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纏物語  作者: つばき春花
第参章 月姫と月読尊
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其之百伍話 巡る運命

衝撃的な告白をさらっと言い放った凛。その衝撃的な事実に、夕食中に箸と茶碗を持ったままフリーズする一縷。


「どうしたの一縷?」


舞が心配して声を掛けると『はっ……』と我に返り、慌てて返事をする。


「ななななんでも……ない……」


蛇鬼。遥か昔、日ノ本を恐怖に陥れた最恐最悪の鬼。それが数十年前の現代に再び蘇り、日ノ本を恐怖に陥れようと企てたのを阻止した舞の伯母、東城舞美と五珠の御魂、そして嫗千里乃守。


その物語を一縷は、五人のオジイ達から、まるで絵本を読み聞かせるように聞いてはいた……それは壮絶で、とても悲しい戦いだったと……。


蛇鬼は、残虐で冷酷無慈悲。己の欲望を成就する為には、手段を択ばない卑劣な鬼。幾人もの人が喰われ、幾人もの宮司みやつかさがその戦いで命を落とした、その中には嫗千里乃守の両親も含まれていた。


母親の舞(嫗めぐみ)にとって蛇鬼は、決して許す事が出来ない両親の敵……その蛇鬼の子孫が親友の蘭子だなんて……なまじ信じられない、いや信じたくなかった。


自分の部屋に帰り、机に座ってもその事で頭が一杯になり宿題に手が付かない。堪らず机に伏せ、独り言のようにオジイ達に語り掛ける。


「ねぇオジイぃ……どうしたらいいのぉ……。お母さんに相談したいけど、お母さんの両親は、蛇鬼に殺されたんでしょ? その蛇鬼の子孫が蘭子だなんて……お母さんに言える訳ないよぉ……」


すると彦一郎が語り掛けてきた。


(確かに千里の両親は、蛇鬼に亡き者にされた。しかしその敵は、舞美が見事取った、完膚なきまでにな)


(正にそうだ。仮にその娘が子孫だったとしても、蛇鬼が甦るという事ではなかろう?)


「う……うん……」


そう返事を返した一縷だったが……心当たりがない訳ではなかった。其れは、初めて道場に来た時の事、自分じゃなく蘭子に突っ込んで行った悪霊もどき……そしてあの時……まるで蛇の様にまなこが縦に割れた黄色い瞳で……まるで仇の様に鬼の形相で舞に斬りかかっていた。それは、東城の血を引く者に向けられた、蛇鬼の怨念、恨みの現れではなかったのか……。


それを考えると、もう悪い予感しかしない、一縷の胸の内は、不安でたまらなかった。


一縷の不安をよそに、蘭子は普段と何ら変わる事無く接して来る。それに必死に応えようとする一縷……ある日、顔をまじまじと見つめながら聞いてきた。


「ねぇ……一縷……なんかさぁ最近考え事多くない? 悩み事ぉ? 話、聞くよ……」


「えっ? 悩み? なな、何も無いよ!」


慌てて誤魔化すと……


「ははぁぁん? ひょっとしたらぁ好きな男子出来たぁ?! 誰よ誰よっ!?」


「違うよ、そんなのないない! でも有り難う、心配してくれて……」


オジイ達の言う通り、例え蛇鬼の血が流れていても蘭子が鬼になる訳ではない……そう強く思い、自分の中にある不安を必死に押し殺ろそうとする一縷……。東城家と蛇鬼の闘い……それは巡る運命かもしれない。




【牛頭との再戦】


昼休み、いつもであれば蘭子と二人で視聴覚フロアや教室で他愛のないおしゃべりで過ごすのだが、今日は『委員会の集まりがある』と実際にはない用事を作って一人、屋上で黄昏ていた。考えれば考える程不安は募るばかり、その内に気持ちが苛立ってきた、それはいつまでもウジウジと悩み考える自分に向けてである。


「あぁぁぁぁっ!! もぉぉぉだんだん苛々してきた! こんなに悩むなんて私らしくない! なるようにしかならないのよ。問題ないない、何とかなるなる!!」


そう言いつつ教室に帰ろうとした時……当たりが急に闇に包まれ……時の流れが……止まった。


「なに? なんなのこれは……」


しかし一縷が慌てる事はなかった。落ち着き払い、辺りを注意深く警戒する。すると闇の中から音もなく歩み(いずる白い纏を纏った巨漢の者。それは、先日対峙した牛の面の者、その名は牛頭。


「小娘! 先日は、邪魔が入り失礼した。改めて月下の半刀ば、もらい受けに来たばい。怪我ばしたくなかなら、おとなしく渡したらよか!」


(オジイ……この牛なんて言ってるの? 何言ってるか、全然分かんないんだけど!)


