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霊能力美少女の家 ―逝かせてあげる♡―  作者: 如月るん
第十一話 おじさまはコーヒーの香り
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その1 あるわけのない記憶

 桜子と結城が映画館から出てきた。二人とも浴衣を着ている。

 歩道を手を繋いで歩きながら桜子は言った。


「面白かったぁ」


 結城が微笑む。


「それは良かった」


「ごめんね、つきあわせて。楽しめた?」


「面白かったよ。がっつりアニメ好きってわけじゃないけど、細谷ほそやわたる監督の映画は好きだな」


「ホント?!」


「うん。いくつか見たよ」


 少し興奮気味に桜子は訊いた。


「じゃあ『時を間違える少女』は見た?」


「見た見た。時間を間違えて起こる奇跡の話でしょ?」


「そうっ。わたし、あれが一番すき。結城くんは、どれが好き?」


「ボクはあれだな。勇者と姫が現代の日本に転生してくるヤツ」


「ああ、それ『転生勇者と後追いの姫』ね」


「そう、そう。姫が勇者をめっちゃ探すんだよね」


「わたし、冒頭でいきなり勇者が死んじゃうから驚いたのよね」


「あはは。まあ、前世で死なないと転生は出来ないからね」


「そうよね」


 そう答えながら、桜子は不思議な感覚に襲われた。


 桜子と結城はバス停に着いた。時刻表を確認する結城。黙って中空を見つめる桜子。

 結城が桜子の隣に戻ってきて言った。


「五分ぐらいでバス来るよ」


 それには答えず、桜子は訊いた。


「ねえ。わたしたち二人って、なんで死んだの?」


 目を丸くする結城。


「えっ……?」


 結城の空想だとわかってはいたが、桜子は訊かずにはいられなかった。


「わたしと結城くんて、転生してきたんだよね。ていう事は、前世で死んだって事じゃない?どうして死んじゃったのかなって思って」


 結城は丸くした目を左上へ向けて考えた。それから目をつぶって少し考えたあと、ゆっくり目を開けて言った。


「わからない」


「え?」


「そこだけはどうしても思い出せない」


「そうなの?」


 桜子はてっきり結城がロマンチックな別れのシーンでも語り始めるのかと思っていたが、そうではなかった。むしろ頭に手を当てて苦しそうにしている。

 桜子は言った。


「あ、無理に思い出さなくていいよ。いきなり死んだり、寝てるあいだに死んだりしたら、死んだ実感とかも無いだろうし」


「うん……そうだね。また何か思い出したら話をするよ」


「うん、お願い」


 もしかしたら、死ぬ直前のお話はまだ作っていないのかもしれない。だとしたら作る時間も必要である。





 長野駅の周辺で夕方まで時間を潰したあと、桜子と結城は東口で由香姉と落ち合った。そこからシャトルバスに乗って高台に建つ結婚式場へ向かう。

 バスが山道に入ると、由香姉のテンションは上がった。


「あたし、こんな標高の高い所のビアガーデンなんて初めて。地上五百メートルだって」


 はしゃぐ由香姉に苦笑いしながら結城は言った。


「そうは言うけど市街地でも三百メートル越えだよ。そんなに高く感じないと思うけど」


「そういう事じゃないのよ。ビルの屋上のビアガーデンとかは何度も行ってるけど、関東に住んでる人間からしたら山の上のビアガーデンなんてレアなのよ」


「まあ、それはそうか」


「おまけに結婚式場よ。下見も出来るじゃない」


「なに?予定でもあるの?」


「全く無い。欠片も無い。だははっ」


「だったら下見なんて必要ないじゃん」


「わかってないなぁ。女の子はいつだって結婚を夢見てるものなのよ」


 桜子が大きく頷いた。


「わかりますぅ」


 結城が桜子に振り向く。


「え?そうなの?」


「うん」


「それは気合いを入れて下見しなければ…」


 由香姉が笑う。


「気合いなんて入れるな。朴念仁ぼくねんじん


 そう言われて不貞腐れる結城に、桜子も笑った。



 ビアガーデンは結婚式場の屋外のテラスに会場が作られていた。眼下には美しい夜景が広がっている。

 由香姉のテンションが更に上がった。


「うひょお!すごい夜景だね。これで酒が飲み放題なんて、最高かよ」


 結城が苦笑いする。


「飲み過ぎないでよ、由香姉」


「大丈夫、大丈夫」


 そう言いつつ、由香姉は一杯目のビールを飲み干した。



 お腹が少し落ち着いたところで結城が言った。


「ちょっと向こうで桜子と夜景を見てきていい?」


 由香姉は赤い顔でニヤけた。


「いいよ、いいよ。いっぱいイチャついてきな」


 眉間にシワを寄せる結城。


「この酔っぱらいめ」


 結城は桜子の手を取って夜景のきれいに見える所へ移動した。

 結城は繋いでいた手を放し、桜子の肩を抱いた。


「浴衣、少し涼しかったね。大丈夫?」


 桜子は、結城のあまりにも自然な行為に完全にやられていた。


「だ、大丈夫。ご飯を食べて体温は上がってると思うし…」


「そう?」


「う、うん…」


 実際に桜子は違う意味で熱くなりつつあった。

 夜景を見つめる結城の顔を見上げる桜子。間近にある整った結城の顔に、桜子の心臓の鼓動は早くなる。それが結城に伝わってしまうんじゃないかと、自分の手で胸の辺りを覆い隠した。

