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纏物語  作者: つばき春花
般若面の女編
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其之肆拾漆話 般若の面

【四神相応の地】


 優が住む熊本県人吉市、この地域には、古い言い伝えがあった。それは、四神相応と言われるもの…。四神とは東西南北を守る神獣を指し、東方を守護する青龍は川に棲み、南方を守護する朱雀は池に棲み、西方を守護する白虎は道に棲み、北方を守護する玄武は山に棲むとされている。


 人吉市は、東に球磨川、南に蓮池、西に大路、北に村山があり、まさに四神に護られた地、すなわち四神相応の地と言われていた。




 辨慶との戦いの後…捕らわれの身になっていた赤珠、東城虎五郎が解放された。しかし優との激しい闘いによってその神氣は著しく失われ、もはや現世に留まる事すら出来ない程だった。


「お主が、青井優…舞美の孫娘…なるほど…何処となく舞美の面影が見て取れるぞ……」


 か細い声で話しかける虎五郎、その表情は、穏やかだった。


「昔の様に…お主にも力を貸してやりたいが…今の儂には…猫の子一匹…祓う力も…残っておらん……千里之守……今度の妖者は手強い………舞美の孫娘を…優をどうか助けてやってくれ……」


 そう言いつつ虎五郎は、長い眠りにつくため…嫗めぐみが新しく張った結界の中にある社に帰って行った。



◇   ◇   ◇   ◇


 氷雷珠を纏う事が出来るようになった優だったが不安な事があった。


 それは、宮司と対峙した時、術によって刀技を遮られた事だった。


 東城舞美は、五珠の力を纏い、様々な術を駆使する事が出来た。


 そして宮司みやつかさとしての神力を持つ嫗めぐみは、剣技も術も卓越した技を持っている。


 しかし優は、氷雷珠以外その恩恵はない。しかも氷雷珠を纏ったとしても、極限られた術が使えるだけで、全ての妖者にそれが通用するとは限らない。


 もっと攻守にわたって自ら術が使えるように成らねばと、考えていた優だった。


【高千穂の化け物】


 ある夜の事だった。何処から聞き入れたのか…高千穂渓谷に巣食う悪しき者あり…その言い伝えを耳にした優は、興味本位にその真意を確かめに行った。


「悪しき者ねぇ…伝説はやっぱり伝説かぁ…あんな可愛いカエル、祓ってもねぇ…可哀想だし…ほっといても大丈夫かな!」


 その『悪しき者』という者、言い伝えの通り実在したのだが…その正体は、人が足を踏み入れる事が出来ない位、渓谷の奥深く、源流傍の洞窟奥に巣食う年老いた大蛙の事であった。


 その大蛙、誰かに祓われようとしたのであろうか、術による傷を負っており、動く事も出来ず、朽ち果てるのを待つばかりの状態であった。


 そんな独り言を呟きながら帰路についていた。


 そして相良村上空に達した頃、優は、遠く北東の方角から何かが近づいてくる気配を感じた。


 その気配を不審に思い、其の場で静止し辺りを警戒した。


「何?……何かが近づいて来る。飛行機? いや、速い…

かなり速い…それに僅かに殺気も…感じる……」


 優は、気配を感じる方向を凝視しながら、ゆっくりと月下の刀を抜いた……とその時!


『ヴゥンヴゥン!ヴゥンヴゥン』


 何処から放たれたか、羽音の様な音と共に幾つもの光る輪が優目掛けて飛来してきた!


「ちぃぃっ!」


『キィィィィンカキィィィィィンキィィィィン!』


 刀を振り、其れを叩き落とすと同時に甲高い金属音が辺りに響き渡る。


「何、今の……何処から飛んできたの……」


 辺りを見渡す優……すると後方から僅かな殺気が優目掛けて走った。


 ゆっくりと後を振り向く。其処にいたのは、般若の面を着け、黒い忍装束を纏った髪の長い(恐らく)……女。


(誰? めぐみさん? 新たな妖者? いや……殺気は感じても惡氣は感じられない……もしかして…人!? まさかね……)


「お前は誰だ! 妖者かっ!? 名を名乗れ!」


 刀で指し示し、問い掛けると般若面の女は、両手を大きく広げた。すると女の後ろに幾つもの輝く陣が、傘のように開いた。


 そしてその手を前へ指し示すと、陣が優に向かって一斉に放たれた!


