其之廿参話 破蛇の剱
蛇鬼の力は強大で極悪、今の舞美達では太刀打ちできないと言う涼介。しかし一つだけ邪鬼を倒すことが出来る手段があると言う。その手段とは?
舞美は涼介の姿を見ると涙を我慢することが出来ず、歩み寄りながらポロポロ泣き始めてしまった。
そして涼介の前に立ち尽くし呟いた……。
「涼介君……会いたかった……」
涼介に対する思い……一番に伝えたかった言葉……。
その言葉を聞いた鬼……いや、涼介はブランコから立ち上がり悲しい目で優しく微笑みながら舞美の目を一瞬見つめ、そして直ぐに目を逸らしながら俯き、震える声で話し始めた。
「ごめん……なさい……舞美さん……。貴方を騙すつもりはなかった……。でも僕が……鬼と分かったら……もう会ってくれなくなるだろうし……。僕の事はいつか言おうと思っていたけど……早く言わなくちゃいけないと……思っていたんだけど……伝える勇気がなくて……ごめんなさい……」
涼介が邪鬼を倒せるかもしれない方法について、話を始めた。
「それは、榊の村、北東にある山、蛇煌山に巣食う大蛇、その大蛇の腹にあるという『破蛇の剱』を手に入れる事です」
榊市の北東にある山、今現在は岩塊山と呼ばれているが昔の風土記には、確かに蛇煌山と記してあった。涼介が話を続ける。
「蛇煌山の中腹に巨大な岩の塊が山肌にむき出しになっています。満月の夜の丑の刻、その岩が月光に晒されると、半刻だけ、洞窟への入り口が現れます。その洞窟に巣食う大蛇を打ち倒し、その腹にある「破蛇の剱」を手に入れる事が出来れば……蛇鬼を祓う事が出来るかもしれません」
その言葉を聞き虎五郎が涼介に問う。
「大蛇とは? 昔神の子が倒したというあれか?」
「そう思っていただいて結構です。しかしそれは神話での話。この大蛇の大きさは百六十五尺、口から吐く息は鉄をも溶かす灼熱の火焔。尻尾の一撃は硬い岩石をも粉々に砕く程の威力があると聞きます」
さらに源三郎が問う。
「たとえ破蛇の剱を手に入れたとしても本当に蛇鬼を倒せるのか?」
「そうじゃそうじゃ! お主言っておったじゃろ『祓えるかもしれない』と。『かもしれない』とはどういう事だ?」
「そうだ! 『かもしれない』という確証がない、そんな危険な場所に舞美を行かせる訳にはいかん!」
その言葉を聞き涼介は、顔を上げてオジイ達に訴えた。
「そうです……。破蛇の剱を手にしても確実に蛇鬼を……兄者を祓えるとは限りません。でも、もうそれしか方法がないんです! そして破蛇の剱には、鬼の私にも分からない惡氣を祓う力があると聞いています。その剱にあなた方の五珠の力』そして舞美さんの『清い力』が加われば必ず兄者を祓う事が出来るはずなんです!」
そう訴えると涼介の表情が急に険しくなり、頻りに上空を気にし始めたと同時に少し早口になった。
「洞窟の入口は満月に開きしかも半刻で閉じる、閉じたら最後そこから出るには大蛇を倒す他ありません、舞美さんなら大蛇を倒してくれると信じてます。次の満月は一週間後、お願いします皆さん僕に力を貸してください……お願いしま……」
そう言いながら暗闇に溶け込んでいった……と同時に、羅神に跨った嫗めぐみが、上空から舞美達の前に舞い降りた。
羅神からひらりと降りる嫗めぐみ。辺りを見回した後、皆の前でぼそっと呟く。
「鬼の気配です……皆様方……何をやっておられたのですか?」
嫗の顔は無表情だったが、全てを知っているかのように拳をギリッギリッと握りしめ、体からは殺気を放ち、確実に怒り心頭の様子だった。
「彦……様……」
「あっあぁぁあっ……何だったかのぉ……そのぉぉ」
それを見かねた舞美が、嫗めぐみに涼介が伝えた事を説明し始めた。めぐみは眉一つ動かさず、無表情で舞美の話を聞いていた。しかし心の中では、腸が煮えくり返るほどの怒りが込み上げていただろう。それもそのはずだ。鬼はめぐみの同胞だけではなく最愛の両親をも亡きものにしたのだから。それは涼介の所業ではなかったが、めぐみにとっては涼介も蛇鬼も同じ鬼であった。
舞美からの話を聞いてめぐみは、落ち着いた口調で言い放った。
「どんなに御託を並べようとも……どんなに綺麗事を並べても……私は、鬼を信用する事は……できません」
そう言い返し夜空に飛び去った。




