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纏物語  作者: つばき春花
水上村の化猫編
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其之漆拾陸話の一半 神一縷

今話、『其之漆拾陸話の一半 神一縷』は、第参章へのプロローグ話となっています。第弐章も最終話が近づいています。是非第参章にご期待頂き今後ともご愛読の程、よろしくお願い致します。


活動報告にもお越しくださいませ。



「おぉぉいっ!一縷ぅぅッ!」


遠くから女の子が大きく手を振りながら駆け寄ってくる。その声に振り向いた女の子の名は神、神一縷小学六年生。


長い髪はおさげ髪、丸顔に黒ぶち眼鏡、背丈は同級生に比べると低め、どちらかと言えば華奢な体つきである。ぱっと見、真面目で勉強がも出来そうだが……どちらかと言うと勉強は苦手で母親に似て多少口が悪い。


「おはようぅ!純!」


「ハァハァハァ………おはよっ一縷!……はぁぁぁ……ねぇねぇ、この前約束したあれ、今日がその日だよねッやってくれるんでしょ!?」


駆け寄った女の子は、一度大きく息を吸い込み、呼吸を整えながら少し興奮気味に問いかけた。一縷は、女の子のその問いに顎をクイッと上げ、得意げに返事を返した。


「もちのろぉぉん!早希ちゃんの事でしょ⁈この一縷様!約束した事は必ず守る!だけどみんなには内緒だよ」


「ハハハッ!もちのろん!?なぁにそれ!?分かってるって、誰にも絶対言わないよっじゃぁ放課後屋上でねっ!」


そう言いながら教室の前でお互いに手を振って別れた。彼女の席は廊下側の一番後ろの席だ。ランドセルを机の上に置き席に座ると教科書を取り出し机の中に片付けながらきょろきょろと辺りを見渡した。そして誰も自分を気に掛けていない事を確認すると、ファスナーを開け両手で白い綺麗な布を取り出した。


其れは真っ白で艶やかな絹で作られており、表には小さいお札のようなものが張ってあった。一縷は、その布を机にの上に大事そうに置くと姿勢を正し、それに向けて一礼をした。そして両手を使い丁寧に一枚づつ捲り始めた。


その布のに包まれていた物は……指輪…赤く煌く指輪…一縷は其れを左の親指と人差指を使い取り上げると右手の人差指に差し込んだ。


すると不思議な事にその指輪は、一縷の細い指に合わせるようにキュッと締まり、それと同時に一縷の瞳がほんの一瞬だけ、白銀に変わって元に戻った。そして両手を胸の前で組み静かに呼吸を整えた。


「すぅぅ…はぁぁぁ…すぅぅぅぅぅぅ………………はぁぁぁぁぁぁぁ……」


呼吸を整え終え、静かに目を開ける。その瞳に映るもの…其れは異世界の者、幽霊?妖怪?いや、この物語の中では『妖者』……と呼ばれる者。だが一縷の目に見える者、その殆どは、まだ無の者…放っておいてもいい者達だ。しかし極稀に人に害をなす者が一縷の周りにも現れる。



【お祓い少女】


そしてその日の放課後、約束通り屋上へ上がる、すると二人の少女が一縷を待っていた。一人は今朝の女の子、純。もう一人は純の友達で早希、髪の短い女の子で一縷の友達ではなかった。早希は、痩せていて何処となく顔色が悪く時々『ごほっ…ごほっ…』と咳き込んでいた。


一縷は屋上の入り口で立ち止まりゆっくりと扉を閉めながら暫くその女の子を見つめた。


一縷の眼に見えていたもの…其れはどす黒い体を持ち、鋭い牙が生え揃う口は耳まで裂け、目玉がギラギラと光る獣のようなもの、その獣が早希の背後に取り憑いているのが見えていた。


そして少しづつ二人に近づきながらその歩みを次第に早めていった。


『タッ…………タッ…………タッ……タッ……タッ…タッ…タッ…タッタッタッ…タタタタタタタタッッ!!』


そして走り近づきながら大声で言い放った!


