其之百参話 優の涙
【夢を叶えた青井優】
優は、大学卒業後地元、人吉市の教員採用試験に見事合格し『地元で学校の先生になる』という夢を叶えた。現在人吉市立、人吉第二中学校の三年一組の担任として生徒達からだけでははなく、保護者からも信頼が厚い。
私生活では、地元の男性と結婚し一男二女を授かり幸せな家庭を築いている。
【めぐみと優】
翌日の早朝。榊駅、一縷と舞は、朝一発の新幹線で帰熊の途へ着く優を見送りに来ていた。
「もっとゆっくり出来ればよかったんだけどね、三年生の担任だから進路相談なんかでいろいろ忙しくてね! 子どもも三人も居れば、あの人一人じゃ一日が限界! 全く手に負えないみたいだしね!」
「お互い大変だね……」
労いの言葉を掛けながら微笑みを浮かべ、優を見つめる舞。それに応えるように笑みを浮かべ舞を見つめる優。しかしその瞳から一筋の涙が流れると、荷物を放り出し舞を抱きしめ泣きながら耳元で囁いた。
「私……私……こんな時に、何も……何も出来ないなんて……一縷さんを助けてあげられない自分が……情けなくて……悔しくて、悔しくて堪らないの。ホントはね……刀を握ったらおじいちゃんが……涼介おじいちゃんが戻って来てくれるかなって……思ってたの。でも駄目で……この先一縷さんが、刀のせいで、舞美おばあちゃんや私の様な……辛い思いをするかもしれないと思うと……助けてあげられないと思うと……悔しくて堪らないの……」
悔し涙を流しながら、必死に訴えるその言葉に舞は、こう……返した。
「何を言ってるの優? 舞美から月下の刀を受け継いだ貴方は、不幸せだったの? 舞美はそんな事一度も言わなかった。確かに辛い事もあったけど……それ以上に貴方達が、舞美と優が幸せにした人が、この街にも、貴方の街にも、沢山いる。それに、あの時貴方は言った……『私はこの街で幸せになる』って。辛かったあの時を乗り越えて貴方は、夢を叶えた、そして今の幸せを手に入れた……」
「めぐみ……さん……」
「だから、そんなに自分を卑下にしないで。一縷は、大丈夫。この子は、心も体も強い。東城の血を引く者だし……なんといってもあの能天気で無鉄砲な舞の子どもです。私も全力でこの子を守る……だから、だから何も心配しないで優……」
舞は、そう言いながら優のおでこに自分のおでこを軽くぶつけた。
『プルルルルルルルルルルルル……』新幹線の発車時刻を知らせるベルの音が響く。優は、一縷の元へ歩み寄りしっかりと手を握った。そして瞳を見つめ微笑みながら語り掛けた。
「願わくば……一縷に……早く、出来るだけ早く、私の様な……幸せな日々が訪れる事を……切に願います……ふふふふっ!」
この台詞は、舞美が優に五珠の腕輪を託した時に掛けた言葉を少し捩ったものだった。
そして荷物を持ち車両に乗り込むと深々と頭を下げ、上げたと同時に……
「舞っ! 一縷さん!」
と二人の名を叫び、満面の笑みを浮かべながら両手で拳を作り胸の前でガッツポーズを取った。そして『プシュゥゥゥゥゥゥ……』っと扉が閉まると、その掌を広げて、小さく両手を振った。それに応えるように二人は、大きく手を振り返した。
新幹線が動き出し少しづつ速度が上がる、その動く車両に合わせ一縷は、優の姿を追いかけながら手を振り続け、それは新幹線がホームから見えなくなるまで続けられた。カーブの先に消えていく列車を見つめながら一縷は、思う。
(優さん……またいつか、きっと……きっと会えるよね……)
つづく……
読者様『纏物語』お読みいただき本当にありがとうございます。感謝感謝感謝感謝感謝感謝感謝。今話短くてすみません、手は抜いておりません、プロット書けない私、ネタが尽きそうですが次回もご期待ください。
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