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霊能力美少女の家 ―逝かせてあげる♡―  作者: 如月るん
第十一話 おじさまはコーヒーの香り
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その4 颯空の見学

 学校では、茉莉花たちの浄霊の仕事の噂がかなり広まっていた。


 そもそも心霊研究会が心霊現象についての相談を受け付けていること自体は知っている生徒も少なくなかった。学校と生徒会に対する活動実態のアピールのために文化祭の展示発表なども行っていたし、同時に相談募集の宣伝もしていたからだ。

 ただし、部室前の相談箱は幽霊ポストなどと呼ばれ、興味本位なごっこ遊び程度に思っている生徒の方が多かった。現に中等部の頃は相談しに来る生徒も割といたが、深刻な相談はほんの一部で、多くは中学生らしい面白半分な噂話の類いだった。中には茉莉花たちに接触したいという動機で作り話を持ち込む輩も存在した。

 それが今回、実際の仕事現場をクラスメイトに見られたために、ごっこ遊びではないという事実が知れ渡る事になった。佐々木の孫である石井も決して茉莉花たちを貶めようとして吹聴したわけではなかった。自分の祖母を目の前で送ってもらって感動すらしていた。その感動と茉莉花たちに対するリスペクトを誰かに伝えずにはいられなかっただけなのだ。

 そういう伝わり方をしているので、もとより憧れの的として見られていた茉莉花たちだったが、さらに株は上がっていた。


 当然の事ながらそういう話はクラス内だけにはとどまらない。すぐに隣のクラスの颯空の耳にも届いた。

 茉莉花たちがコーヒーなどを飲んでまったりとしている放課後の心霊研究会の部室に、颯空は嬉々としてやって来た。そして、とんなでもない事を言い出した。


「ねえ。ボクも混ぜてよ」


 茉莉花は面倒臭そうに言い放った。


「バカじゃないの?ド素人を入れるわけないでしょ?」


「そんなこと言わずに。雑用係でも何でもするから」


「あのね。わたしたち『霊能力美少女の家』を名乗ってるの。あんた美少女じゃないじゃない」


 颯空は笑った。


「その通りだとは思うけど、美少女って自分たちで言っちゃうんだ」


「なにか文句ある?」


「ないない。いいネーミングだと思うよ。……でも、ほら見て――」


 颯空は自分の胸に両掌を当てて続けた。


「――ボクが入っても違和感ないでしょ?」


 雅が体を揺らして笑いながら言った。


「確かに違和感はないわよね」


 茉莉花が雅を睨んだ。


「バカ言わないで。男なんかが入ったら違和感しかないし、看板に偽りありじゃない。JAROに訴えられるわ」


 さらに笑う雅。


「確かにウソで大げさで紛らわしいわね、颯空は」


「でしょ?それに、コイツ入れてどうすんのよ。役に立たないじゃない」


 苦笑いする雅。


「まあねえ。バイト代を払う余裕も無いしね」


 颯空が食い下がる。


「バイト代なんて要らないから」


 茉莉花の眉間にシワが寄った。


「だから素人だって言ってんのよ。わたしたちはクライアントに対して責任を負ってるし、危険に対するリスクも負ってんの。だから、それに見合った報酬をもらうプロなのよ。お遊びじゃないんだけど」