「二人ともぉ!後ろ向いて目を閉じてぇ!!」


その声の余りの大きさに驚いた二人は、目を瞑り肩を竦め一縷に背を向けた!


一縷は左手を腰に当て右手は逆手で腰に当てた、其れはまるで侍が腰に刺してある刀を握る様な仕草だった。そして二人の側まで近づくと腰に当てた右手を二人の頭上に向け振りぬいた!


『シュッ……』


かすかに空を斬る音が聞こえた……その後…ほんのりと桜の花の匂いが辺りに立ち込めた。


何かに怯えるように立ち竦んでいる二人に一縷は、優しく声を掛ける。


「もう…いいよ……」


「お……終わったの……一縷?」


「うん!終わったよ!」


二人は恐る恐る目を開け、一縷の方を向いた。そこには満面の笑みで佇む一縷の姿。早紀は安堵のせいか足の力が抜け、その場にペタッリと座り込み半べそをかきながら話し始めた。


「私……私……最近怖い夢ばっかり見て……そのせいで夜も眠れないし……ご飯も全然おいしくなくて……もう……もうきつくて…ぐすっぐすっ……もう本当にどうにかなりそうだったっの…だから……だからぁ……ぐすっえっえっえっぐすっ……」


緊張の糸が切れたのか座り込みながら涙を流す女の子。一縷はその女の子の前に近づきゆっくりと正座をして語り掛けた。


「早紀……さん、もう大丈夫、大丈夫だから!」


「一縷……さん…本当に……本当にもう大丈夫なの?本当にもう怖い夢を見なくなるの?怖い事が起こらないの?」


「うん!!だからこれからいっぱい食べて、いっぱい寝て!早く元気になってねっ!」


「ありが……とう……一縷……さん」


女の子はお礼を言いながら再び泣き崩れた。



早紀は一縷の友達、純の幼馴染であった。


ある日、二人が廊下で話している所に通り掛った時の事、何も知らないはずの一縷が早紀の様子がおかしい事に気付き、その話に割って入り事情を聴くと、最近怖い夢を見たり家の中で変な物音や叫び声が聞こえ、家族全員眠れずに困っているという事を早紀が涙ながらに訴えた。その話を聞いた一縷が『助けてあげる』と買って出て今日に至ったのだ。もう精神的に限界だった早希は、疑う事もなく藁にも縋る思いで一縷に縋ったのだった。



そしてそらが夕日で赤く染まり始める中、帰路に就く一縷……その達成感に、一人にやにやしながら歩くその足取りは軽い。


(いやぁぁぁぁぁ良い事をした後は気持ちいいなぁぁぁぁぁ!)


『ガラガラガラガラ!!!』


「ただぁぁぁい…………ま……」


意気揚々と帰宅し勢いよく玄関を開ける一縷、しかしそこにいたのは…剣道着姿で腕を組み、仁王立ちする母の姿だった。一縷は、絶句し一瞬で体が固まった。何故なら目の前に立つ母親のその顔…それはまさに鬼の形相、本人も心当たりがあるのか何も言えない。


「お…お...ぉ..ぉ...ぉかぁ...さ...ん...たた...ただ...ぃ...ま...かえり...ましたぁ...ハハ...」


母親はしばらく沈黙した後、顎をくいっと上げ、上から睨みつけながらゆっくりと喋り出した。


「一縷…貴方…また指輪を持ち出したのね...人前に出してはいけないと、何度言ったらわかるの...一縷」


(ひっひぃぃぃ!お母さんここここわいいいぃぃぃ!!)