 結城は見つめられている事に気付き、桜子の顔を見おろした。円らな瞳で「ん?」という顔をする。それを見て桜子は思った。


 ――可愛い……。


 見つめ合う桜子と結城。桜子は恥ずかしくてたまらないのだが、どうしても結城から目を逸らす事ができない。

 密着している体。息がかかりそうなほどすぐ近くにある顔。見つめ合う目と目。桜子はそのままキスをされてしまうんじゃないかと思ったが、されてもいいとも思っていた。

 結城は優しく微笑むと、甘い声で囁いた。


「夜景はキレイだけど……やっぱりボクは桜子の方がキレイだなって思うよ」


 ベタなセリフではあったが、破壊力は絶大だった。桜子をめまいが襲った。足の力が抜け、よろめいて結城の体にしがみつく。

 頼りない桜子の体を支える結城。


「どうした?大丈夫?」


 そのとき不意に桜子は既視感を覚えた。それが自然と声に出た。


「こんな事あった?」


「ん?なに?」


「あ、ごめん。前世で同じような体験をした気がしたんだけど、錯覚かな?」


「ん~…」


 少し考えてから結城は言った。


「二人で夜景を見てた記憶はある。正確には周りに先輩たちもいた気がするけど……ちょっと待って。思い出すから」


 結城は額に手を当てて考えた。しばらく考えていた結城は、思い出しながらゆっくり話した。


「なんでそんな所にいたのかはわからない。しばらく君と離れなければならなかったので、別れを惜しんでいた気がする。夜景を見ながら何かを話して、再会を誓って、抱きしめあって…………キスをした……と思う」


「へ……へえ~」


 結城の空想だとしても、桜子は恥ずかしさを覚えた。けれども結城の物語には、なぜか懐かしさまで感じていた。

 あるわけのない記憶なのに、結城の話した情景をなんとなく思い出せそうな気がしている。

 結城は続けた。


「とても大切な時間だった。なんで今まで思い出さなかったんだろう」


 その思い出を慈しむように、結城は桜子の体を抱いた。

 どこかから「こんな所でイチャイチャするなよ」という声が聞こえてきた。結城は桜子を支えながら言った。


「戻って椅子に座ろうか」


 もっとこのままでいたい桜子だったが、心配そうな結城の表情に、素直に頷いた。


 席に戻ると由香姉は結城に言った。


「なんであそこでチュウしないんらよ、このヘタレめ!」


 結城は照れながら言い返した。


「見てたのかよ。ほっとけよ」


「ほっとくわけないらろ。こんな面白いころ」


「どうでもいいけど、飲み過ぎないでって言ったよね」


「序の口、序の口」


 赤ら顔でワインを一気に飲み干す由香姉だった。





 マンチカンは夕方には茉莉花を迎えに来た。茉莉花は慌てた。


「なんでこんなに早いのよ」


 マンチカンはいつものストリートファッションをしていた。


「お前がヒマしてると思って、頑張って早めに用事を終わらせたんだよ」


「だったら連絡よこしなさいよ。女の子は準備に時間がかかるんだから」


「別にそのままでいいんじゃね?」


 茉莉花は出掛けても特におかしくはない服装をしていた。けれどもマンチカンを睨んだ。


「ふざけんな!」


 茉莉花は階段を駆け上がっていった。


 しばらくして茉莉花は着替えて下りてきた。先程より明らかにおめかししている。目立つピアスも付けていた。

 マンチカンは思わず見惚みとれた。それに気付いて茉莉花はほんのり頬を染めた。


「ほら、何してんの。早く行くよ」


 マンチカンは我に返って言い返した。


「待たせたのはお前の方だろ?」


「いいから、早く」


 二人はマンチカンの車に乗り込んだ。



 マンチカンの車はしばらく走ると、一件のレストランの駐車場に入った。

 レストランの中は席ごとに区切られていて、半個室のようになっている。席について注文が済むと、マンチカンは言った。


「ここでよかったか?」


 茉莉花は少し高揚していた。


「よかった、よかった。ここ気になってたんだよね」


「そうか。時間的には少し早めだけどな」


「早くない、早くない。お昼ごはん食べてないからお腹すいた」


「雅が用意してくれてたんじゃないの?」


「わたしがいいって断っちゃった。適当にやるからって」


「適当にやってないのか」


「それもめんどくさくて」


「お前なぁ…」


「早くて助かったかも」


「お前が姨捨おばすての夜景を見たいって言うから、先にご飯がいいかなって」


「テレビで特集してたんだ、姨捨。有名なのにわたし行ったことなくて、一度は行ってみたかったのよね」


「オレも行ったことないな」


「けっこう楽しみなんだけど」


「姨捨サービスエリアでいいよな」


「うん。もちろん」


「お前、夜景すきだよな」


「マンチカンは嫌いなの?」


「いや、オレも好きだけど…」


「ホントはさ、ネットで見た結婚式場のビアガーデンに行きたかったのよね。予約制だけど、夜景がキレイなんだって」


「ビアガーデンなんてダメだろ。オレたち未成年だし」


「早く二十歳はたちになりなさいよ」


「無理を言うなぁ。十二月にはなるから来年まで待てよ」


「言ったね。言質げんち取ったからね。来年は連れて行きなさいよ」


「いいけど、覚えてるかなぁ」


 膨れる茉莉花。


「覚えときなさいよ。わたしのためなら何でもするんでしょ?」


「お前、わがままに拍車がかかってるな」


「違うじゃない。何でもするって言ったの、あんたじゃない」


「まあ、そうだけど…」


「じゃ、決まりね」


「予定を入れとくか」


 スマホを取り出すマンチカン。操作して来年のカレンダーに何かを打ち込む。

 それを見ながら茉莉花は言った。


「夜景のキレイな結婚式場のビアガーデンかぁ。楽しみだなぁ。きっとロマンチックよね。行ったらみんなに自慢しよっと」


 茉莉花は、まさか桜子に先を越されているなどとは想像すらしていなかった。


次回「その2 わたしを地獄へ連れてって」は8/1(金)に投稿する予定です。

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