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纏物語  作者: つばき春花
第壱章 五珠の御魂と月下の刀
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其之捌話 彷徨える獣魂

 私が子どもの頃の話。ある日、お父さんが家に子犬を連れてきた。黒と白色でまるでパンダみたいだった。両耳が垂れてて、耳と目の周りが黒くて毛がふさふさで、毛玉みたいに丸々していてとても可愛かった。しかも、とても賢かった。散歩はお父さんが朝夜、行っていたけど時々私もついて行っていた事を覚えている。

 病院の戦いから一ヶ月が過ぎた。大怪我からようやく普通の生活に戻れた舞美だったが『面倒くさい体質』のおかげで本当に面倒な毎日になっていた。どういう風に面倒かと言うと……


「うわっ、今日もいる!」


『いる』というのは、ほらそこの電柱の後ろ。血だらけのおじさんがこっちを見てニヤニヤしている。

 あっちのお地蔵さんの横には、体操座りをしてブツブツ独り言を呟いているお兄さんが見える。


 そう、面倒くさいとは、普通の人には見えない、この世の方達ではない者が見えるようになってしまった事だった。しかも見えるだけではなく、自分達が見える舞美に面白がってついて来たり脅かしたりするのだった。最初の頃は、怖くて泣きながら逃げ回っていたが慣れというのは怖いもので、今では何とも思わなくなったばかりか『あっち行け、祓うぞ!』と脅しなような口調で追い払うようになった。

 

 しかしこれとは別に舞美を悩ませている者がいた。それは、そこらに浮遊している『悪霊もどき』だ。其処らにふわふわ浮いている紫色に燃える人魂のような、力の弱い霊魂だ。しかし舞美が近づくと、その霊力に引き寄せられるように、ものすごい速さで舞美に体当たりして来る。

 

 舞美に触れた悪霊もどきは、その瞬間、はじけて泡のように消える。てもその当たった瞬間がものすごく痛いのだ。例えるなら同じ年頃の男子がドッチボールを全力で投げてまともに当った位の衝撃を受ける。だからと言っていちいち纏って祓うのも面倒なので、オジイ達が代わるがわる結界を張ってくれていた。しかしこれが意外と霊力を使うので長くは張れない。なので悪霊もどきが居る道は避けて通ったり、見つかる前に走って逃げるようにしていた。


「はあぁぁぁ……もう逃げ回るの疲れちゃった……あいつ等のせいで遠回りしなくちゃいけないし。いっその事この町ごと赤珠の力で焼き払っちゃおうかな(笑)」


「こら! 舞美!」東城彦一郎が戒めた。


「ははっごめんなさい、冗談です……」


「冗談でも言っていい事ではないぞ!」


多分、彦一郎は本気で怒っていた様子だったが舞美は


「はい、はい、御免なさい!」


と軽く返事を返し舌を出していた。


 そのような日々が続いていたある日の下校時の事、家まであと少しと言う所の曲がり角に差し掛かった時、何匹もの悪霊もどきがボールのように固まって蠢いているものが転がっていた。(うわっ気持ち悪い!)と思いつつ気づかれないように忍び足で通り過ぎようとした時、ボールの中から何かのうめき声が聞こえてきた。(動物?猫? 犬、子犬の声だ、子犬が食べられている!)

舞美は、躊躇せず


「浄化の鞭!」


 瞬く間に青珠を纏った舞美は、浄化の鞭で悪霊もどきが蠢くボールをしばいた。


「あっちいけ、あっちいけ! しっしっ!」


 悪霊もどきは、鞭の力で祓われ泡のように消えていった、そして中心には白色に輝く球が残った。(犬じゃなかったんだ、よかった)と思いつつ球を見た。(何かの魂? 今にも消えそう……)その輝きは弱々しいものであったが舞美が優しく手の平で包み込むように触るとほのかに温かった。

 

 舞美は以前、瀕死の魂を治癒したことを思い出しその白く光る玉を腕輪をはめている右手に乗せてみた。すると弱々しかった光が『ポポォ』っと輝きを取り戻した。そして舞美の頭上にふわふわっと舞上がりクルクルクルと跳ね始めた。まるで喜びを表現しているかのようであった。

 そしてその白く輝く球を見て又二郎が語った。


「ほほう、これは珍しい、こ奴は獣魂じゃ。久しぶりにみたのぉ」


「獣魂?」


「獣魂、すなわち獣の魂じゃ。獣は普通、命尽きると魂が現世に残ることなく、跡形もなく消えてしまう。しかしごく稀に現世に残る事があるんじゃ。こ奴に悪気は感じられん。おそらく余程、現世に未練が残る事があったのだろう」


 舞美は、その白い球を愛おしく撫でながら


「お前は自由だよ。どこにでも好きなところにお行き」


 と言いながら空に返し帰路に着いた。しかしその獣魂は舞美の傍を離れようとはせずふわふわと漂いながら舞美の後を憑いてきた。


「悪気はないとオジイは言っていたけど……憑(着)いてくるよぉ……困ったなぁ」

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