表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
纏物語  作者: つばき春花
水上村の化猫編
58/126

其之伍拾㭭話 水上村の化け猫

 青井優が住む人吉球磨地方には、古い言い伝えがある。その一つが相良藩化け猫騒動である。


 無実の罪を着せられて殺された盛誉法印の母、玖月善女(くげつぜんにょ)は、その恨みをはらすため、愛猫「玉垂(たまたれ)」を連れて市房山神宮にこもり、自分の指を噛み切って神像に塗りつけ、またその血を玉垂にもなめさせ、自分と一緒に怨霊となって黒木千衛門を始め相良藩にたたるよう言い含め、21日間の断食の後、「茂間が淵」に猫を抱いて身を投じた


すると間もなく相良藩では、毎夜、猫の玉垂が忠房を苦しめ、また盛誉法印を討った黒木千衛門は狂い死にし、次々に奇怪なことが起こり始めた……。


                 水上村HP 『生善院(猫寺)の由来』より抜粋

 二学期の終わりが近づいていたある日。稽古が終わり道場の掃除を行なっている時の事、顧問の立道清夏が突然『大事な話がある』と言って集合の号令を掛けた。


「はいはい!皆、聞いて!一年生は初めての参加になると思うけど、毎年行なっている年末強化稽古を今年は、二十六日から一泊二日、水上村でやる事に決まりました!」


 年末強化稽古、それは人吉商業高校剣道部恒例、冬休みに泊りがけで行う合宿の事だった。


 強化稽古と銘打ってはいるが、実際は、部員の親睦会と忘年会を兼ねたもので、しかも今年は、人吉商業高校剣道部が何十年かぶりにインターハイに出場したという事で、そのご褒美として合宿費用を全額、学校が負担してくれる事になった。


 しかし部員達からは……


「えぇぇっ! 山ぁぁぁ!?海っ!海っ!海が良かったぁぁ!」


「先生ぇぇぇ!山に囲まれている所に住んでるのに……更に山奥に行くなんて、おかしいと思います!」


 生徒達のその声に顧問から激が飛ぶ!


「こらっ!今の台詞、水上村の人達に失礼です!そんな事言わないのっ!それに全員無料ただで行けるんだから、文句は言わない!それと泊まる民宿は、もう既に予約してあるからね!」


 そう皆を諭した顧問だったが、心の中では『皆……ごめんね…』と謝っていた。


 顧問も、本当は普段、山に囲まれて生活している皆を、海が見える天草方面へ連れて行きたいと計画を練っていた。しかし校長から費用を全額出すかわりに、なるべく人吉球磨の施設を使って地元に還元してくれないか、と相談を受けたのだった。


 球磨地方、相良村出身で地元愛が強い顧問、立道清夏もその相談を受け、水上村での合宿を決めた。しかし生徒達の希望に添えなかった代わりに、皆が普段口にしそうにない高級食材で作るご馳走を、お腹いっぱい食べれる様に手配していた。



【友人 夏木鈴子】


 そして二学期最後の日、終業式が終わり一度武道場に集合の後、学校所有のマイクロバスで宿泊施設に向かう。皆、何だかんだ言っていたが案外楽しそうにバスに乗り込んでいる。


「ねぇ!優っ一緒に座ろうよ!」


 そう言いながら腕を組んできたのは、同じ一年生の夏木鈴子なつきれいこ、剣道部の皆からは、すずと呼ばれている。


 本人は『れい』と呼ばれるより『すず』と呼ばれる方が可愛いと満更でもないらしいが、優は『美月』の『みつきと呼んで!』の事もあるので優だけは『れい』と呼んでいる。


 鈴は、優より身長が十センチ程高く百七十センチ、長い黒髪に小顔でかなりの美人、それでいて性格は温和で社交的。男女を問わず慕われる存在だった。


 人吉第三中学校出身の彼女は、中学の頃は陸上部に所属していた。高校でも陸上部に入るつもりだったが何故か剣道部に入部した。その入部したきっかけを作ったのは他ならぬ優だった。


