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霊能力美少女の家 ―逝かせてあげる♡―  作者: 如月るん
第十話 おうちに帰ろう
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その7 妖精の笑顔

 柳原紗季を迎えに行った日から三日が経った。

 朝はよく晴れていたのに、授業が終わる頃には雷が鳴りだし、まもなく雨が降ってきた。


「行くよ」


 茉莉花が声をかけたのに桜子は席から立とうとしない。

 茉莉花は再び声をかけた。


「何してんの?桜子。早く」


 桜子はもじもじしている。


「あのさ……もう少し教室でゆっくりしていかない?」


 茉莉花の顔が歪んだ。


「はいぃ?」


「ほら、急いでもしょうがないじゃない?家族が水入らずなわけだし…」


「何を言ってるんでしょうね、この娘は。先延ばしにしたってキリがないし、帰りが遅くなっちゃうじゃない」


「それは、そうなんだけど…」


 その時、近くに落ちたのか一際大きく雷鳴が轟いた。

 桜子は頭を抱えた。


「きゃひぃ!」


 茉莉花は吹き出した。


「なに桜子。雷が恐くて動こうとしなかったの?」


 桜子は頭を抱えたまま、チラリと茉莉花を見た。


「だってぇ…」


 再び雷鳴が大きく響き、桜子は固く目をつぶった。


「ぴぎゃっ!」


 茉莉花は呆れた。


「そんなに?」


「だってぇ」


「大丈夫だって。一緒にいれば、落ちるとしたら一番背の高いわたしの頭だから」


「ホントにぃ」


「ホント、ホント」


「ていうか、茉莉花ちゃんにも落ちちゃダメぇ」


「めんどくさいわね。車に乗り込んじゃえば安全だから、さっさと行った方が早いってば」


「うっそだぁ。車の屋根を突き破ってきたらどうするの?」


「突き破らない、突き破らない」


「わかんないじゃない。車の屋根って意外と薄そうよ」


「そういう原理があるの。あれ、なんてった?」


 茉莉花は雅を見た。雅は笑いながら答えた。


「ファラデーケージね」


 それから雅は桜子に言った。


「鳥籠みたいに導体に囲まれた空間には雷は入って来れないのよ」


 桜子は首を傾げた。


「どうたい?」


「電気伝導体ね。金属みたいに電気を通しやすい物質のこと。それで囲まれた空間は電気が入れないから、車は安全って言えるのよ」


「雅ちゃんが言うなら信じる」


 茉莉花は膨れた。


「ちょっと!わたしは信用できないっての?」


 桜子は情けない顔で、それでも自分の妥当性を訴えた。


「だって茉莉花ちゃん。たまにテキトーなこと言うもん」


「ぐっ…」


 真実だから言い返せない茉莉花。

 そうこうしているうちに雷の音も遠くなり、桜子を連れた茉莉花と雅は無事に学校を脱出し、迎えに来たマンチカンの車に乗り込んだ。





 マンチカンの車が柳原家に到着した時には、雨は小降りになっていた。


 柳原家では、紗季を含めて家族全員が揃っていた。

 聞くと、この三日間は全員が仕事や学校を休んで泊まりがけの旅行へ行ってきたらしい。行き先は思い出の遊園地や、その近辺だった。

 茉莉花の視覚化能力は優秀で、行く先々で紗季は問題なく生きている人として扱ってもらえたそうだ。

 そして今日の昼ごろ帰ってきて、茉莉花たちが来るまでは家でゆっくり団欒していたのだという。


 茉莉花が訊いた。


「そろそろいいですか?」


 いいですかと訊かれても、そんなにあっさり「はい」と返事できるものではない。それでも苦しそうな顔で家族は小さく頷いた。

 そこで桜子は家族の気持ちを汲み取った。


「では、しばらく待ってますので最後のお別れをしてください。お別れが済みましたら教えてもらえますか?紗季さんをお送りします」


 家族の表情が少し緩んだ。母親と父親と兄は紗季を取り囲み、別れを惜しんだ。涙なども勿論あったが、家族は笑顔で別れようと決めたようだ。最後の記憶はみんな笑顔であってほしい。家族全員が同じ想いのようだった。


 桜子の予想よりも長い時間が経っていた。けれども、それに対して嫌な気持ちは微塵も無かった。むしろお別れを済ませた合図をもらった時には、思い残しが無いだろうかと心配になって「もういいですか?」と再確認したぐらいである。

