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纏物語  作者: つばき春花
第参章 月姫と月読尊
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其之百拾弐話 新たな刺客 



 

 遥か昔の事である。日本武尊が東征の際、御岳山から西北に進もうとされた時、深山の邪神が大きな白鹿と化し道を塞いだ。尊は山蒜で大鹿を退治したがそのとき山谷鳴動して雲霧が発生し、道に迷われてしまった。そこへ、忽然と白狼が現れ、西北へ尊を導いた。尊は白狼に『大口真神としてここに留まり、すべての魔物を退治せよ』と仰せられた。



【白い大きな犬】


『キーンコーンカーンコーン……』


二時間目が終り暫しの休み時間に入る。


「ああぁぁぁぁぁ……ふぁぁぁぁぁぁ……」


大きな口を開けあくびをしながら両手を上げ背伸びをする。

 

「次は……げっ?! 数学ぅぅ……昨日は隣の列が当てられたから今日は私の列かもぉ……嫌だなぁ」


そう言いながら頬杖を付き外に目をやると……グラウンドの中ごろに一匹の大きな白い犬がポツンと鎮座し、一縷の居る三階を見あげていた。 


(なんだろ? 学校の中に……あんな大きな犬が入って来てる。皆見えないのかなぁ?)


遠くから見ても分かる程、白い犬、その座った大きさは、一縷の身の丈位はある。


そう思っていると、次の授業体育だろか、クラスの男子数人がサッカーボールをドリブルしながら犬の方へ猛然と走り寄って行く。


「ああああああああああああっ!! 犬ぅぅぅ!!」


一縷は、男子達が犬に襲われると思い、叫びながら勢いよく立ち上がると辺りの机を押しのけながら窓に走り寄った。


『ガダンッドンガラァン! ガダンダダン!!』


そして窓を思いっ切り開け放ち叫んだ。


『ガララララァバンッ!!』  


しかし、慌てた一縷は、『大きな犬がいる、逃げて!』と言いたかったのだか……


「し、白いいぃぃぃぃいぬぅぅぅぅぅ!!!!」


これだけしか言うことが出来なかった。


一縷の絶叫がグラウンドに響き渡る。


その余りにも大きな声に男子達は、驚きと共にピタッと立ち止まり呆気に取られた様子で、一縷が身を乗り出す三階の窓を見上げる。そしてその男子達の中心には、何事もなく鎮座し続ける白い大きな犬。


(え? あの犬……皆に……見えて……ない?)


その騒ぎをよそに、白い犬は、ゆっくり立ち上がると何事もなかったかのように飛び立ち、家々の屋根伝いに跳ね飛びながら街の向こうへ去って行った。


それを茫然と見送る一縷……


(あの犬……一体なんなの?)


そう思いつつ振り返ると、教室の中が水を打ったように『シーン……』と静まり返り、クラス全員の『こいつ大丈夫か?』という眼差しが一斉に一縷に向けられていた。


「あ? あ、ああは……あは……あはは……ワ……ワン!ワン!……なんちゃって……」



【対の狼】


その日、帰宅すると台所のテーブルに座るとおやつを食べながら母、舞に今日あった出来事を話した。


「お母さん、今日ね不思議な事があったんだ。学校のグラウンドにね、大きな犬が居たの。でもその犬は外の人には見えなくて、私にだけ見えていたみたいなの……」


包丁を握りキャベツを切る舞の手が止まる。


「白い……犬?」


「そう白い犬、しかもとても大きかった!」


「ふぅぅぅん……」


そう返事を返しながら再びキャベツを切り始めた舞、そこへ……


「そ奴は、恐らく神面衆の一人……ポリポリポリ……」


「あぁぁっ?! 私のポテトチップ! いつの間にっ?!」


何処ともなく現れた月姫が一縷の食べていたポテトチップの袋をいつの間にか手にし、貪りながら話し始めた。因みに月姫は普段、渡された青い勾玉の首飾りの中で眠っており一縷はそれを肌身離さず身に着けている。


「あれは、犬ではない。狼、白狼はくろうじゃ。しかし……あ奴がまで来ているとは……」


「月姫様、あの白い犬……狼をご存じなんですか?」


「ああ、あれはその昔、日本武尊やまとたけるのみことに侍従していたろうだ。あるやしろに仕え、みことの命によりそこら一帯の山脈に巣窟う妖者を、全て祓い清めた手練。そして、この狼は、ついの神面衆。


「対? 双子って事?」


(うむ……一人は風神の狼、その一閃は、疾風の如き神速。斬速は、相手が斬られた事を気付かせないほどの瞬斬剣。そして対の神面衆……雷神の狼。その力は、まさに雷の神。天地を揺るがすその雷撃は山を砕き、海をも真っ二つに割る。凄まじい雷狼の一撃からは、誰も逃れる事叶わず…………しかし此奴は遥か昔、行方知れずになった……と聞く)


「風神の狼と雷神の狼……そう言えばお母さん雷の纏を纏うよね!」


一縷のその問いかけより早く、既に包丁を持つ舞の手がぴたりと止まり、月姫の話を聞き入っていた。


「雷神の……狼」


舞は、顔を上げぽつりと呟いた。舞の脳裏に浮かんだのは、嘗て東城舞美と共に蛇鬼と闘い、自らの命を賭して舞美を守ろうとした雷獣『羅神』の事だった。舞美と羅神の馴れ初めを、詳しく聞いてはいないが昔飼っていた犬の生まれ変わりだと言っていたのを思い出した。羅神は、あの闘いで倒れてしまったがその雷獣の御魂は、僅かではあるが嫗めぐみの中に生き続けていた。


(一縷よ、ろうがお主の前に姿を現したとすれば、決戦の日は近い。油断するなよ)



つづく……








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