 それは、鈴が偶然通りかかった時の事。武道場の小窓から見た優の姿、体の小さな優が自分より大きな相手に、臆すること無く、何度も何度も打つかり、立ち向かっていく姿に衝撃を受け、感動したからだった。


 なので鈴は、親しくしながらも優の事をとても尊敬していたし、優も優しくて自分を慕っている鈴を、とても大切な友人の一人と思っていた。 


 そして時間になりバスが出発する。他愛のないお喋りの輪が車内に広がる。すると隣に座る鈴が立ち上がり頭上の棚からパンパンに膨れたサブバッグ降ろし、膝の上でチャックを開けた。するとそこから無理やり詰め込んだのであろう、お菓子の袋が飛び出してきた。


「ほら!優、お菓子、沢山持ってきたんだ!どれがいい?好きなの開けようよ!」


 そう言いながら二つ三つとお菓子の袋を取り出し、徐ろに開けると、チョコやビスケット、アメ等々手に持ちきれない程のお菓子をドサッと優に渡した。


「こんなに沢山、貰っていいの?食べ切れるのかなぁ」


「なぁに言ってんの!私、毎日三袋くらい一晩で食べちゃってるよ!さぁさぁ食べて食べて!」


 そう言ってカサカサ、ボリボリパリパリと満面の笑みでお菓子を食べ始めた。

 

(お菓子三袋を一人で……なのに……このナァイスボォォディィ…………やっぱ私と体の作りが違うなぁ……羨ましいなぁトホホ……)


 優は、嬉しそうにお菓子を貪る?鈴を見つめながら……心からそう思った。



 学校を出て人吉インターチェンジを左に見て県道三十三号線に入り、人吉市内からそう遠くない所にある『にしき秘密基地ミュージアム』に立ち寄り施設を楽しんだ後、そのまま県道三十三号線に乗り、水上村へ向かう。


 バスの中は、相変わらず賑やか、鈴は、持ってきたお菓子を前に後に袋を回し配っている。優は、その輪に入りつつも、車窓から時々外を眺めていた。


 すると前に右折する車がいるのかバスが停止した。その時、ふと横を見ると古びた看板が目に入った。


「生善寺……観音堂……猫寺……かぁ……」


 そして車が動き出す……とその看板の後に真っ白い法衣を身に着けた宮司?……神主?……顔には布らしき面を着け通り過ぎるバスを…いや、優を目で追っていた?……しかし面を着けていたのでそれは、定かではない。


『えっ?』と思った優は、その場で立ち上がり後を振り返った。しかしその場所にその姿はなかった。


 後に座っていた加藤美里が急に血相を変えて立ち上がった優に驚き、問い掛けた。


「ど……どうしたの…………優?……」


 その問いに優は、通り過ぎた看板の方を指差しながら慌てた口調で答えた。


「あ…あの!い、いまそこの看板の所に……あ、の白いっ……その………………い、いや……何でもない……」

 

 と最後の言葉を飲み込んだ。


(あれは確か……武蔵坊辨慶と戦う前に会った奴……。そうだ……辨慶を陣から呼び出した奴と同じ纏姿……。と言う事は、新たな妖者が……来る?)


 いま、再び新たな妖者の布石が放たれた。


『六人衆が企む鬼弥呼復活を阻止し五珠を取り返す』


 青き月の力を継承し、祓った妖者の力を身に着け、更には、四神の神力も授かった。圧倒的神力を備わった優だった……しかしこの後、現れる妖者との戦い……それが辛く悲しい戦いになろうとは……この時の優には…知る由もなかった……。



                                       つづく……


 

 つばき春花です。『纏物語』いつもお読みいただきありがとうございます。


お詫びです、前話の巻末で次回予告『其之伍拾㭭話 転校生』と予告しておりましたが、諸事情があり変更させて頂きました、皆様ごめんなさい。


 水上村の化け猫編に入ります。新たなに優の友人、夏木鈴子が登場します。切なく悲しい話になるかもしれません、是非ご期待ください。相良藩化け猫騒動、お気になった方は、是非水上村のHPにおいで下さいませ。


 次回……


『其之伍拾玖話 祓う力』にご期待ください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