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纏物語  作者: つばき春花
鬼一法眼編
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其之肆拾玖話 四神の子

 【月下の刀】


 それは、かつて日ノ本を我が物にしようと企てた最凶最悪の鬼『蛇鬼』の角から蛇鬼の片割れ、優しき心を持つ鬼の青年『神谷涼介』によって作られた。



 今から幾拾年前……



「舞美さん……ここにたどり着けるのでしょうか……もしかしたら外の呪木の森で……。そうなる前に僕が呪木の森を焼き掃っておけば……。だめだ、それでは破蛇の剱が強くならない……兄者の破片で作った破蛇の剱が……」


 兄者の破片、それは涼介が蛇鬼と対決した時、涼介の体の中に残された蛇鬼の折れた角の事。破蛇の剱はその角から作られた刀だった。この剱は涼介の命と、鬼の力を糧に強く鍛えられるのだった。


「舞美さん、出来る事ならあなたに祓われてあげたい、そしてこの剱を渡してあげたい。でもそれでは駄目なんです。この剱は、月の光と僕の悪しき力で鍛え上げられる剱……。そして舞美さんの『清い力』によって……更なる強力な力を持った太刀になる……兄者を……悪しき者を討ち祓う太刀……『月下の刀』に……」




 そして悲しい別れを経て破蛇の剱を手に入れた東城舞美……その後『清い力』によって破蛇の剱は『月下の刀』に生まれ変わり見事、蛇鬼を討ち祓う事が出来たのであった。

 


 優は、昨夜の事を嫗めぐみに相談した。般若の面の女に襲われた事、月下の刀が折れた事、そして面の女が親友だったかもしれない事も話した。嫗めぐみは、優の話を無表情で聞いていたが面の女の正体の事については、一切触れず、刀の事だけに言及した。


「この刀は、月の光で鍛え上げられた刀……満月の夜に月下に晒しておけば恐らく……元の形を成すでしょう……私が次の満月の刻、再生の陣を作って差し上げます」


「再生の陣かぁ……そういえば月下の刀では、般若の陣を壊すことが出来なかったけど、辨慶から貰った短刀では簡単に斬れた……なんでだろう?」


 優のその疑問に嫗めぐみが答えた。


「月下の刀…元は蛇鬼を祓うために鬼が作った刀。たとえ優しき心…正しき心を持っていたとしても……元を正せば悪しき鬼。月下の刀で陣が切れなかったのは……多分その陣は……悪しき者、悪しき力を退ける陣だった、その陣は、月下の刀を悪しき物と判断したから壊せなかった。そして…陣を斬ったその短刀は……恐らく懐剣『平野藤四郎』……」


「平野藤四郎? ハハッ、人の名前みたい」


『平野藤四郎』……其の短刀は魔を退け、災厄から主を守る刀……辨慶がある武将から狩り、義経が所有している……と聞いた事があります」


「災いから主を守る刀……」


 優は呟きながら『平野藤四郎』を手に取り、鞘から抜こうとしたがビクともしなかった。


「あれぇ? 抜けないよ……」 


「そういう類ものは、ことわりがないと抜けないのよ……」


「理?」


「そう……理。それは刀を抜く理由の事。例えば主を守る理……悪しき者を祓う理……とか」


「ふぅぅん、私がピンチの時にしか抜けないんだぁ」


そう言いながら刀を前に差し出した。


「綺麗な桜柄……これからも私を守ってね……」





【優、猫との出会い】


 日曜日の朝、人吉の街は霧に包まれていた。剣道の試合が近くなるとトレーニングの一環で早朝ランニングをするようにしていた。


 家を出て球磨川に架かる大橋を渡り右へ、国道445号線を下り水の手橋を渡る。人吉城跡を左に見て胸川沿いを走る。そして国道219号線に入りそれを南下、繊月橋を渡り、国道219号線から再び国道445号線を西へ下りスタート地点の家へ戻るルートだった。


 その日、国道445号線を走っていた時、宝来町公園前に差し掛かった時、ふと足を止めた。

 

