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纏物語  作者: つばき春花
水上村の化猫編
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其之陸拾弐話 神守を継ぐ者……再び参上 

 ここは、高塚山中腹の山奥深くにある怪しげな者達が集うやしろ。高い木々が生茂り、その天にも届きそうな木々は日差しを遮り、日中にも関わらず足元が薄っすらとしか見えない程の暗い山奥にある社であった。


「我等が長よっ! 鬼弥呼復活の為には、青井優の持つ清き力がどうしても必要だった! しかぁし! それを奪うどころか逆に五珠を三つも失ってしもうた! 失った三つの五珠のありかを探し出し、再び奪い返すのは至難の業である事は明白! これからどうするおつもりかっ!」


「南の守よ……そういきり立ちなすな……」


「ほほぉぉ……流石、青井優に妖者を祓われた北の守がおっしゃる事は、説得力がありますなぁぁ……ハハハハハァァ!」


「くっ……な…なにぉぉ……」


 拳をぐっと握り絞める北の守……そこに長が割って入る。


「お二人とも……お止めなさい。南の守よ…北の守の妖者、武蔵坊辨慶は決して……弱くはない、むしろその妖力は、青井優を上回っていた……筈でした。鬼一法眼もしかり……剣技も妖力も遥かに青井優を凌いでいた。なのに……なのに……クックックッ……見事に祓われてしまった……素晴らしきその力……クックック……」


「我らが長! 何を言っておられるのだっ!」


「いやいや………失礼した……」


「もうこうなれば五珠など関係ない! 我等が目指すは、鬼弥呼姫の復活! 日ノ本の統一! そして打倒青井優!! あの胸糞悪い小娘に一矢報いねば、私の気が済まぬ!! 失礼する!!」


『ドガッバタンッッ!!』


 そう言いつつ、南の守は、騒がしく社を出て行った。


「おのれぇ…おのれ…おのれおのれぇぇぇぇ…青井優!許さん、許さんぞっ!!!我等の……私の鬼弥呼姫! 例え我が身が尽きようとも、必ず、必ず復活させようぞっ!!」


 そう呟きながら早足で社を後にする南の守。恐らく次の相手は、この南の守が差し向ける妖者であろう……いったいどの様な悪しき力を持った……妖者であろうか?

 水上村で化け猫と対峙した日から数ヶ月が過ぎた。これまで強大な悪しき力を持つ妖者を苦しみながら、時には悲しい思いをしながらもなんとか討ち祓ってきた。その戦いの中で新たな神力に目覚め、纏い始めた当初とは、比べ物にならない程の強力な神力を授かった今でも、毎夜の修練は欠かさない優であった。


 しかし…その新たに授かった神力のひとつ『桜華の纏』…それだけは……あの日以来……自分の意思では纏う事が出来なくなっていた……。



【進級、新学年、新学期、転校生】


 4月になり優も無事に2年生に進級する事ができた。優の学年は、全部で6クラスあり1組から3組までが商業科だが国立大学を見据えた授業を行う進学クラス、4組から7組までがPCを駆使するIT情報クラスA、そして主に卒業後即戦力で就職を目指すIT情報クラスBの8組と全部で8クラスあった。


 優は卒業後、就職して地元人吉球磨地方に貢献したいと思い、IT情報クラスBを選んだ。しかし両親は優に、大学へ進んで欲しいと説得している。


 クラス発表の日、嫗めぐみは成績優秀だったが何故かAクラスを選んだ。何故なら御魂である嫗めぐみに大学や就職という概念がなかった。しかもめぐみには、そういう事には、まったく興味がなかった。それと優の親友、神酒美月は当然、進学クラスの1組になった。


「優も一緒に進学クラスに行こうよ!」


 と美月からしつこく誘われたが……優がそういう出来た頭脳を持っている訳もなく…軟らしく断っていた。


 しかし……あの忍び装束の女……そう優を本気で祓おうとした般若の面を付けたあのくノ一の事だ……その正体は、間違いなく神酒美月だった……。その事を優は美月に問い質そうとはしなかった…何故ならその事があった後も、美月の様子は、いつもと変わない美月だったからである。


 あの時……私を祓おうとしたのは…美月ではなく別人……そう自分に言い聞かせている優であった。




【ライバルは青井優】



 優のクラス、8組の担任は剣道部顧問の立道先生だった。その立道先生、最近何処か様子がおかしかった。気のせいかもしれないが気が付くと先生がにやにやしながら優をみつめていたり、いつもはやりたがらない私とのかかり稽古を誘ってきたりと、先生の動きがとても怪しかった。