『ヴヴヴンヴヴヴヴヴンヴヴヴヴヴヴヴン!』


 何枚もの陣の円刃が舞美を取り囲む!


『キンッキキンッキンキキキン!カキィン!』


 優の剣技は、この程度の技などものともしない、向かって来る陣を全て薙ぎ払い、一度刀を鞘に収める、そして般若目掛けて一気に加速!


『ドンッ!』


 瞬で般若の懐に潜り込み、抜刀する!


『カキィィィィィィィィンンンン…………』


 入った!……と思った優の抜刀は、女の手のひらで受け止められていた。


 あの蛇鬼の鋼の様に硬い身体を紙の様に斬り去った月下の刀を…掌でいとも簡単に受け止めた。


 優は一瞬息を呑んだ、その掌をよく見ると掌の前に陣が広がっている、それは陣の盾。


 般若の陣は、全てを切り裂く円刃だけではなく、盾にもなり得る物だった。


「何っ⁈ 陣の盾?! このぉぉぉぉぉぉ!」


『キンキンッ!キンキンキンキンッ!キンキンキンキンキンキンッ!』


 優の剣技を悉く陣で受け止め、その返しに鋭い蹴りや拳が飛んでくる。


(何!? この陣! 月下の刀でも解けないなんてっ! それにこの速い蹴り! めぐみさんと同等、いやそれ以上の威力かもっ! それならっ!)


 優は後方に大きく下がり、もう一度、刀を鞘に収めた。そして……


「逃げるっ!」


 クルッと反対を向き一目散に逃げ出した!


「冗談じゃない! 私の刀技が通用しないなんてっ! あんな奴となんかやってらんない! 逃げるが勝ちよっ!」


 全速力で逃げ飛ぶ優、しかしその考えも虚しく…すぐに落胆する事になる……。


 何かに気付き、急に逃げ飛ぶのを止める優、そして呟いた…。


 「嘘…でしょ…………」


 優は驚愕した声で呟いた。それは振り切ったと思っていた般若が優の目前に佇んでいたからである。


 般若は、佇んだまま右手で陣を作り出した、そして掌で何かを持つように握り拳を作るとその陣が縦長に形を変え、刀のような姿を成した。其れを八相で構えた般若が瞬時に斬り込んできた!


(は、速い! ヤバいっ斬られる!)


『ガキッ!』


 鈍い金属音が響く、優は後退しながらも咄嗟に月下の刀を鞘ごと立て、般若の太刀を防いだ、しかしその一太刀で鞘にヒビが入った!


「鞘が割れた!? 重い、なんて重い太刀筋なの!!」


 般若は上段に構え直し、二の太刀を繰り出そうと迫る! 優は、それに合わせるように抜刀する!


『キィィィィィィィィィィン…………』


 一際高い金属音が辺りに響き渡った……


 その音……振り抜いた月下の刀が刀中から砕け散り、その破片がキラキラと輝きながら宙を舞った……。



         つづく……

 


 


 つばき春花です、『纏物語』お読み頂き有難うございます。章で区切りませんけど今話から『四神相応の地』編に突入します!般若面の(女?)は、何者なのか?


 砕けたしまった月下の刀…圧倒的な般若の術!果たして優に成す術はあるのか?次話にご期待下さい…


次回予告……


『其之肆拾捌話 正体』


 刀を失った優に向かって無慈悲に斬り掛かってくる般若、その時、何かの気配を感じ取った。其れは右の腰に刺してある

短刀…からだったのかもしれない。優は咄嗟に右手で短刀を抜き、そのまま三の太刀を迎え討った!


『シュパッ!』


 短刀は、般若の刀を斬り裂き、『パラパラパラ……』と崩れ消え去った、。短刀が斬ったのは陣だけではなかった……佇む般若の面が『パキッ』と乾いた音を立て半分に割れ落ちた。




 



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