「カッコいいなぁ。どうやってプロになったの?」


 雅が答える。


「ここにいる三人は、みんな師匠と呼べる人がいて指導を受けてるのよ」


 驚く颯空。


「そうなの?ボクにも師匠を紹介して」


 顔の前で片手でゴメンをする雅。


「あたしたちも紹介してもらった立場なので、無理かな?」


「誰に紹介してもらったの?」


「あたしと茉莉花はマンチカンにだけど…」


 そこへタイミング悪くマンチカンが入ってきて、間の抜けた声で言った。


「お待たせ~」


 茉莉花が睨む。


「遅い!」


「オレ、少し遅れるって言ったよな」


「だから遅いって言ってんじゃん」


「んな理不尽な」


「早く行くよ」


「わかったわかった」


 その時、いきなり颯空がマンチカンに取りついた。


「マンチカンさんっ。お願い、ボクに師匠を紹介して」


 面食らったマンチカン。


「な、なに?この子」


 雅が答える。


「知ってるでしょ?颯空よ。一緒に海にも行ったじゃない」


「いや、そこじゃなくて、急になに?」


「師匠を紹介してほしいんだって」


 驚くマンチカン。


「え?この子を仲間に入れるの?」


 間髪を入れずに茉莉花。


「入れるわけないだろ」


「じゃあ、なんで?」


 楽しそうに雅が微笑む。


「颯空は入れてほしいそうよ」


「あー、この子が勝手に言ってるだけなのね?」


 颯空がマンチカンの腕を掴んだまま、甘えた声で言った。


「だって素人だから入れられないって言うんだもん。お願い、師匠を紹介して?そしたら、きっと役に立つから」


 困り顔のマンチカン。


「そうは言っても、オレは君のコトよく知らないし……」


「じゃあ、しばらくマンチカンさんのお手伝いをさせて?そしたら知ってもらえると思うんだ」


「いや、そんなこと言われても……」


「これからどこかへ行くところだったんでしょ?ボクも連れてって」


 茉莉花が鬼の首を取ったように言った。


「はい、残念でしたぁ。マンチカンの車は狭いから、五人で乗るのは無理でしたぁ」


 そこで雅がニヤニヤしながら言った。


「あたし、帰って夕食の支度をしようかなぁ」


 茉莉花は慌てた。


「ちょっ、なに言ってんの?仕事を放棄する気?」


「だって、桜子が確認できればいいんでしょ?あたしがいたってしょうがないじゃない」


「いやいや、雅は必要よ。美少女の家唯一の理性として」


「いや茉莉花。あなたも理性くらい持ちなさいよ」


 茉莉花は膨れる。


「だって、雅はこの状況を面白がってるだけなんでしょ?」


 ニヤッと笑う雅。


「そうだけど?」


「性格悪いね」


「いいじゃない。颯空に仕事を見学させてあげれば。別に減るもんじゃなし」


「なにそのセクハラおやじみたいな言いぐさは」


 それをスルーして、雅はマンチカンに笑いかけた。


「てことで、颯空を連れてってあげてね」


 マンチカンの顔は明らかに戸惑っている。


「いいけど、別に」


 結局は颯空も一緒に行くことになった。





 マンチカンの車は一件の家の前に停まった。マンチカンはエンジンを止めながら言った。


「ここのウチだ」


 全員が車から降りる。

 インターホンを鳴らすと中から中年の女性が出てきた。マンチカンが「徳満です」と名乗ると、少し驚きながらも全員を居間へ通した。

 この女性は問題となっている霊の娘である。浄霊のために話を聞きに来たのだ。


 依頼は最近オープンした「カフェオークレール」という喫茶店のマスターからで、開店当初から店の一番奥の席に霊が座っていたのだという。

 ところが、その霊が見える人は少なかった。マスターは元から霊感があったのですぐに見えたが、他の従業員には見えておらず、客の中でも見える者はまれだった。そのため知らずにその席に座ってしまう客もいるので、何か悪影響があるかもしれないからと、その席にはずっと「予約席」の札を立てっぱなしにしてある。

 その霊は七、八十代位に見えるが、白髪をオールバックにした洗練された身なりのスマートな男性だった。マスターはその霊が誰なのかを全く知らなかったが、あるとき近くに住む霊感のある客から正体を教えられた。

 その霊は、マスターがカフェオークレールをオープンする以前にここで喫茶店「珈琲亭浪漫」を経営していた男性だという。霊感のある客は珈琲亭浪漫の常連だったらしく、昨年の春に突然閉店してしまって寂しく思っていたのだそうだ。連絡先も知らないので心配していたらしい。


 マンチカンは調べる段階で珈琲亭浪漫のオーナーの事をよく知っている人物に出会え、ようやくオーナーの娘までたどり着く事が出来た。そしてアポイントメントを取っての今日である。

 娘には本当の事は言っていない。桜子の父親が元々常連だったが病気になってしまい、病床でしきりに閉店してしまった経緯いきさつを知りたがっているという設定にしてある。つまり、桜子は父親のために話を聞きにきた親孝行な娘ということだ。


 桜子は訊いた。


「なぜ閉店してしまったんですか?」


 元オーナーの娘は答えた。


「肉体的に限界だったみたい。実際に去年の夏には体調を崩して入院したのよ。そのあとも入退院を繰り返して、結局は今年の春に亡くなったわ」


「お店をやめた時に何か言ってませんでしたか?」


「何かって?」


「例えば、ホントはまだやめたくないとか……」


「そりゃ、元気ならやめたくなかったでしょうけど、特に何も言ってなかったわね」


「そうですか……」


「……あ、そういえば、やめる少し前にあたしに喫茶店をやらないか?って訊いてきた。断ったけど、あとを継いでほしかったのかも。弟も訊かれたらしいけど、やらないって即答したそうよ」


「なるほど」


「珈琲亭浪漫はコーヒー豆にこだわる知る人ぞ知る名店なんて言われてたから、なくしたくなかったのかもね。わたしたちだって閉店は残念に思ったけど、そんな名店なんて引き継ぎたくないもの。プレッシャーしかないでしょ?」


