其之伍拾玖話 祓う力
お詫び……
度々のお詫びになってしまいますが、前話の次回予告と今話の内容が違っています。
書いておりますうちに予告した文章にたどり着く前に三千文字を超えてしまい、止むなく切って投稿することにしました。
ご了承下さいませ、そして……ごめんなさい!
宿泊する施設は、水上山荘湯の山。古民家風の建物でいかにも田舎の温泉旅館と言う感じだが施設内は、最近改装工事を行ったらしく、現代風にアレンジされ、お洒落にまとまっている。
バスから降りた剣道部御一行、一旦ロビーに集まった後、顧問が話し始めた。
「『パンッパンッ』はいはい皆! よく聞いて! 各班鍵を貰って部屋に荷物を置いたら……三十分後、ジャージに着替えてここに集合ね!分かったぁぁ!?」
「はぁぁぁぁい!」
何の疑いもなく返事をする生徒達。
各班の代表がチェックインを済ませ、部屋の鍵をもらう。優は、同じ一年生同士の班で四人部屋となり、夏木鈴子も同室となった。
「優! 同じ部屋だね! お菓子まだ沢山あるから後で食べようねっ!」
再び満面の笑みで話しかけてきた鈴。
「ありがとう! でも本当に鈴は、お菓子がすきなんだねっ!」
「うん! ひょっとしたらご飯よりお菓子が好きかも! ずっと食べていられるんだよねぇはははっ」
そう言いって笑いながら頭を掻いている。
そして三十分後、ジャージに着替えロビーに集合した部員達。そこで部長の岸谷未来が手を挙げ、質問した。
「先生! ジャージに着替えて何するんですかっ!」
「あれ? 言ってなかったっけ……この先にある水上スカイヴィレッジにトレーニングに行く事を? あれれぇぇ?」
わざとらしくごまかす顧問。
「えええええぇぇぇぇぇぇ!!!」
と生徒達の落胆と驚きの声が上がる。
「何言ってんの! ここに来た目的は、合宿よ! これすなわち修練なり! 行っておくけどあの青山学院大学も水上村で合宿したんだからね! さぁさぁ文句を言わずバスに乗った乗ったぁ!!」
そう言いながら先陣を切ってバスに乗り込む顧問。ブツブツ言いながら顧問に続いてバスに乗る部員。
優もそれに混じってバスに乗り込もうとステップに足を乗せた…その時……。
『ミャァァァ………………』と子猫の鳴き声が聞こえた……。
優は、足を乗せたまま『えっ?』と後を振り返り、辺りを見渡した。
「どうしたの?……優?」
後にいた鈴が優の顔を見ながら問いかける。優は、辺りをキョロキョロしながら答えた。
「い、今子猫の鳴き声がしなかった?『ミャァァ…』って?」
「えっ?子猫の声? うううん……私には聞こえなかったけど……気のせいじゃない?」
鈴も辺りを見渡しながら優を諭した。
「そっか……そうよね、こんなに車が通る所に子猫がいる訳ないよね!」
そう言いながらバスに乗り込んだ優と鈴。そしてバスは、水上パークビレッジへと出発した。
宿泊施設を出て国道388号と国道446号が重複する不思議な国道を上っていく事約三十分、水上パークビレッジに到着した。他の部員達が足取り重くバスを降りる中、何故か鈴だけは浮かれていた。
「どうしたの、鈴?妙に浮かれちゃって!」
優が問いかけると、これまた満面の笑みを浮かべながら答えた。
「私、小さい頃から走るのが好きで男の子に混じってよく野山を走り回ってたんだ。だから中学校の頃は、陸上部に入ったんだ。ここにもよく走りに来てたんだよ!」
「へぇぇそんなに走るのが好きなの?うぅぅん……ごめんけど私には、その気持……よく分かんない……」
「ハハハッ! 優も限界まで自分を追い込めば分かるよ!何ていうか……そのぉ頭の中が真っ白になって、それを超えると体の中からジュワァァって変な力が湧いてきて別世界に連れて行かれちゃうみたいな!」
「へ、へぇぇ……そうなんだぁ……」
そう言いつつ心の中では……
(この子、顔に似合わず怖い事言うなぁ……)
と顔を引き攣らせながら、思った。
「はぁぁい! じゃぁ体操から始めるよ!」
部長の号令で体操を始め、その後ストレッチ、軽くトラックを走って体を温めた後、クロスカントリーの二キロコースに挑む。
「じゃあ、今からクロスカントリーコースに入ります! 因みに1位から6位に入った者には、私からご褒美があります! でも皆、無理はしなくていいから、自分のペースで構わないんだから楽しんで完走を目指し頑張ってね!では、出発!」
一斉に走り出す部員達。と優は、自分の靴紐が解けているのに気付き、その場で屈んで靴紐を結び直した。そして立ち上がると皆は、既に見えなくなるほど先に行っていた。
「皆、速いな! 早く追いつかないと置いていかれる!」
そう呟きながら走り始める、と急に辺りが真っ暗になり空に満天の星空が広がった……。
優は、この状況下でも落ち着き払い、ゆっくりと神氣の息を始めながら身構えた。
(来た……この気配…………何処にいる?)
