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纏物語  作者: つばき春花
水上村の化猫編
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其之陸拾捌話 糧

 ここは宮崎県高千穂町、九州山脈有数の高い山『祖母山』の中腹にある人々から忘れ去られ朽ち果てかけている社、その宮内に突如として陣が現れ、その中から一人また一人と宮司達が浮かび上がってくる。集まった宮司達は四人。


「このような辺境の社に我々を呼び出し、一体長は何を考えておられるのだ!話があるのであればいつもの社でよいではないかっ!」


「まぁそう言いなすな、西の守よ、何か重要な話がるのだろう。そうでもなければわざわざこのような陣を使い呼び出したりはしないであろう」


それを不満げな顔で聞き流す四人の宮司達は、社の中にある囲炉裏を中心に置いてあった座布団のような物に座った。


すると社内に突然甲高い音が鳴り響き、それと共に一際大きな陣が現れた。そしてその中心から南の守が少女と共に浮き上がってきた。


「ほっほっほ……皆様お集りのようで……ありがたやありがたや……」 


不気味に呟く南の守……しかしその姿はどうであろうか、長い髪はぐちゃぐちゃ、顔面蒼白で唇はまっ紫。およそ女性とは思われない程、乱れまくっていた。北の守がその変わり果てた南の守の姿を見て驚き、南の守に問いかける。


「み、南の守?!何だその禍々しい陣と童子は?!此れはどう言うことだっ?!長は?!長はまだ来ぬのかっ?!」


「長は…ここには来られませぬ…何故なら貴方方をお呼び立てしたのは私でございます故……」


俯き加減で不気味に呟く南の守に……



「其れにその童子……人の子ではないな……。なにより…隠そうともせぬその殺気……」


一早く身の危険を感じとった東の守は、そう言いながら右手を地面を指し示し『シャシャ』っと素早く陣を作り上げた。そして自身の妖者、鬼蜘蛛を呼び出した。それを見た他の宮司達も只事ではないと即座に陣を作り妖者を呼び出した。


「南の守、その童子……貴方の妖者か?」


その言葉を聞いた南の守の表情が一変した。顎を上げ睨みつけるように目を見開き怒りを露にしながら叫んだのだった。


「何を無礼なぁ!こちらに追わすお方は鬼弥呼姫ぞぉぉ!お主たちが気安くお声を掛けてはならぬお方じゃ!馬鹿者どもっ!!」


「鬼弥……呼様……だと?」


「そんなのはったりだ!鬼弥呼様がこんな……こんな見るも耐えない毒氣と悪氣を纏っていらっしゃる訳がない!」


「そうだ!鬼弥呼様は気高くお美しいお方だと聞く!主が鬼弥呼様と言う其の小童からは、鋭い殺気しか感じない!まるで今にも儂等に襲い掛かる勢いではないかっ!」


その言葉を聞いた南の守は俯き薄ら笑いを浮かべ宮司達に語り始めた。


「襲い掛かる勢いぃぃ? クックックッ……襲う?……言い得て的を得ていますよ……クックックッ……今から貴方方は鬼弥呼様の餌になっていただきますからねぇ…クックックッ……」


「なにぃ餌だとおぉ?!」


「邪な念を持つお前達宮司みやつかさは嘸かし美味であろう…」


「こ、この身の程知らずの青二才がっ!逆にお主らをこいつの餌にしてやるわっ!己の無力さを思い知れっ!鬼蜘蛛その二人を喰らうがよい!」


東の守が怒り叫ぶと、巨大な鬼蜘蛛が陣の中心にいる二人に向かって怒涛のように突進して行った!


『ガァァァ!!ドスドスドスドスッ!!』


「ホッホッホッ……愚かな……」


女童は舌なめずりをした後突進してくる鬼蜘蛛に向けてゆっくりと両手を上げた、そして次の瞬間その腕が伸び行きながらどす黒い鋭い爪を生やした巨大な腕に膨れ上がり掌が鬼蜘蛛をすっぽり掴んだ。そしてそのまま、まるで握り飯を握る様に包み込みその掌の中から……


『バリッボリッボリボリッバリバリボリッボリバリッ……』


不気味な音が鳴り響いた……。


そしてその両手が開かれると巨大な鬼蜘蛛の姿はなく真っ赤に地で染まった掌、その中心には鋭い歯が並ぶ不気味な口がばっくりと開いていた。


そして女童は後ろを振り返りそこに居合わせた妖者を次々に掴み餌食にした。


「ひっ…ひいいいっ!ばば化けものぉぉぉ!」


宮司達が恐れ慄き社から出て行こうとするが扉に呪札が張り付き開ける事が出来ない。


「あらあら……生きのいい餌です事……クックックッ……アハッアハハッハハハハハッ!!」



『惨劇』


それから間もなく優達三人が光の柱を目印にこの場所に降り立った。辺りは数メートル先も見えないほどの真っ暗闇だった。静まり返る森の中、社の中からは物音ひとつ聞こえてこない…。優は社の扉に手をかけ開けようとするが固く閉じられ開かない。


