其之漆拾伍話 黒と銀
「私は…お前を祓う者……白銀の…鬼姫……」
冷たい眼差しで黒鬼を見つめ呟いた。
「白銀の……鬼姫…だとぉぉぉ…『ギリッ!ギリギリギリギリッ…』」
黒鬼は鬼姫を睨み、呟きながら激しく歯軋りをした、しかし直ぐに落ち着きを取り戻し呼吸を整え、優を見下すような口調で言い放った。
「すぅぅぅぅ………………。ほほぉぉ…………どうしてどうして……何故お前が正気を取り戻したのか…そして何よりもっッ!虫唾が走る正義を振りかざすその姿…ますます気に喰わん……………何人たりともォォォ!!私の邪魔はさせんぞっッ青井優!」
そう言いながら両腰にある歪な二刀の刀を抜いた。その刀は蛇の様に海練、闇の様に漆黒、更にどす黒い瘴気が纏わりついている。
「獄漆黒炎刀……呪蛇炎斬!」
そして振りかざしたと同時に瞬で斬りかかってきた!
『ガキィィィン!!』
月下の刀で迎え撃つ優、刀と刀がぶつかる凄まじい金属音が辺りに響く!
『ガギンッガギッガギッガギンッ!ガガガガギンッ!ギリリッギギギギギッ……』
怒涛のごとく黒鬼の二刀剣技が炸裂する。しかし優はその連技を難無く抑え込み、鍔迫り合いに持ちこんだ。
しかしその時、黒鬼が薄ら笑みを浮かべたのを優は見逃さなかった、すぐ様黒鬼の刀を振り払い間合いを取った。
よく見ると黒鬼の後ろに黒い影が沸き立っている、その影は次第に形を成し最後には無数の大蛇となった。もし間合いを取っていなかったならこの大蛇共に巻き付かれていただろう。
「クックックッ……惜しいのぉ…………もう少しでお前の御魂をこの者達が喰らい尽くすところだったのに……惜しいのぉクックックッ……」
不敵な笑いをする黒鬼、しかし無表情で…瞬き一つせず返した言葉は……
「……私にそのような幼稚で醜い小細工は効かない……もう少し知恵を出したらどう?」
相手を馬鹿にするように言い放った優。どうやら黒鬼の炎の様な怒りに油を注いだようだ、両腕を振り上げ怒りを露にし怒鳴り散らした。
「何んだとぉォォォ!!この小娘がぁぁぁぁッ!!もぉぉぉ許さんぞォォォお前の身体をバラバラに引き裂いて地獄の蛆虫共の餌にしてくれるわぁァァァ!!!ゴァァァっッ!獄黒閻呪縛斬ッ!!」
黒鬼が二刀を地面に突き立て力の限り一閃する!
『ゴガガッゴゴゴッバッガァァァンッ』
轟音とともに地面が裂け、それと同時に黒炎が立ち昇り激しい渦巻となる!そして裂けた地面がバラバラと崩れ地獄の門が開かれた!その奥底に見えるのは煮えたぎる血の池地獄、その中で苦しみ蠢く亡者共の姿!その者達が顔を歪めながら恨めしそうに両手を掲げ、生者の魂を欲している。
「そぉおら亡者ども!こ奴を喰らった者はその苦しみから逃れられるぞっ!!」
黒鬼がそう言いながら刀の切っ先を優に向ける。
『ううぅぅぅぅぅぅ…………あぁァァァ……おぉォォォォォォ…………あぁァァァァァァァァ…………』
その声が聞こえるや否や不気味な叫び声と共に地の底から何十本、何百本もの亡者共の手が優めがけ伸んで来た!
『うおおおおおおおおおおおおん…………』
優は迫りくる無数の手に微動だにせず佇んだままだった……亡者どもの手が我先にと次々に優を掴み、あっという間に身体が亡者どもの手に包まれ巨大な球体となった。
亡者共は、凄まじい力で優を…白銀の鬼姫を地獄の底へ引きずり込もうとする。