「んっ何? 何かの鳴き声……?」


それは小さくか細い声だったが確かに公園の中から聞こえてくる。優は一層霧が立ち込める公園の中に足を踏み入れ、その声がする場所を探した。


『ミャァミャァ……』


 か細い声、その主は、どうやら子猫のようだ。


「ねぇぇぇこねこねこねこ……ねこちゃん……どこぉどこにいるのぉ……出ておいでぇぇ』


 身を屈め、優しい声を掛けながら鳴き声がするあたりを探す優。すると躑躅の下に蹲り震えている子猫を見つけた。その猫は真っ白で目は澄んだ青色が印象的な子猫だった。


「いた! かわいいぃ! おいで……猫ちゃん……寒かったでしょうお母さんは?」


 そう言いながら暫く辺りを探し回ったが母猫の姿はなかった。とにかく、このままここに置いていく訳にはいかないとその猫をパーカーの中に顔だけを出すように入れ、連れて帰る事にした。


「お父さん何とかなるとして、お母さんなんて言うかなぁ……舞美ばあちゃんも昔、猫飼ってたって言ってたしお父さんも絶対いいって言うに決まってるよっ!」


 もうすでに飼う気満々であった。


「『お母さんこの猫飼っていい』違うかな?『お母さんこの猫飼っていいですか』やっぱ敬語かなぁ『私が面倒みるから飼っていいですか』やっぱこれだな!」


 そして家に帰り着き、猫を懐から出して深く深呼吸をしている途中『ガチャ』っと玄関の戸が開き母親とばったり出くわしてしまった。まだ猫の事を言う心の準備が出来ていなかった優は、その状況に慌てふためき、さっき練習した台詞がすっかり飛んでしまい、どもってしまった!


「あ、あ、ねこあのねっ…このねこは、あのあのねこねこをね! ねこねこ飼いたいけどねこをねっ!」


 その言葉を不思議そうに聞いていた母親は笑いながら……


「なぁにねこねこ言ってるのぉ?優、猫が飼いたいの? そういえば実家で昔、猫飼ってたっけなぁ私は小さかったけど名前は……確かチョコだったかなぁ……ずいぶん長生きしたみたいだけどね! 飼いたいんだったら今度ペットショップに見に行ってみようかぁ?じゃあ私買い物行ってくるからね!」


 そう言って近くのコンビニに歩いて缶コーヒーを買いに行った。


「二ャァァァ……」


 と優に抱かれ胸の前で鳴く子猫。まるで母親には、この子猫の姿が見えていない話し方だった。


「えっ?何?お母さん……この猫見てなかったの?」


 優は、母親の許可を得る事が出来ずそのまま自分部屋へその猫を連れて上がった。


 すると……『ガチャ……ドタドタドタドタバァン!』と優のはやの扉が勢いよく開き嫗めぐみが『つかつか』っと近づいてきた。そしてベッドに座る優を暫く見下ろした。その視線は、優ではなくどうやら子猫に向けたものだった。


「めぐみさん……あのぉ……なんで……しょうか?」


 瞬き一つせず、子猫を凝視するめぐみに優は恐る恐る言葉を掛けた。


「優………………。その……猫……のようなもの……どこで拾ってきたのですか?』


「(猫のようなもの?)あぁ宝来町公園だよ!鳴いてたのを見つけたんだよ可愛いでしょ!」


 猫を両手で抱きめぐみの前へ差し出す優。すると一瞬、嫗めぐみの顔がヒクつき、あきれ顔で優に話し始める。


「優……それは猫ではありません……虎です……」


 それを聞いた優は吹き出し笑いながらめぐみを馬鹿にした口調で言い放った。


「ププッ!なぁに言ってんのめぐみさん!なんで虎が公園に捨てられてんのよ!そんな訳ないじゃ…………」


 優の言葉が止まった。その猫を膝にのせてよく見てみると……確かに不自然に目が青いし何よりも足が異様に太い。それに時折出てくる爪の太さ、言われてみれば猫とは違っていた。続けて嫗めぐみが語る。


「そして……その虎は、普通の虎でもありません。天の四方を司る四神の一つ……その名は神獣……白虎」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえっっっ!!!!!!!!神獣ぅぅぅ!!」



                            つづく……


 つばき春花です。『纏物語』毎話お読みいただき有難うございます。前書きにて『月下の刀』の事を書かせていただきました。


 詳しくは『其之廿肆話 鬼の決心』と『其之廿漆話 惡の権化 蛇鬼』をお読みいただければと思います。


『纏物語』の執筆裏話を『活動報告』にて書いております。アニメの事とか声優さんの事、台詞の引用クイズなど書いていますのでそちらの方にも是非お立ち寄りくださいませ!



次回……『邪惡な陰陽師』


ご期待ください




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