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纏物語  作者: つばき春花
第弐章 六人の宮司と蘇りし鬼姫
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其之卅漆話 悪だくみ

 ここは高塚山中腹の山奥深くにある幾年も人が訪れた気配が無い人々から忘れ去られたやしろ。高い木々が生茂り、その天にも届きそうな木々は日差しを遮り、日中にも関わらず足元が薄っすらとしか見えない程の暗い山奥にある社であった。


 その社中で一本の揺らめく蝋燭の灯りを中心に丸く座している六人衆。その出立は全員が白い狩衣、そして顔には面をつけ、その面には何か術の文字が記してあった。それは恐らくお互いの心中を読まれないまじないの文字であろう。見るからに怪しき宮司みやつかさ達。今、ここで秘密裏の会合が開かれていた。

「西の神がおいでになられていないようだが……」


「あ奴が来れる訳無かろう。『東城の老いぼれなど儂の天狗だけで十分』と豪語していたのにあの始末……しかも天狗が小娘にあっさりと祓われ、挙げ句我等が苦労して手に入れた千里乃守の御魂をも失ってしまったのだからな」


「そうだ!せっかく小娘を誑し東城舞美を誘い出したのにな!」


「しかし東城舞美の清き力を奪うにはあと一歩の所だった。それを考えれば今回の策は惜しかったという所か……」


「しかしあの小娘……青井優。清き心の持ち主にして青き月の力の継承者となった……まだ未熟な上放っておっても我等の脅威にはなるまいと高を括っておった……。今となっては少々厄介な事になった……」


「だから私は早くその小娘を始末しろと言っておったのだ!」


「…………」


 そして暫くの沈黙の後、恐らくこの六人衆を束ねていると思われる長が口を開いた。

 

「皆様方、東城舞美を侮ってはいけません。我々は彼女を誘い出したと思っているのかもしれませんが実際はその逆……五珠と千里乃守の御魂を塚から奪った我等の居場所を突き止め、同時に我等の正体を探る為故意に我等が集うこの人吉に……孫娘の下へ赴いた……とも考えられます、いやむしろそう考えた方が宜しいかと……」


「そんな事はありえない! 我等が隠密に塚を探し出して封印を壊し、御魂を奪った事など、塚の場所さえ知らぬ東城舞美がどうして知り得ようか!」


「彼女が持つ青き月の力……その力が五珠に共鳴しているとしたら……」


「青き月の力には我等が知り得ない特別な力がある……そう考えるべきだと長は考えておられるのか?」


「そう言う事です」


「その力が塚の封印を壊した時、東城舞美が何かを感じた……とか……」


「うむ……それもそうだか、それよりも気に掛かる事がある。千里乃守の力を取り込んだおった天狗が祓われた……となると……」


「そうだ、そうなると我等が封じた千里乃守の封印が解ける! そうなると恐らく……」


「いや、恐らくではなく間違いなく千里乃守はここ(人吉)に来るであろう……」

 

「それもまた厄介だな……」


「最初の計画通りに行っておけばこの様な手間がかからなかったのに!」


「いや、そうではない。当初の計画では五珠の力を得た東城舞美が蛇鬼と真面に戦っても間違いなく蛇鬼が東城舞美を打ち倒していた。其れぐらい邪鬼な力は最凶で強大だった……」


「そうだ! 邪鬼が東城舞美に祓われるなど誰も予想だにしていなかった!」


「それもこれも裏切った邪鬼の分身……青鬼のせいだ……。まさに予想外の出来事……そして邪鬼の唯一の弱み、月光を自ら取り込み『青き月の力』とし、強力な力を得て東城舞美と共に邪鬼を祓ってしまうとは……」

 

「我等が主にして日ノ本を統べる姫、鬼弥呼を蘇らせるには五珠の力と清い力、そして蛇鬼の邪悪な霊が必要だったのだ! それが叶わなくなった今、どうやって其れを成し遂げられようか!」


「そういきり立ちなすな。まだ望みはある。五珠はまだ我らの手の内にあって青井優が持つ清き力も我等の手の届く所にある。問題は邪鬼程の兇悪な霊をどうするかだ……」


「えぇぃ! ここで不毛な議論を交わしていても埒が明かん! 次は私の妖者を向かわせる! こうなれば小娘だろうが手加減はしない、どんな手を使ってでも清き力を奪い取る! 良かろうな皆の衆!」


「異議なし……」

 

「我等が長! 私、北の守の妖者を向かわせる事に異論は無かろうな!」

 

「……異論はありませんが……貴方の妖者が万が一……祓われる事になったら……御魂の一つが失われる事を……くれぐれもお忘れなく……」


「わ、和解っておる!(くっ!この成り上がりの青二才がっ!)私はこれで失礼する!」


 荒々しい言葉を残し、その宮司は社から出ていった。


「しかし我等が長、南東の守が申した通り邪鬼に匹敵するような兇悪なたましいを如何するおつもりですか?」


「…………いくつか策は考えています……しかし今直ぐどうこうできる事ではないので……少々時間と手間が掛かりそうです。まぁ気長に参りましょう……」


 そうして会合は静かに終わり、宮司達は一人また一人と社を後にし暗い森の中に姿を消していった。


 そして一人、社に残った長……。


「まぁ……幾ら邪悪な力を持つ妖者を持ってしても『青き月の力』を持つ青井優には敵いますまい……」


 長は立ち上がり面を外しながら続ける。


「五珠の力……清き力……そして蛇鬼の霊……それ等を合わせた力に匹敵する、いやそれをも凌駕する悪しき力……鬼姫……。その力を手に入れる為には……どんな犠牲も……私は……厭わない。皆様方には、その糧になっていただき……それまで……せいぜい時間稼ぎをしていただかないと……」


 素性も名もわからぬ六人の宮司達。再び日ノ本に迫る黒い影。果たしてこの六人の正体は? 我が主と讃えられる『鬼弥呼』とは。そして優の内にある『清き心』を手に入れようと企む者の魔の手が迫っている事を……優はまだ知るよしもなかった。



【嫗めぐみ降臨】


 数日後の夕刻……


 人吉駅十七時十五分着の列車が三分ほど遅れて三番ホームに到着した。その列車の四番車両から一人の女子高生がホームに降り立った。長い艷やかな黒髪に色白の肌。まるで日本人形の様な美女。今の季節に合わない冬のセーラー服姿で荷物はなく、静々と人吉駅の改札を歩み出て呟いた。

 

「ちょっと……蒸し暑いわね……ここ(人吉)」


妖艶なこの女子高生の正体とは……。


                               続く……



 

 つばき春花です、『纏物語』お読み頂き有難うございます!嫗めぐみ、登場です。この物語の中で常に重要な位置に居てもらってます。めぐみの活躍をお楽しみください。



次回予告『其之卅捌話 その娘、嫗めぐみ」


「あなた、青井優……さん?」


か細く澄んだ声だった。


「は、はい……そうですけど……」


 優の返事を聞いたその娘の口元が少し、ほんの少しだけ微笑んだ気がする。


「そう……」


ご一読よろしくお願いします。


        つばき春花

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