 桜子は、椅子に座る紗季をバックハグのように抱きしめた。その正面で遠慮がちにしている家族三人と紗季との間を遮りたくなかったからだ。

 桜子は顔を上げて言った。


「手を握ってあげてください」


 固かった三人の表情は明らかに柔らかくなった。これから見たこともない儀式が行われるのはわかっていたし、自分たちは蚊帳の外だと思い込んでいたからだ。手を握るだけとはいえ、紗季を送り出すことに自分たちも関われるという事実に素直に喜んでいるようだった。

 母親と父親と兄は紗季の手を握った。紗季の顔は安心したように微笑んでいる。


 桜子は紗季の耳元で囁いた。


「逝かせてあげる♡」


 桜子は目を閉じて祈った。すると紗季の体が光り始める。


「ああ……あ…………ああぁ…」


 紗季の表情が恍惚としていく。そのまま薄目を開けて家族を見た。目からは涙が頬に伝った。

 涙を流していない家族はいなかった。それでも皆が笑顔を忘れなかった。

 紗季がかすれた声で、しかし想いを込めて言葉を発した。


『お母さんもお父さんもお兄ちゃんも…………大好き』


 それに対する家族からの返事を待たずに、次の瞬間には紗季の姿はひときわ明るく輝いて消えた。その光の中で見せた紗季の笑顔は、まるで妖精のようだった。

 桜子はポケットから数珠を出し、手を合わせて何かを唱えた。それから涙のにじんだ目のまま顔を上げて言った。


「逝っちゃった…」


 残された家族三人は、紗季の手があった所で手を握りあったまま、声を詰まらせながらすすり泣いた。

 雨はやんだようだったが、遠い所ではまだ雷の音が小さく聞こえていた。





 数日後、茉莉花たち三人が下校しようとしていて、校舎内でロン毛パイセンとばったり会った時の話である。

 ロン毛パイセンの方から気付いて声をかけてきた。


「この前はありがとうな。妹もきっと喜んでるよ」


 茉莉花は気まずそうに笑った。


「お礼なんていいよ。報酬も貰ってるし」


「それでも感謝してる。ずっと紗季が昇降口で待ってたなんて考えると、胸か苦しくなる。それを救ってくれたんだ。感謝しかないよ」


「まあ、そう言ってくれるならモチベーションにもつながるけど…」


「今度なにかおごらせてくれよ」


「え?もう報酬もらってるって言ったじゃない。そんなのいいって」


 ロン毛パイセンは一瞬だけ雅の方へ視線を送ってから言った。


「まあ、俺みたいなのと一緒にいるのは迷惑か」


 茉莉花は周囲を見渡した。

 周りでは他の生徒たちがヒソヒソとやっている。小さく聞こえる言葉を拾うと、要はお嬢様を中心とした美少女グループと恐いロン毛パイセンが話している意外な光景に、あらぬ憶測を伴った驚きを共有しようとしているようだった。

 茉莉花は苦笑いした。


「別に迷惑ってこともないけど…」


「じゃあ、俺に興味が無いだけか。短髪の方がカッコいいんだろ」


「それは……」


 図星を突かれて言葉が続かない茉莉花。

 雅が余計な補足をした。


「茉莉花は短髪が好きなのよ。特に金髪が」


 明らかにマンチカンの事だとわかる。茉莉花は口を尖らせた。


「ちょっとやめてよ!」


「あはは……」


 雅は笑ったあと、優しい笑顔をロン毛パイセンへ向けた。


「でも、あたしは髪が長いのもカッコいいと思うよ。すごく」


 ロン毛パイセンはあからさまに赤くなった。


「や、やめろよ。褒めらるの慣れてないんだから…」


「だってホントよ。妹想いのカッコいいお兄ちゃんだもん」


 ロン毛パイセンは自嘲した。


「ああ…そういう意味ね。見た目じゃないんだ」


「見た目で人は判断しません。あたし…家族を大切にする男性、好きよ」


 ロン毛パイセンはさらに赤くなった。


「へ、へぇ~」


 茉莉花はニヤニヤしながら言った。


「じゃ、わたしたち帰るね。――柳原先輩」


 ロン毛パイセンは少し驚いた顔をした。


「え?」


 歩き始めた茉莉花を追うように歩きだす雅。ロン毛パイセンに手を振った。


「またね。――柳原先輩」


「お、おう」


 桜子も追いかける。


「じゃ…じゃあ――柳原パイ…先輩」


 キャッキャと笑いながら昇降口へ向かう美少女三人の後ろ姿を、柳原先輩は唖然とした顔で見送った。


次回「その8 役には立ってたよ」は7/11(金)に投稿する予定です。

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