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纏物語  作者: つばき春花
水上村の化猫編
66/126

其之陸拾陸話 苦戦

前回までの「纏物語」は……


「何こいつ?! こんな醜い癖に動きが速い! 私の剣をすべて受け払うなんてっ!」


舞も山姥の余りの速さと怪力に驚いていた。優は、山姥から視線をそらさず、真っすぐ見据えたまま月下の刀を鞘に納めつつ舞に語り掛けた。


「舞……この妖者、でかい図体して相当手強いよ……。あの両手に持つ包丁もだけど…多分あいつは攻撃を繰り出しながら結界を張る事が出来るみたいだよ…しかもその結界は鬼一方眼のより分厚く堅そうよ…」


「結界って何?!私そんなの知らないよっ!」


「すべての攻撃を防ぐ見えない盾のような物よ……鬼一方眼並みの力と速さ……いやそれ以上か……。でも大丈夫………私が何とか結界を壊すから舞は、私に続いて来て…いいね」


「分かった、続けばいいのねっ、爆焔!」


そう言うと優は身を低くし抜刀の構えを取り、その後ろで舞は焔を纏った剣を脇構えで構えた。


「行くよ………天狗…弁慶…私に……力を貸せ……」


そう呟くと一気に山姥目掛け一直線に突っ込んでいく優と舞!


「おおおおりゃぁぁぁぁぁ!!!円神斬ン剛ぉぉぉぉ!!」


優の身体が縦に分身し、それが代わる代わる斬り付ける。山姥は包丁を交差させ、幾重もの結界を張り優の攻撃を防ごうとした!


『ガキィィィィン!!!ガキガキガキン!!パンパンパンパンパリィィィン!!」


しかし二重三重にも張った山姥の結界は、優の持つ真・月下の刀によって切り壊された!


「舞!!」


「そらきたぁぁぁぁぁぁ!!!爆焔乱舞ぅぅぅ!!」


『キキキキキキン!ズバッ!!ボボボボボォォォォンッ!!』


固い山姥の身体の一ヶ所を寸分狂わず斬り返し、遂には体を真っ二つに斬り捨て、斬られた二つの身体は宙を舞いやがて爆焔に包まれた!


「よっしゃぁぁぁ!!やったね優っ!!」


しかし……喜んだのもつかの間……振り返った舞と優は、愕然とするのであった……。

【分裂】


舞に斬られ、火焔に包まれながら宙にまう二つの斬り捨てられた山姥の身体、二人はこの戦いの勝利を確信し次の敵、地上にいる女宮司に視線を移した。


しかし女宮司は腕を組み、不敵に笑いながら優と舞に言い放った。


「フフフッ……おやおや? お二人さん……私の妖者に背を向けてもいいのかい?」


その言葉に『はっ?!』っと後ろを振り返った、そして二人は目に入った光景に驚愕した!


それは、斬って火焔に包まれた二つの身体の破片が、柔らかいゴムの固まりの様に『グニュッグニュッ』っと動き出したかと思うと頭、体、腕、足が形作られ、ついには巨頭から『バザザッ!』と乱れまくった白髪が生え山姥の姿になった、しかも二体に増えた!


「こ、これはっ?!……こいつ分裂したぁ?!」


「ゴガァァォァァァァ!!アガガガッ!!」


不気味な叫び声を上げながら怒り狂った山姥達が両手の出刃を振り回しながら二人めがけて突っ込んでくる!その動きは一手目よりさらに速く、一撃一撃が重く強力だった。


『ゴギンッ!ギンギンギンギンッ!ギギギッギギギッンッ!!』


鋼鉄と鋼鉄がぶつかり合う気色の悪い音が辺りに響く。


「舞!一旦後へ下がるよっ!」


「下がるって何処に下がるって言うんだい!下がらしてくんないよっ!」


山姥の攻撃に防戦一方の二人、しかもその攻守に全く隙がない。優は攻撃を受けながら鬼一方眼から得た神力を使い、結界を張り巡らせ何とか間を取ろうと試みるが、山姥が繰り出す出刃の一撃で呆気なく粉砕されてしまう。


(こいつの動きを止めないと新たな纏を纏えないっ!何とかしないと二人ともやばい!)


そう考えていると突然、頭上から激しいいかづちが目の前の山姥を直撃した!


『バアアァァァァァァンッッ!!バリバリバリバリッッバァァァァァァン!!」


「ぎゃ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」


『ババァァァンッ!!』


山姥が絶叫したと同時に爆炎が上がり一瞬で真っ黒に焦げになった。そして白目をむき、口をあんぐりと開けたまま白煙を伴って地上に落ちていった。そして頭上から嫗めぐみがゆっくりと舞い降りてきた。


「めぐみさん!?もうっ!来るの遅いよっ!!」


優の声に全く反応する事もなく、神楽鈴を舞と交戦している山姥に指し示した。


『シャンッ!!』


神楽鈴が青白く光り出し『パリ…パリ…パリッ』っと乾いた音を立て始める、そして左に振りかぶり山姥目掛けて振り抜いた!