「ああああのね、とととと友達がねねねね眠れなくて困ってるって、そそそそ相談されたから、たたた助け...て...あげ...た...のぉぉぉ...ごめんなさい...」


「一縷...今すぐ着替えて、道場に来なさい...」


そう言い放つとくるっと後ろを向き静々と廊下を奥へと歩いて行った。


「は、は、は、は...はいっ!!!」


自宅の隣には、私設の剣道場、武道館があった。看板に掲げてある道場名は「神武館」一縷の母親はこの道場の師範であり館長だった。


そして今から行われるのは、神武館流乱取りである。


これは母親との掛かり稽古で母から三十分間の間に三回当てる事が出来れば指輪を譲ると言う約束の元行われる乱取りという名のしつけだ。しかし未熟な一縷が母に当てる事など出来る筈もなく、何時も倒れて動けなくなるまでボコボコにされる。


『ドガッッドゴッ!ドゴゴッ!」


「うげっおがっぐわっうあっぎゃぁぁぁぁ!!いたぁぁぁぁぃ!!たたたたすけてぇぇぇ!!」


休む事も倒れる事も許されず、結局三十分後、ようやく倒れる事を許してもらえる。(この扱きに三十分も耐える一縷も凄いが……)


「一縷、終わりますよ…挨拶を……」


涼し気な表情で終わりを促す母。


「は...はひ...はい...ひぃひぃひぃひぃ...せ、せ整れれれれつぅぅ!!せせ正座ぁぁぁ!!」


一縷は、体中の痛みに耐えながら体を起こし、何とか立ち上がって息も絶え絶え号令の声をあげる。


「瞑想ぉぉぉおおぉぉぉぉおぉ.........止めぇぇ、先生にっ..礼!...正面に...礼!!」


よたよたと立ち上がり、先生である母に歩み寄り正座をする。疲労困憊の一縷の目をじっと見つめ少しの笑みを浮かべながら優しく語り掛けた。


「一縷……今日祓ったのは…何?教えて…」


何時も指輪を何で持ち出すのか…その理由すら聞かなかった母親が問いてきた。


「は祓う?あっは……ははは、はい…何か……こう……獣の様なぁ…狐…の様なぁ…なんか黒い煙に包まれていた気味の悪い者……でした…」


初めて聞いた『祓う』と言う言葉、母親が続ける。


「貴方は……あの指輪が何か……知っているの?」


先程とは打って変わって優しく語り掛ける母……思えば一縷は、この指輪が何なのか、なぜ他の人には見えないのか、指輪を付けた自分に、見えているのは何か、何一つ分かっていなかった。


「い……いいえ……知りません。でもあの指輪をつけると、何というか…うぅぅんとても、とても安心するのっ!例えるならぁぁ……そう!お母さんが後ろに居て『頑張れぇぇ!』って応援しているような感じ!だからいくら目の前に怖い奴が出てきても大丈夫なんだッ!それに…最近指輪をつけている時声が聞こえるようになったの………」


「声?」


『そう!!声!可哀想な子が私の傍に来たりすれ違ったりすると…頭の中に聞こえてくるの……声が…とても優しい声が………あの子が困っている、助けてあげてって……」


そう言い終るや否や母親は一縷を抱きしめ、呟いた。


「一縷……貴方には……やはり東城家の……古の神守の血がしっかり……流れているのね……」


「東城……家?私の……この力が?」


そして一縷の目をしっかりと見つめながら続けた。


「そう……私には余りその才能はなかったんだけど……貴方は東城家の、その力をしっかりと受け継いでいる…それはとても素晴らしい事……でもその力は貴方を幸せにも不幸にもする。その力を授かった人達は…そのお陰で、とっても……とっても辛い思いをした事もあった。だけど……とっても……とってもとっても!!幸せで楽しかったと私は思っているの!」


遠くを見つめながら何かを思い出すように語る母……


「この指輪……あなたに…一縷に譲ります。これから先、きっと貴方を正しい方へ導いてくれる!でもこれだけは約束して!私みたいに無茶をしないで自分を大切にして!もし貴方に何かあったら優や舞美おばちゃん、そして嫗めぐみさんに申し訳ないからねっ!」


「お母……さん……」


「それと、覚えておいて……貴方が持つあの刀の銘は……平野……平野藤四郎…邪悪な妖者を祓う刀…」


「妖者を…祓う刀…」




纏物語 第参章 月姫と月読尊


近日連載開始です、ご期待ください


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