冷静に辺りを見渡す優……すると後方、少し距離を置いた所に、宮司の姿が……あった!
その宮司は、ゆっくりと優のいる方へ歩み寄りながら話しかけてきた。
「青井…優。清き力を持つ者。そして……東城舞美の後継者であり悪しき鬼の血を受け継ぐ者……」
「なにおぉぉ!私は鬼の血なんて受け継いでない!悪しき者を祓う者、東城家の血を受け継ぐ者だっ!お前達、悪者と同じにするな! 纏!!」
優は、纏いながら宮司の間合いに飛び込み平野藤四郎で居合抜きで一閃したが『ヒラリ』と交わされた!
再び距離を取った宮司、面の下の口元が緩む。
「おぉぉ…怖い…怖い……触れれば斬る……近づく者も全て斬り捨てる……。その様な殺気……久しかぶりに感じたぞ……優よ…」
その言葉に激しく声を荒げ言い返す!
「私のこの力は、お前達の様な悪しき者を祓う為にある!! 絶対にお前達には負けないっ!!」
宮司を睨みながら平野藤四郎を鞘に納め、月下の刀に手を添え、腰を低く落とし、抜刀術の構えを取った。しかし……宮司は、薄ら笑いをながら言い放った。
「しかし……脆い……脆いのぉ……。お前のその力は……脆く…そして弱い……」
「何ぃぃ!」
「近い内にお前は己の無力さとその祓う力に失望するだろう…………近い内に……だ…………」
宮司の姿が徐々に薄れていくと同時に、辺りが明るくなっていく……。優は、纏を解き、空を見上げた。と同時に顧問の声が遠くから響いてきた。
「こらぁぁぁ!! 青井優!! 何やってんのぉぉ! 置いていくぞぉぉぉ!」
「は、はいっ!すみません、すぐ追いつきます!」
そう言って走り出した優
(私が……自分の力に失望する?どういう事だろう…………)
そして、無事にトレーニングプログラムが終了した。クロスカントリーでは、夏木鈴子が予想通り2位に大差をつけ、1着でゴールした。気になるご褒美は、お菓子が沢山入った福袋だった。
【宮司再び現る】
夕食は、豪華だった。普段食べる事がないジビエ料理が並び、山の幸、川の幸等々、食欲旺盛な女子高生を十分満足させるものだった。そして温泉に皆で入りしっかり温まった後は、就寝まで自由時間となった。優は、鈴と一緒に同級生の部屋へ遊びに行きトランプやアイドルの話などで盛り上がっていた。
そして夜も更けそろそろ部屋に帰ろうとしていた時、加藤幸子が優に問いかけてきた。
「ねぇ優、すず知らない? さっきから居ないんだけど……」
「えっ? 今まで居たんだけどなぁ……きっと先に部屋に帰ったんだよさっちん!」
しかし部屋に帰ると鈴の姿はなかった。『またお風呂に行ったのかな』と思いつつ浴場を見に行くと誰もいない……。
ロビーで考え込んでいるとふと、目に入った一組のスリッパ……そこでふと気づいた……。
(鈴……ひょっとして……外に行ったのか……な…)
優は、自分の靴を出し外へ出て小さな川が流れる芝生の庭がある方へ行ってみた。するとその小さな川に架かる石橋の上で鈴が佇んでいた。
「鈴ぃぃ! やっと見つけた。もう探したよおぉこんな所に居るなんてぇ、皆も探してたよ! 風邪引くから早く部屋に帰ろう!」
しかし……鈴に話掛けても無言のまま振り向きもしない。
「れ……い?」
名前を呼ぶと、背を向けたままいつもの鈴らしからぬ、低いゆっくりとした口調で呟き始めた。
「優……あのね…………猫が……いたの……。『ニャァ…ニャァァ』って……鳴いてたの……『ニャァァァ……ニャァァァ』って……』
そう言いながら振り向いた鈴の目は暗闇の中で光る猫の眼球の様にギラリと光り、その目で優を睨んだ。そして……
『ニギャァァァァァァオオオォォ……』
と薄気味悪い鳴き声を上げると共に明かりが全て消え行き、そして時が……止まった。
水上村の化け猫編……つづく……
つばき春花です、『纏物語』お読み頂き有難うございます。
水上村の化け猫編、いかがでしょうか?この後の展開にご期待下さい。
次回予告……
「駄目ぇぇぇっ!!鈴は友達なのっ!私の大事なっ!大切な友達なのっ!涼介おじいちゃん! お願いっ! お願いよぉぉぉっ!」
優の意思に反して月下の刀は、青い氣を発しながら優を鈴の元に導いた。そして柄に手を添え抜刀させようとする。必死に抵抗する優、しかし抵抗虚しく、その手に刀が握られた。優が涙流らに泣き叫ぶ!!
「舞美ばあちゃん!!!!」
次回……『其之陸拾話 大切な友達』
ご期待下さい…