(うぅぅん……恐らく筑紫島の言葉かのぉ……)


(馬鹿者! 筑紫島なんぞお主、何時の時代の人間じゃ! 今は九州と言うのじゃ! したがってこれは九州訛りじゃ!)


(まぁ訳せば『月下の半刀を貰いに来た、怪我をしたくなかったら大人しく渡しなさい』と言ったところか……)


「渡せと言われて素直に渡す馬鹿がどこにいるのよっ! それに……今の私は……あの時の私とは、ちょっと違うからねっ!」


そう言いつつ纏を纏う拍を打つ……と思われたが一縷の身体から金色の神氣が吹き出したと同時に瞬で黄金こんじき色の纏を纏った。その纏は、袖は肩までしかなく丈も短く太ももが露になっている。その両腕には、甲冑の様な黒い武具を装備し両足にも膝から下に掛けて黒い武具のようなものを履いていた。


「牛頭! この間はやってくれたわねっ! お返しさせてもらいねっ!! おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」


一縷の身体が一瞬で牛頭の懐に入り込む、そして右の拳が脇腹に深くめり込むっ!


『ドゴォォゴッ!! ボギギッ!! メリメリメリッ……』


牛頭の身体が真横に向けてくの字に折れる。


「グッ?!! グゲッ!!ガハハッッ!!」


「おりゃぁぁぁっっっ!!! もういっちょぉぉぉぉ!!」


『バギッ!!』


「オグッ!!グゲェェ!!」


折れ曲がった牛頭の顔面に容赦ない強烈な左足の蹴りが入るっ! その巨体は、軽々と蹴り飛ばされ屋上を激しく転がり、壁に叩きつけられて止まった。


「ぐぉぉぉぉ……なんだぁぁ……この力、この神氣はぁぁ……儂ば……儂のこの体ば……軽々と蹴り飛ばすとは……なんちゅう凄か力たい……ゲハッ!ゴハッ!」


僅か二発で回復し様がない程のダメージを負い、横たわる牛頭に一縷は、ゆっくりと近づき腕を組み言い放った。


「降参しなさい牛頭! そしてもうここには来ないでっ!」


「ほ……ほぉぉ……言うなぁ……小娘よ……。確かにこれでは、儂は諦めるしかなかなぁ……。それにお前の腰の物……それは……月下の刀か?」


「そうよ……私が受け継いだ、真真まことまことし月下の刀よ。」


それを聞いた牛頭は、仰向けに横たわり呟いた。


「そうか……月下の刀は……甦ったのか。月下の刀に平野藤四郎……それに五珠の御魂……それを備えた主に……儂が……儂が敵う訳なかぁ……おとなしく引き上げるとするばい」


牛頭は、そう言いながらゆっくり立ち上がった、その時、牛頭の身体が不自然な体制で金縛りにあったように動かなくなった。


「ぐっ……がっ……お前っ……はっ……………なぜ?……お前がっ?……」


何かを訴えようとしている牛頭、その身体に背中から何かが這い出てきた。それは、巨大な百足、黒光りする巨大な百足が牛頭の身体に巻き付き、締め付けるそして……


『ピシッ……ピシピシッ……ピシピシピシピシッ…………』


「ぐあはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」


『ボボォォォンン!!』


甲高いひび割れ音の後、断末魔と共に牛頭の身体が粉々に弾け、泡となって消えた。


辺りに静けさと暗闇が戻る、その闇の何処か……そう遠くない闇の中から『シャリッ……シャリッ……シャリッ……』っと何者かが近づいてくる足音が聞こえる。その足音が止まり、暫くの静けさの後、足音が止まった所とは、別の方向から声がした。


「弱き者……力なき者は……目障りである……早々と消え去るがよい……」




つづく……

纏物語お読みいただきありがとうございます。月曜日お約束の投稿日となりました。今ラジオからYMCAが流れてます(西城秀樹ではない方です)明日も投稿できるよう頑張ります。次は、アチチが流れ始めました(郷ひろみじゃない方です)


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