 そして新学期が始まって2日目の事、朝のホームルームの時間の事だった。


『ガラガラガラ!』


 扉が開いたと思ったら先生が顔を出し『キョロキョロ』と室内を見渡すと何故か私の顔を見て『ニヤリ』と顔が綻んだ。


 『つかつかつか』っと歩み教壇の後ろに立つと咳払いを一つした後、話し始めた。


「ごほんっ! えぇぇ皆さん! 突然ではありますが転校生を紹介します!」


「ええええぇぇぇぇぇっっ!!」


『ざわ…ざわ…ざわざわ、ざわざわ…」


 教師からの突然の発表にざわつく生徒達。しかし優は、転校生の事には全く興味がないらしく、頬杖ついて外を眺めていた。


「こらこら、皆ざわざわしないの! じゃぁ舞さん、入って!」


 先生が手招きをすると、廊下から元気な返事が返って来た。


「はいっ!」


(ん…? 舞?)


 聞いたことのある名前にふと、前を見る…。するとそこに居たのは、井桁…舞……なんと、あの井桁舞だった!


(うわぁぁ可愛いなぁ…なかなかいいんじゃ…ほっそおぉぉい…髪きれい…)


 舞は、チョークを持つと黒板に向かい『カッカッカカッカカッ』と自分の名前を書き前を向き直すと大きな声で言い放った。


 「名古屋からリハウスしてきました!井桁舞です! 好きな事は剣道! 特技は剣道! そして、ライバルは、青井優です!!」


『おおおおおおお………なに…知り合いなの……ライバルは…優だってさ……宣戦布告みたい…クスクス……』


 教室内がどよめき、皆の視線が一斉に優に向く。


(この馬鹿!……何言ってんのっ!!)


 優は、顔が真っ赤になったのがバレないように机に顔を伏せ、寝た振りをした。




【私ってカワイイでしょ!】


 授業が終わり放課後、優は帰りの挨拶が終わると誰よりも早く教室を出た。すると、後ろから優を呼ぶ声がする。


「優ぅ!優ぅ! 優ったらぁ! 待ってよぉ優ぅ!」


 井桁舞が優の名前を連呼しながら、走って追いかけてきたが無視して早足で歩き続ける。そして優は舞に追いつかれると、ぴたりと立ち止まってくるりと振り向き言い放った。


「ちょっと! 馴れ馴れしいんじゃない!優優って! 従姉妹と言っても私はぁあなたの事、知らないし!この間なんて私に向って本気で斬りつけてきたじゃない! まぁその後ボコボコにしてやったけどねっ!」


 優は、鬼の形相で言い放った。しかし舞は、怒っている優に向かってお構いなしに……


「まぁまぁ! 従姉妹同士だからいいじゃないの! 色々あったけど、過ぎた事だから気にしないで仲良くやろうよ! これから一緒に住むんだし、ねっ優!」


「!!?えっ……?えぇぇぇぇぇぇっ!一緒に住むぅぅ!?」


 それは今朝、優が学校に出た後の事。青井家に掛かってきた一本の電話から始まった。


「はい、青井です…ああ!恭一郎おじさん!お久しぶりですぅ…えぇ、みんな元気ですよ、どうしました急に? へぇぇぇ…舞ちゃんが特待生で人吉商業高校に転校する…? え?もう転校した……うんうん……き、き、今日からぁ?!」


 恭一郎の電話だけで『舞を今日からお願いします』と言う言葉に戸惑う母さくら、しかし母舞美の弟の頼みを無下にする事も出来ず、夫の了承を取らずに引き受ける事となった。


 井桁舞は、剣道インターハイ成績が個人で全国4位と言う実績を引っ提げて人吉商業高校に特待生として転校してきたのだった。


「一緒に住むって……だ、大体何でこの高校に転校できたのよっ! お、おかしいでしょ!」


 優の質問に答えず、スカートをひらひらさせてその場で舞い踊っている舞。


「私が通ってた城鶴高校は、私立高校だから辞めようが転向しようが私の勝手なの! にしても、ここの制服ってとってもカワイイ! 気に入っちゃった! 特にこの赤い大きなリボン! どお、似合うでしょ? 私ってカワイイから!」


(どお、似合うでしょ? 私ってカワイイから? ふざけんじゃないわよっ!)


 優は『プイッ』と舞いに顔を背け、武道場へと急いだ。 


「あぁぁ!? 待って待ってよ! 優! 一緒に行こうよっ!」


 早足で歩いて去ってゆく優を舞は、再び走って追いかけた。



                                つづく……

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