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纏物語  作者: つばき春花
第壱章 五珠の御魂と月下の刀
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其之廿伍話 洞窟での死闘

 満月の日まで後三日、涼介は現れなかった。もっと聞きたい事や伝えたい事があったのに。揺れ動く舞美の心、そんな舞美を心配してかオジイ達が諭す。


「舞美、分かっていると思うが涼介は……」


「分かってる!分かってるに決まってるでしょ!彼は鬼! いくら優しくても人の姿をしていても彼は鬼!でも、でも!私は……。だから……だから苦しいのっ!辛いのっ!」


 舞美は声を荒らげオジイ達に食って掛かった。そしてベッドに横たわり目を閉じて大きなため息をついた。


 そして舞美は、大きな悩みを胸に秘めたまま、満月の日を迎える。結局嫗めぐみは、今日まで舞美の前には現れなかった。しかし大蛇がいる洞窟には必ず来てくれると舞美は思っていた、いや思いたかった。


 その日、舞美と羅神は一旦近くの公園へと向かう。嫗めぐみが待っているかもしれないからだ。しかし公園についてもめぐみの姿はどこにもなかった。


「千里はやはり来ぬか……」


「親の敵の話など信用出来ないと言う気持ちは…分からないでもないが…」


「そうじゃ!これは奴ら鬼の罠かもしれぬぞ!」


「たとえ洞窟があったとしても、そこで蛇鬼と共に待伏せされておれば…」


 悪い事ばかり考え、あたふたするオジイ達に舞美は、呆れた様子でため息を一つ付き、笑いながらこう言い放った。


「行ってみなけりゃわからないじゃない!まさに『鬼が出るか蛇が出るか』じゃないのっ!まぁどっちが出ても蹴散らして祓ってやるだけよっ!」


 そう威勢よく啖呵を切ると、羅神を呼び寄せ、大きく手を広げ拍を打った。


「行くわよっ羅神! 雷纏!」


 舞美は難なく羅神を纏い、雷激剱を腰に差し、ふわりと満月の夜空に舞い上がった。


 


【岩隗山】




 岩隗山がんかいざん。榊市の北東に位置し、連なった山々の中で一番標高が高い山である。山の起伏が激しいため登山道は整備されておらず、その為山に立ち入る者は殆どいない。


 満月が青白く輝く夜空……。


「綺麗……月がとっても綺麗よ……涼介君……」


 舞美が呟く。


 そうして岩塊山の反対側にたどり着いたが、まだ月明かりに照らされない山肌は、真っ暗で何も見えなかった。


 舞美が一先ず、大きな岩の上に降り立つ。すると風もないのに山肌の木々が


『ザワザワザワ……』


と騒ぎ立てた。次の瞬間!


『ヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッ‼』


 突風の様な風切り音が聞こえ、暗闇の中から得体のしれない何かが無数に飛んでくる気配を捉えた。その気配に舞美は瞬時に防御の術を唱えた!


「雷壁!」


『パァァァァァァァァン! バリバリバリバリバリィィィ!』


 自身の体の周りに雷撃の壁を作り出し、飛んできた何かを瞬時に焼き尽くした。


「こ、これは……あの時と同じ……呪木の蔦!?」


「そうじゃ!こんな所に何故呪木が!? 舞美!あれに捕まると厄介じゃぞ!」


「そんなの分かってるわよっ!」


 舞美は、神眼であたりを見渡す。すると山肌の木々の殆どが呪木で埋め尽くされていた。大きさは、以前祓った呪木よりも全然小さかったが如何せん数が多すぎる。


 しかし舞美は臆することなく手を広げ言い放つ。


「この前の私と同じと思うなよぉぉ!こっちには羅神がついてるんだからぁ!」


 そう言いながら剱を振りかざし術を唱える。


「行くわよぉぉ!雷雲よっ来たれぇ!」


 舞美の頭上に雷鳴が轟き、雷を伴った雲が渦を巻き始める。


「雷地!」


 雷撃剱を真下に振りかざす、すると下方地面に火花が散り始める。


『バチッバチッバチッッバチッバチッバチッッバチッバチッバチッッ!』


 しかしすでに下からは、雷壁に蹴散らされた呪木の蔦が再生しながら集結し、まるで大波のように下から伸び上がってきている。


 そしてその波が舞美を呑み込もうとするその寸前、剱を振り上げ言の葉を叫ぶ!


