其之伍拾伍話 双子の兄妹
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
大きなため息をつく優、三重県へ向かう新幹線の中にいた。そして、窓に頭をもたれ一人ボソッと呟く……。
「調子に乗って…やってしまった……今更後悔……。あぁ…私…目立つの大っ嫌い………高校の名前…背負うなんて私には荷が重いよぉ…。あぁ…人吉に帰りたいぃ…家に帰りたいぃぃ」
優のこの言葉の理由は、今から一ヶ月ほど前に遡る……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「一本!!」
『ワァァァァァァァァァァァ!!』
「一本!!」
『ワァァァァァァァァァァァ!!』
「一本!!」
『ワァァァァァァァァァァァ!!』
熊本県高校総体剣道個人戦、優勝は、人吉商業高校一年、青井優選手っ!!
『ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼‼』
鬼一法眼との死闘の直後に参加した熊本県高校総体、優は『八代白百合学園高等学校』『尚絅高校』『菊池女子高等学校』の並み居る強豪選手をすべて一本勝ちで下し、優勝してしまった。その為、インターハイ(全国大会)に行く羽目になったのである。
初戦に勝った当初は、浮かれていた優だったが勝ち進むに連れ、事の重大さに気付き始めた。
大体の話、剣道界では、大方勝ち上がってくる選手は、祖父、父、母の剣道一家で幼少の頃から強く、名前が広く知られている子が殆ど。しかし無名で田舎の高校在籍の優が、勝ち上がっていくものだから周りは大騒ぎ、皆の注目の的になってしまった。
(やばいなぁ…調子に乗っちゃったよぉ……こんなに注目されるなんて……恥ずかしいったらありゃしない……負けてあげればよかったかなぁ…だって、剣が止まって見えるんだもん……あんなんじゃ…入る訳ないじゃん…)
剣術神、鬼一法眼との闘いは、壮絶なものだった。何処から入って来るか分からない太刀筋……死をも覚悟した本物の斬り合い……その様な生死を掛けた斬り合いをやってきたばかりの優に、年が変わらない女の子が振るう剣筋が入る訳もなく。しかも優には、それが止まって見えている…いや、正確には、剣筋が何処に入ってくるのか無意識に予測出来ているのだった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
再び大きなため息をつく優。
「優……その様な事を言うものではありません。貴方に負けて悔しい思いをした方が大勢います……その方達の分まで……貴方は勝ち続けなければなりません……」
そのため息と呟きを聞いた嫗めぐみが正論を言い放ち、優を諭した。
ここで疑問が生まれる……。
弓道部の嫗めぐみが何故、剣道部の引率組に居るのかと言う疑問である。
それは、余り使う事を好んでいないあの術を使い、剣道部の『マネージャー』として紛れ込んだのである。
しかし使いたくない術を使ってでも引率組に紛れ込みたかったのには理由があった。
その理由とは……『新幹線に乗ってみたかった』である。嫗めぐみは、こう見えても速い乗り物に非常に興味があるスピード狂だった(外伝 『其之肆 いざ遊園地へ』 参照)
背筋を伸ばし無表情で車窓から外を眺める嫗めぐみだったが……そのテンションは爆上がっていた。
新八代駅から九州新幹線で福岡博多駅、そこから山陽新幹線へ乗り換え名古屋駅まで。更にJRに乗り換え会場のある三重県伊勢市へ到着。タクシーでホテルへと向かう、ここまで約八時間超の長旅だった。
「はぁぁぁ! 遠かったぁぁ三重県伊勢市! やっと着いたよぉぉ……」
そう言いながらタクシーを降りて背伸びをする優、そこへ引率で顧問の立道先生が後ろから声を掛ける。
「優さん、めぐみさん、疲れたと思うけど明日の試合会場を今日のうちに下見に行きましょう、緊張しない為にも大事な事よ! じゃぁ荷物を置いて三十分後にここに集合ね!」
「はいっ!」
顧問の立道清夏先生、自身もインターハイ出場経験が有り全国でベスト八に入る実力者だ。優にとってとても心強い存在だ。
ホテルにチェックインした後、部屋へ行き学校のジャージに着替えた二人、嫗めぐみのジャージ姿はかなり違和感があった。
「めぐみさん、伊勢にはとても大きな神社があるんでしょ?」
「あるわ……伊勢東照宮……私達宮司にとってとても大切な場所……。ここでも悪しき者と相まみえた事もあるの……………もう随分昔の事だけどね……」
「へぇぇ……何と戦ったの? やっぱり鬼?」
「違うわ……女の子……そう…少女の妖者だった……。とても、とても惡氣が強くそれでいてとても凶暴で…何人もの宮司達が喰われてしまったの…私はまだ宮司として未熟でその妖者の強力な術から身を守るだけで精一杯だった……。
でも私が力尽きいよいよ喰われる……そう思った時、光を纏った宮司が私の目の前に現れた……その宮司は、一瞬にしてその妖者を強力な結界で封印し遥か彼方へ弾き飛ばしたの……そして…その方は、振り向きほほ笑むと蜃気楼のように消えた……」
「ふぅぅぅぅん……誰だったの?その宮司さん」
「今となっては分かりません……髪の長いお方で、腰に白い短刀が差してあったのは覚えています……」
嫗めぐみが珍しく多くを語った場面だった。
そして三十分後、三人はタクシーで会場となる伊勢市総合体育館へ向った。
ホテルから約十五分、会場に着くと大会に出場するであろう多くの高校生が下見に訪れていた。
「うわぁぁ皆んな強そう……ていうかジャージ、私達だけじゃない!?恥ずかしいぃぃ!負けそう……」
他校の生徒達は、制服姿だった。しかしそこで立道清夏から激が飛ぶ!
「そんな事無いわよ!相手からも貴方は強そうって見られてるんだから、こんなんで気後れしてちゃ駄目よっ!優さん!」
「は、はいっ!」
なんて頼もしい事を言ってくれるのだろうと思いつつ返事を返した。
「さあ、じゃ会場の雰囲気、分かったわね、そろそろホテルに帰ろうか」
そう先生に促され、アリーナから階段を登り出口へ向かっている時、ふと何処からか視線を感じた。
優は、立ち止まり後ろを振り向くと反対側のアリーナ席から明らかに優を見つめる……二人。学生服……一人は、女の子……髪の短い女の子……背丈は二人とも同じくらいで……顔も似ている、いや、似過ぎている……ひょっとして双子?
「優さん!!行くわよ!」
「あっは、はい!」
先生から呼ばれ、慌てて二人を追いかけた。この時、二人の事を余り気に留めていなかった優だったがこの後、面倒な事に巻き込まれていく事を優が知る由もなかった。
つづく……
つばき春花です、今話から新章に入らせて頂きました。新たな敵?味方?今後の展開にご期待下さい。
次回予告…………『其之伍拾陸話 神守を継ぐ者達』
「こらっ舞!! ずるいぞっ!!」
「纏えない兄貴が悪いんだよっ! この獲物は私がやる!」
(獲物⁉ 私がやる⁉ なになになに! 私の事、獲物って言ったぁ⁉ 私は鹿や猪じゃないっちゅうのぉ!)
「行くわよぉ! 青井優!!」
そう言うと舞は、にやけながら手を大きく広げ、拍を打ち叫んだ!
「焔!纏!!」
『ボゴッゴガァァァァン!!』
舞は、爆音と共に火焔の纏を纏いその手には、燃え盛る剱があった!
ご期待ください……




