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纏物語  作者: つばき春花
高校総体全国大会編
57/126

其之伍拾漆話 戯れ

「東城……恭一郎……あの子のご子息……か……」


 嫗めぐみが呟く……


 東城恭一郎とは、舞美の祖母、東城舞美の実の弟であり、恭一郎は、生まれながらに神守の血筋を受け継ぐ素質を有していた。しかし、幼少の頃、その事で姉から受けた仕打ちにより心に深い傷を負ってしまい、自分が持つ神力の事は、誰にも口外しないと決めていた。しかしある出来事がきっかけとなり、嫗めぐみと出会い、そして自らの力を開放したのだった(纏物語 外伝 神守を継ぐ者 参照)


「貴方のお父上と最後に会ったのは、もうずいぶん昔の事……なのに何故私の事を……私が現世にいる事を……貴方がご存じなの?」


「そ、そ、それはぁ……そのぉぉぉ……」


「ちっ……」


 おどおど口を濁す恭介に『イラッ…』とする嫗めぐみ、声を荒げて諭す。


「答えなさいっ!!」


「はははいっ! 東城七兵衛が教えてくれたんです! 熊本に舞美おばちゃんの力を受け継いだもの凄く神力が強い子がいるって。あなたの事は、ずっと昔から父に聞かされてきました、『嫗めぐみ』と一緒に遊園地で呪木を祓った時の事を…。僕も神守を継ぐ者として、何体もの妖者を祓ってきました、だから……ちょっと調子に乗ってしまってて……貴方に大変失礼な事を言ってしまいました! ごめんなさい!」


(東城七兵衛……御魂の術を受け継いだ最後の神守は、東城六左衛門と思っていたのですが……)


 それは、嫗めぐみが全く知り得ない話だった。


 それもそのはず、蛇鬼を封印した塚を守る為、自らを御魂にする代わりに、東城六左衛門の居所は、秘密にするという条件があったのだ。その後…東城六左衛門が『御魂の術』を誰に使い……『御魂の術』を誰が受け継いだのか……すでにこの世には、存在していなかった嫗めぐみが知る所ではなかった。


「その……東城七兵衛……を貴方は、纏っているの?」


「いいえ……僕は、父と同じで纏う事は出来ません。纏うことが出来るのは、妹だけです。今、優さんとやり合っています……優さん……怪我しないならいいけど……。とても心配です、妹は、手加減と言う言葉を知りませんから……」


 井桁恭介の言葉にため息を付き、嫗めぐみが言い放った。


「はぁぁぁ……その心配は無用です。寧ろ…………妹さんの心配をされた方がいいかと……」


「えっ?」


 嫗めぐみのその言葉に驚きの声を発した、その時……


『ドサッ!』っとボロボロになった井桁舞が恭介の足元に転げ落ち、それに続いて優が舞い降りてきた。


 「もう! 本当にしつこいったらありゃしないっ! 止めなさいって言っても掛かって来るもんだから、こっちも頭に来てボコボコにしてやったよっ! でも意外と頑丈だよこの子!」


 精魂尽きたという感じで起き上がろうとする舞、恭介に抱えられやっと立ち上がり、目に涙を浮かべながら叫んだ。


「わ、私、貴方に負けてない! 舞美おばちゃんの力は、私が……私が受け継ぐはずだったのにっ!」


 優は、井桁舞が何を言っているのかさっぱりわからなかった。そして彼女を指さし嫗めぐみに問いかけた。


「めぐみさん、なんでこの子が舞美おばあちゃんの事をしってるの?」


「絶対! 絶対お前を負かしてっ! その力、私が貰う!!」


 そう言い残し井桁恭介に背負われて帰って行った。話の真相が何も分からない優は、後に嫗めぐみから事の経緯を聞いた。


「あの二人……私の従姉妹になるのかぁ……恭一郎おじさんもあった事はあるんだけど……影が薄い暗い人だなぁと思ったのは、覚えてるけど……そんな神力があったなんて……人は見かけによらないなぁ」





【インターハイ初戦】


 優さん! しっかり稽古の成果を出してきてねっ!


「はいっ!」


 優のインターハイ一回戦が始まった。


「予選Aブロック第一試合熊本県代表、人吉商業高校、青井優さん! 岡山県水戸里高校、高橋かほりさん!」


『ワァァァァァァァァァァ!!!』


 一礼をして試合場の中心へ行き、剣先を合わせ試合開始となる。


「始めっ!!」


「やぁぁぁぁぁっっっっ!!!」


(まず相手の動きをよく見てから…………来るっ! 小手からの引き銅、面!)


『パンッ!パパンッ』


「どぉぉぉぉ! めぇぇぇぇんっ!」


(大丈夫……全然読める……相手の太刀筋……どう攻めるか……まずは面……)


「面ぇぇぇぇんっっ!!!」


 勢いよく面を打ちこむ優、そのまま鍔迫り合いになる。とその時……対戦相手の高橋が優に呟いて来た……。


「どうした……青井優……青き月の力を継承した者よ……相手の動きが分かるだけでは、我には勝てんぞ……。其方の力……見せてみよ……」


 その言葉の後、物凄い力で押しかえされ、後へよろけた優。


「待てっ!」


 審判の声が響く。そして面紐を指さした。紐が解けていたのだった。一旦竹刀を納め後方へ下がり正座をし、紐を締め直す。


(何? あの子……私の事を……知っている?……何者なの……妖者?)


「青井選手…早くしなさい…」


「は、はい!すみません!」


 再び中央で蹲踞し、竹刀を合わせた後、試合が再開される。


「始めっ!」


(いや…………もし妖者だったとしたら…もう仕掛けてきてるはず…じやぁこの子は一体何者?)