『バアァァァァンッッッ!!』


「ぎゃぁぁぁぁぁぁああ!!」


凄まじい轟音と共に雷が山姥の巨体をピンポン玉の様に軽々と弾き飛ばした!


「こらぁぁっ!!嫗めぐみっ!私まで雷に巻き込まれる所だったぞっ!馬鹿ぁぁ!」


「あら……ごめんなさい。それにしても…」


嫗めぐみは、呟きながらまっ黒く燻る二体の山姥から視線を逸らせずにいた。


「なんて邪悪な……禍々しい妖者…とても人が作り得た妖者とは思えない……」


すると黒く焦げた二体の山姥の体が空中でピタッと止まり、先程と同じくゴムの塊のようにぐにゅぐにゅと蠢き、それぞれが二つに分裂し始めた。


「ま…まさ…か、また…増えちゃうのぉ?……」


顔が引き攣る二人……


斬られていない山姥の体が再び分裂し、四人の山姥が再び三人の前に立ちはだかる。どうやら身の危険を感じる程の攻撃を受けると分裂する仕組みのようだ。


静かに女宮司を見つめる嫗めぐみ。その視線に気づいたのか、ギリッギリッと歯ぎしりの音をさせながら女宮司がめぐみを睨みながら恨めしそうに呟く…。


「彼奴は嫗千里乃守……(ギリリッ)おのれぇぇぇ…我ら宮司の面汚しめぇぇぇ……(ギリッ)お前も愛しいあのお方の生贄としてくれようぞ……」


嫗めぐみは女宮司からの只ならぬ殺気を感じ取っていた。そしてもう一つ気になる事が……


「私が気がかりなのは…あの宮司の陣……あの陣の中から感じる気配…あの中に潜む何者かの気配か……」


「クックックッ……そぉぉらぁ!!どうした青井優!!もうちょっと頑張ってもらわないとねぇぇぇ!!…クックックッ…アアハハハハハッ!!そらぁ喰らえっ喰らってしまえぇぇぇ!!山姥共!!」


そして一体の山姥が舞に、三体の山姥が舞に襲い掛かる!


「亀纏!鋼亀轟拳!」


増殖する隙に玄武の纏を纏い、山姥を迎え撃つ優。凄まじい山姥の怪力に対抗するには玄武の力しかないと判断した優は斬りかかる山姥の出刃を鋼鉄よりも固い拳で振り払い強力な蹴りを入れ吹っ飛ばす。分裂を繰り返しているせいか互角だった山姥の動きよりも優の方が若干勝っていた。


斬ってしまえばまた分裂する、しかしこれ以上増やしてはいけない、防戦一方の三人。陣を壊すのが一番の策であるのは分かっているが強力な結界と山姥に阻まれとても女宮司の元迄たどり着けない。そうこうしているうちに……。


「おりゃぁぁぁぁぁ!」


『バッボォォォォォォン!!」


「あ...し...しまった...」


痺れを切らした舞の剱が山姥を真っ二つに斬り、同時に勢い余って腕と足も斬ってしまい更に七体に増やしてしまった。


「あぁぁぁぁぁ!!!もおおっ!何やってんのよバカ舞っ!」


「バ、バカとはなによっ!バカとはっ!」


しかし圧倒的に有利になったはずの山姥達の動きが七体に増えた直後から何故か急に鈍くなった。三人が互いに背を合わせ七体の山姥に囲まれ睨み合う。


「どうしたんだろ、こいつ等、急に動きが遅くなった!」


「どうもこうもないよっ!きっと分裂しすぎて頭ん中が空っぽになったんじゃないのっ?!」


「めぐみさん……どう思う?」


「そうね……さっきまで怒涛の様な攻撃からの、この静寂……あの宮司、妖者を使って何かを狙っているのは確かね。それが何か……分からない内は舞、優…絶対に三人離れては駄目よ……」


陣の中心に腕を組み鎮座する女宮司を警戒しながら嫗めぐみが呟く。とその時、山姥達が一斉に右手の出刃を頭上に掲げ、それに左手の出刃を『ガギンッ!』と擦り上げ火花を散らせた。


「!いけないっ!優、舞避けて!!」


『バリバリバリバリババァァァァァァンンンッッ!!!!』


頭上から三人目がけ一筋の凄まじい爆雷がくうを斬って落ちてきた! 嫗めぐみの咄嗟の判断により三人はそれを避ける事が出来たが、三人が四方へ散りじりになってしまった。


「しまった!!舞っ!後ろぉぉ!!」


優が叫ぶ! 三体の山姥が舞の背後から襲い掛かって行った、優も嫗めぐみも間合いから遠ざかってしまい助けに行く事が出来ない!

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