優。


夕日に伸びる三人の影、仲睦まじい三人の声が赤く染まる公園内に響く。


先祖からの、悪しき慣例を甦らせた父に操られ、優に刃を向けたばかりか、舞を殺めようとした般若面のくノ一、神酒美月。


東城家の血筋でありながらも自分の不甲斐なさに悩み、優のその才に尊敬の念を持ちながらもコンプレックスを抱き、無茶ばかりしていた井桁舞。


そして…大好きな祖母の力を受け継ぎ、悲しみを乗り越え、多くの兵、妖者と死闘を繰り広げ、そして邪念と怨念の塊、黒鬼を祓った蘇りし鬼姫、青井優。


三人の物語は、ここで終わりを迎える。しかし、命を纏い惡を打つ……纏物語は、日ノ本に惡が現れる限り、これからも続いて行く……。


纏物語 第弐章 『六人の宮司と蘇りし鬼姫』    終


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