 一足一刀の間から牽制する優……まるで隙が無い…鍔迫り合いの後からまるで別人のような氣を纏っている。


「止めっ!」


 お互い決まり手がないまま、延長戦に入る。


「始めっ!」

 

(このままじゃジリ貧だ…こうなったら私から……」


 そう思った瞬間、優の頭中に相手の動きが見えた! 今から一足一刀の間から優の間合いに、相手が飛び込んでくる!


(見えたっ! 面だ……真っ直ぐ面を打ちこんで来る! ならば下がりながら交わして、引き面で決まりだっ!)


 相手の竹刀が面を打つ軌道に入る。だが、何故か急に竹刀の太刀筋が変わり、銅を抜かれた!


「銅ぉぉぉぉ!!」


「一本っ!!」


 三人の審判が持つ赤旗が上がり勝負が決した。


 呆然と佇む優……。


(何故? 私に見えていたのは……確かに……あの太刀筋は……面だった。それが抜き銅に変わるなんて……絶対あり得なかったのに……)


 「勝負あり!」


 礼をして下がる両選手、直ぐに先生の元へ駆けつけると涙ぐんだ先生が拍手で優を迎えた。


「すいません…先生…」


 そう言いながら優が頭を下げると……


「何で謝るのよっ! いい経験したよ、優さん! 上には上がいるっ、それがインターハイよっ! また次頑張ろう、ねっ!」


「はいっ!」


 爽やかな笑顔を見せ最期を締めくくった顧問の立道清夏先生、こうして優のインターハイは、終りを遂げたが、優から見事な一本を取り、勝利した高橋選手は、二回戦で一本も取れずあっさり負けていた。


 因みに井桁舞は、優がいなくなってから全くやる気をなくし、そのせいかベスト四で大会を終えた。兄の恭介は、団体三位、個人でも全国三位に入った。こちらも手を抜いたと思われる。




 そして荷物をまとめ、体育館ロビーで帰りのバスを待っていると、奥からある高校の団体が出口に向かってぞろぞろと歩いてきた。するとその団体の中に、初戦で対戦した高橋かほりを見つけた。


 あの時……あの試合の時の出来事が気になっていた優は、ベンチから立ち上がり、高橋の元へ走って駆けつけ、声をかけた。


「高橋さん!」


 すると声を掛けられた高橋かほりは、その場で立ち止まり優の顔を見ると一瞬真顔になるが、思い出した様子で顔がほころび、持っていた荷物を床に置くと、両手を差し伸べて優の手を握り満面の笑顔で語り掛けた。


「青井優さん?! お疲れさまでしたぁぁ!私、優さんに勝ったのにぃ二回戦であっさり負けちゃったぁぁ!ごめんなさい!」


「いいえ! 惜しかったですね! でも私がもらった一本は、見事でした!竹刀が全く読めなかったというか、あそこから抜き銅に入って来るなんて、本当に見事です!」


 すると高橋かほりは、少々困り顔になりこう答えた。


「う、ううん、実はね……あの抜き銅……ね、実は言うと私もどう繰り出したのか分からないんだ……。鍔迫り合いの辺りからなんかぁ記憶が曖昧になって……勝って皆の所に戻ったら『すごぉぉい!』とか『見事な抜き銅だったよ!』とか言ってくれたけど……はっきり言って覚えてないの!緊張してたせいかなぁ!!」


「かほり! バス来たよっ」


 同校生徒のその声に……


「今行く! じゃ、青井優さん! また来年インターハイでねっ! バイバイ!!」


 荷物を持って手を振りながらバスへ向かう高橋かほりに……優も手を振り返し、その場で別れた。


 かほりが去って行く後ろ姿を見ながら、優は思った。


「『覚えていない』……かぁ……。それじゃぁ……何だったんだろう……あの時の…あの声は……」


「どうしたのです……優?」


 嫗めぐみが佇む優に声を掛けてきた。そして優は、今までの事をめぐみに話て聞かせた。すると少しの笑みを見せた嫗めぐみが話し始めた。


「ここは伊勢……神に仕える私達にとっては最も神聖な処……。いいえ……そのような難しい事ではなく……人の身でありながら……神の力と……相反する惡…鬼の力、二つを持つ貴方を……拝見するために……お見えになられたのでは……クスクス……まぁ私の憶測ですけど……」


「あるお方? 拝見? お見えになった? 何それ、ちょっと何言ってるのか分かんないんですけど……」


 嫗めぐみの憶測は、大方的を射ていた。それは伊勢の土地を守る守り神が、優に興味を示し高橋かほりの身を借りて手合わせに来たのだった。伊勢市の空であれだけ騒がしくドンチャンしてしまった優に興味を持った守り神の……ただの戯れ……だったのかもしれない。


 そして駅に向かうバスが到着したのか顧問の立道清夏が二人に声を掛ける。


「さぁ、二人とも! 熊本に、人吉に帰るわよっ!!」


 最後に不思議な経験をした青井優、そして帰りの新幹線に早く乗りたいのか、無表情ながらソワソワしている嫗めぐみの三人は、三重県伊勢市を後にし、熊本県人吉市への帰路に着いた。


 



                                       つづく……


 つばき春花です、『纏物語』お読みいただきありがとうございます。


 三重県伊勢市編いかがでしたでしょうか? 私、昔、若かりし頃、三重県の鈴鹿市に暫く住んでいた事がありまして(ほんとにほんの少し)あまり覚えていないのですが、食事処で出ていた味噌汁が赤みそ?だったのでしょうか、非常に辛かったのを覚えています(地元は白みそでしたので)


それと中日ドラゴンズ推し、『ドラゴンズ天気予報!』とかやってました。kumamotoは巨人ファンが多いのでちょっと肩身が狭かったです。




  次回……『其之伍拾㭭話 水上村の化け猫』 ご期待ください。


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