「美月!『ドンドンドンッ』美月!いるの?!美月ぃぃ!!『ドンドンドンッ』」


優は三歩下がり月下の刀を抜くと『シャシャッ』っと扉を斬捨てた。


「優っ!」


名前を叫びながら横っ飛びで優に抱き着きながら扉から離れた。と同時に扉の奥から巨大な腕が扉を破壊しながら飛び出してきた。あとほんの少し、避けるのが遅れていたら確実にあの腕の餌食になっていただろう。


「バギッバギバギバギッ!!バギッバギッバギバギッボキッボキッボキボキッ!!ズズゥゥゥン…』


そして扉付近を破壊したせいか、社の重い屋根の重さに耐えきれず次々に柱が折れ始め、社が屋根から崩れ落ち辺りが土煙に包まれた。


「美…月……美月……美月ぃぃ!!」


無我夢中で残骸の中に飛び込んでいこうとする優の肩を嫗めぐみが掴み、静止させた。すると土煙の奥に人影が見え始めた、それは南の守と女童…いや、背の高い女性…髪が長く色白の赤い着物を着た女が佇んでいた。そしてその女の口は真っ赤に染まり、真っ白い掌からは血がしたたり落ちていた。


「み…………美……つ………美……月……」


血まみれの…その女の姿を見た優は、愕然とした。それは美月がこの女に……この妖者に喰われてしまったと考えたからであった。そして優は、自分の体の奥底から今まで感じた事がない怒りが込み上げてくるのが分かった。自分で自分を制御できないほどの怒り……そしてその怒りが暴発する寸前、嫗めぐみが優を諭した。


「優っ!落ち着きなさい!怒りに身を任せては駄目!それに……あれを見なさい」


社の残骸の山の頂上に南の守の姿が……そしてその小脇に絨毯のように抱えられた神酒美月の姿があった。虚ろな眼は真っ黒く、長い髪はぐしゃぐしゃに乱れ、纏の襟元と口の周りは女と同じく血で真っ赤に染まっていた。嫗めぐみが呟く……


「この女……もはや人ではない、人を喰らって妖者になり果てたか……愚かな……」


「愚かな…?愚かなだとぉ?!愚かなのはお前達人の方だ!妬み苦しみ!恨み辛み!すべての諸悪の根源!人を喰らう妖者と何ら変わらない、いやお前達人間の方がよほど醜く浅ましい生き物ではないかっ!日ノ本に巣食うお主ら種惡の原因、お前ら人間を鬼弥呼様に淘汰していただくのだぁぁぁああははははっはっははぁぁぁっ!!そぉぉらぁぁぁ!鬼弥呼様!最後の生娘でございますお召し上がりくださいぃぃぃ!」


そう叫びながら気を失ったままの神酒美月を空中高く放り投げた。


「美月ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」


高く高く……宙を舞う美月の身体……それを追って飛び上がる青井優……とそこで美月が目を覚ました。


「優?」


自分が置かれている状況が分からない美月、しかし手を伸ばし必死の表情で近付いてくる優に向かって自分も手を差し伸べた。眼下から何かがものすごい速さで飛んでくる、美月それに気づいてはいるが避けるも何も、今は美月を助けるのが先だ……優はそう考えながらも無意識に右腰にある短刀『平野藤四郎』に手を添えていた。


(あと少し……あと少し……美月の手に……美月の手に…………お願い届いてぇぇぇぇ!!)


美月が差し伸べた手に……届いた!と思ったその…瞬間……


『バグッバキッ!!』


鬼弥呼の大きな口手が美月を……神酒美月を飲み込んだ。


「美月ぃぃぃぃぃ!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


優の悲鳴が夜空に木霊する。


圧倒的な鬼弥呼の惡氣に唯…立ちすくみ、その様子を下から見る事しかできなかった舞。


「なんなの……あいつのあの力は……圧倒的じゃない……こんな私じゃ…歯が立たないに決まってる」


完全に臆してしまい、戦意を失っている舞。するとその真横に『ドサッ』っと何かが空から落ちてきた。舞はその落ちてきた物をじっと目を凝らし見つめ…そして驚愕した。落ちてきた物……それは……短剣『平野藤四郎』を握った……優の左手首だった。


                                つづく……


次回予告……纏物語『其之陸拾玖話 蘇りし鬼姫」 


ご期待ください…

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