「そうですね」


「自分の生活だってあるしね」


「他人に継がせようとは思わなかったんでしょうか」


「知らない。やりたいって人がいたら、もしかしたら継がせたかったかも」


 桜子は少し考えてから訊いた。


「……今あそこ、別の方が喫茶店をやってるって知ってます?」


「え、そうなの?知らないわ。父が継がせたってこと?」


「違います、違います。わたしもそうなのかなって訊きに行ったんですけど、新しいオーナーさんはお父様の事を知りませんでした。ただ雰囲気のある空き店舗があったので始めたそうです」


「そう……」


「……もし、お父様が生きてたら、新しいお店の事をなんて言うと思いますか?」


「どうだろ。関係ないって言いそうだけど、長年やってきた店舗だし、懐かしさは感じるんじゃないかな?」


「なるほど。わたしの父も元気なら懐かしさで行ってるかもしれませんね」


「そうね。あたしもそのうち行ってみようかしら」


「変わってしまっていてガッカリしたりはしませんか?」


「それは少しはあるかもしれないけど、それよりも、どんな形にせよ喫茶店として残ってるっていう喜びの方が大きいかも」


「なるほど。そうなんですね」


「なにより、お店をやってくれてるなら、あの思い出の空間にまた入れるって事でしょ?それが喫茶店ならコーヒーまで飲めるのよ。どこかの会社の事務所か何かに改装されてたら、二度と入る事は叶わなかったわけだしね」


 満面の笑みの桜子。


「そうですね。ありがとうございます。すごく納得しました」


「お役に立てた?」


「はい、とても」


「あなたのお父さんも元気になってお店に行けるといいわね」


「はいっ!」



 帰りの車の中で桜子は言った。


「お店に未練があるのは確かだと思うけど、話の糸口は掴めたからいつでもいけるよ」


 茉莉花は微笑んだ。


「頼もしいね」


 マンチカンは前を向いたまま言った。


「だったら明日でもいいか?マスターは営業中でもいいって言ってるし、なるべく早い方がいいとも言ってたから」


 桜子は茉莉花に訊いた。


「明日でいいよね。て言うか、明日の方がいいよね。あさっては無理だもん」


 頷く茉莉花。


「そうね」


 マンチカンが訊く。


「あさって、何かあるのか?」


 桜子が寂しそうに言う。


「大輝くんが帰っちゃうの」


 マンチカンも寂しげな声で繰り返す。


「そうか。大輝くん、帰るのか」


 茉莉花が補足する。


「当日、放課後まで出発を待っててくれるみたいよ。大輝くん」


 信号待ちで、マンチカンはチラリと後部座席の方を見た。


「まさかお前たち、一緒に見送るつもりじゃないよな」


 茉莉花がマンチカンのシートを後ろからコツンと蹴った。


「バカにすんな。そんな野暮じゃないよ」


 そこで助手席の颯空が会話に割り込んだ。


「大輝くんって、冬休みにも来るかな」


 茉莉花は冷たく言った。


「知らないよ」


 マンチカンが苦笑いしながら言った。


「冬にバイクで来るのは厳しいだろ。危険だから無理はしてほしくないし」


 颯空がマンチカンの横顔を見ながら言った。


「でもバイトしてるんでしょ?安い高速バスとかで来そうじゃない?」


 マンチカンは運転しながらチラリと颯空を見た。


「冬もリゾートバイトとかいっぱいあると思うけど、足が無いとスキー場から気軽に雅に会いに来れないだろ?」


「秋のあいだにいっぱいバイトしてお金を貯めて、安い宿とか漫画喫茶で寝泊まりすれば?冬のバイトは諦めて」


「まあ、それなら来れるか。――それか市内で泊まり込みのバイトを見つければ今回みたいにいちいち山から降りてこなくても雅に会えるよな」


 嬉しそうに頷く颯空。


「そうそう」


 茉莉花が低い声で言った。


「ちょっと。二人して変な提案しないでくれる?雅が聞いたら怒るよ」


 颯空が首を傾げる。


「なんで?」


 茉莉花は面倒くさそうに答える。


「大輝くんに来てほしくないからよ」


「えっ?どうして?」


「大輝くんの片想いだから」


 颯空が笑った。


「うっそだぁ!海に行ったとき見てたけど、あれが片想いなわけないじゃん」


「わたしだってそう思うけど、雅本人がそう言ってるんだからしょうがないでしょ?マンチカンも雅に変なこと言わないでよね」


 マンチカンは苦笑いした。


「言わないよ。言わないけどさ……」


 茉莉花が前の席を睨む。


「なによ」


「オレたちが思いつくような事は、とっくに大輝くんも考えてるんじゃないか?雅に会うためにあれだけ一生懸命なんだから」


「そうかもしれないけど……」


 茉莉花は基本的には雅の味方である。けれども冬休みにも大輝くんが現れる事をどこかで願っている自分を、茉莉花は否定できなかった。


次回「その5 さよなら青春」は8/22(金)に投稿する予定です。

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