「天地雷撃ぃ!」


『バババッバババッババババッバババッバババッババババッバババッバババッババババッバババッバババッ! ドドォォォン!』


 頭上からの雷撃と地上から上空に向かって凄まじい雷撃が発生し大波のような蔦と呪木を一瞬で焼き尽くした。


 しかし雷撃で焼き尽くしたはずの呪木の根から、次々と新しい芽が出始める。


「これは、元を倒さぬときりがないという事か、どうするよ舞美…」


「なぁに、出てきたらまた焼き尽くすまでよっ!」(とは言ったものの、どうしよう…この数…)


 正直舞美は焦っていた。しかしその時、月明かりが徐々に舞美達がいる反対側の山肌を照らし始めた。すると呪木の根があっという間に枯れ腐れ、跡形もなく消えてしまった。その跡に大きな丸い岩が現れた。その岩の横に人一人通れるような竪穴があった。そこが洞窟への入り口だった。舞美は、目をつむり大きく深呼吸をした。


「羅神……オジイ……行くよ……」


 そう呟き洞窟へと入って行った。


 真っ暗な穴を進んでいくと舞美の後ろかすうっと風が抜けたと同時に目の前が開けた。そこは、外からは考えられない程のとてつもなく広い空間が広がっていた。


「山の中にこんなに広い洞窟が⁉ ここに大蛇がいるの? 大蛇はどこ⁉」


 神眼で洞窟の中を見渡すが大蛇の姿は見当たらない。そこで舞美は、意を決して雷神剱を振り翳す。剣先から火花が散り次第にそれが大きな雷雲を呼んだ。そして雷神剱を大きく頭上に振りかざし唱える。


「雷神の雨!」


『バシャァァァン!バチバチバチヴゥゥゥン‼』』


洞窟の中全体に激しい雷の雨が降り注ぎ電撃が地面を走り、洞窟の中が眩い光で溢れる。


 すると岩と思っていた塊がズルズルズルっと動きだした。いや、岩ではない、と思う矢先にぬうぅぅっと大きな何かが頭をもたげた。それは大蛇…大蛇の頭だった。


 それを見た舞美が呟く。


「大きい……大きすぎる……」


 あまりの大きさに言葉を失う舞美。長さは百八尺(三十三㍍)、胴の太さはドラム缶二つ分ぐらいはある。黒褐色の体に大きく見開き黄色く光り輝く眼球、裂けた口からは炎がチロチロ漏れ出ている。舞美は雷神剱をぎゅっと握りしめ大きく振りかぶり大蛇に切りつけた。


「やあぁぁぁぁぁぁ!!」


『キン!キンキンキンキンッ!』


「雷撃!」


『ビカッ!バァァァン!』


 大蛇の体は硬くまるで金属のような音を響かせ雷神の剱を跳ね返す。そして雷撃もまともに受けたはずなのにビクともしなかった。


 大蛇は首を擡げ、口をガパッと開けた次の瞬間、灼熱の炎が吐き出された。


『ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!』


「雷壁!」


 瞬時に雷壁を纏い防ごうとしたが雷珠では炎の類は防ぎきれない! まともに火焔を受けた舞美。


「キャァァァァァァァァァァ! 熱いぃぃぃ!」


 余りの熱さに、のたうち回った舞美は、炎を振り払い、羅神を解き放ち赤珠を纏った。


「『目には目を火には火を』よ! 火焔爆壁!」


 纏を爆焔させ壁を作る舞美。しかし大蛇は地面に向かって火焔、いやマグマのような粘り気のある火を放った。急激に洞窟内の温度が急上昇する。


 するとその強力な炎で舞美の火焔壁が崩れ出し、大蛇の強力な炎に取り込まれていく。


「う、嘘でしょ!?」


「舞美! このままじゃと奴の火に纏が焼かれてしまうぞ! なんとかせんかっ!」


『駄目だ…このままじゃ…敵わない…』と悟った舞美。ここは引く事を考えた。


「オジイ、羅神、ここは一旦引くわよ!」


 舞美は出口に向かった。しかし『ずずぅぅん!』と大蛇のしっぽが舞美を必要に追いかけ、洞窟から逃がしてくれそうもなかった。もう大蛇の攻撃を避けるだけで精一杯の舞美。そして纏が大蛇の炎で焼き崩れ始める

 

「駄目だ出口が閉じる! 間に合わない! 私やられちゃう……ごめんなさい……涼介君……ごめん……なさい」


 閉じる穴を見つめながら諦めかけた、その時だった。


                                つづく……


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