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霊能力美少女の家 ―逝かせてあげる♡―  作者: 如月るん
第十話 おうちに帰ろう
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その4 家族の再会

 柳原紗季の母親から連絡が来た。父親と兄と共に家を出たという。歩きで小学校へ向かっている。

 連絡を受けて茉莉花たち三人とマンチカンは学校の近くのコンビニの駐車場で待った。

 紗季の存在は既に確認してある。今日も学校の昇降口に座っていた。



 コンビニの駐車場に停めた車の中から外を見ていたマンチカンが少し上体を起こした。


「お、来た」


 茉莉花たちとマンチカンは車を降りた。それに気付いて母親が近寄ってきた。後ろに二人の男性を引き連れている。

 雅が高い声をあげた。


「あれっ?」


 茉莉花も素っ頓狂な声を漏らした。


「あれれれれ?」


 母親の後ろの一人は横幅がある中年男性だった。間違いなく父親だろう。

 もう一人は、おそらく兄だろう。兄は目つきが悪く、髪の毛が長かった。

 茉莉花は相手にも聞こえる声で言った。


「ロン毛パイセン!」


 紗季の兄はロン毛パイセンだった。ロン毛パイセンも茉莉花たちに気付いた。


「あれ?おまえら……」


 紗季の母親が訊いた。


「知り合い?」


 ロン毛パイセンが答える。


「同じ学校」


「あら、そう」


 これが普段の事だったら和気あいあいとした雰囲気になるところだろうが、今日はそれ以上盛り上がる事もなかった。その理由をわかっているので、茉莉花は早々に話を進めた。


「先ほどあらためて紗季さんを見えるようにしてきました。このあと我々は手を出しません。家に帰りつくまでは問題が無いか離れて様子を見ていますけど、問題が無ければそのまま我々は帰ります。そして、また三日後に来ます」


 母親は頷いた。


「はい。わかりました」


 桜子が補足した。


「特に上手にお芝居をする必要はないんですけど、出来るだけいつものお迎えと同じようにしてください。気持ちが溢れちゃうのはわかりますけど、感情にまかせて駆け寄ったり抱きしめたりは『今は』しないでください」


 母親は寂しげな顔で訊いた。


「今は?」


「家に帰りつくまでは。紗季さんが望んでいるのはいつものお迎えです。なるべくそれに沿うようにしてほしいんです。予想外の要素が入ると何が起こるかわかりませんから」


「わ…わかりました」



 紗季の家族が昇降口に着いた。そこに座っている紗季を見て、家族ははっきりわかるほど動揺していた。

 紗季に会えて嬉しい気持ち。けれども既に亡くなっているという悲しい気持ち。今すぐにでも抱きしめてあげたい込み上げる気持ち。それを抑えなければならないもどかしい気持ち。上手くやって連れ帰らなければという張りつめた気持ち。整理のつかないそんないくつもの気持ちが家族の複雑な表情に表れているのだろう。

 それでも母親は声を絞り出した。


「紗季……」


 下を向いていた紗季が顔を上げる。家族に気付いて表情がパッと明るくなる。そして初めて立ち上がった。


『お母さん、お父さん、お兄ちゃん』


 母親は桜子に言われた通り、出来る限り平静を装って片手を伸ばした。その手は心なしか震えている。


「帰ろ……おうちに……」


『うんっ』


 紗季は母親の手を取り、もう片方の手を繋ぐよう父親に催促した。

 父親は差し出された紗季の手を握った。悲痛な表情が見え隠れする複雑な笑顔を浮かべる父親。

 紗季が満面の笑顔で兄に振り向くと、ロン毛パイセンは硬い笑顔で手を振った。


 柳原家の家族四人は歩きながら楽しそうに話をしていた。特に紗季はしきりに何かを言っている。


 離れて見ていた桜子は、頷きながら言った。


「あれだけコミュニケーションがとれるなら大丈夫。会話が通じないと家族が辛くなっていっちゃうから」


 茉莉花たち三人は柳原家の四人が家に入るのを見届けると、マンチカンが移動させてきた車に乗り込んだ。


 茉莉花が鼻で笑った。


「ロン毛パイセンのあんな顔、初めて見たけど笑っちゃった」


 桜子がたしなめた。


「茉莉花ちゃん。よくないよ」


「あの恐い目に涙が浮かんでたのよね。鬼の目にも涙よね」


「それだけ紗季ちゃんを愛してたって事でしょ?ちゃかすなんてダメよ」


「わかってるけど、カッコつけてロン毛にしていつもイキってるパイセンのあんな顔、笑わずにはいられない」


「茉莉花ちゃん!」


「あはは、ごめん」


 その時、それまで静かだった助手席の雅が口を開いた。


「あのさ。このまえロン毛パイセン、31センチ以上は髪を伸ばすって言ってたよね」


 茉莉花がまだ笑いの混じった声で返す。


「あー、なんかそんなこと言ってたね。なんでそんなキリが悪いの?って思ったけど…」


「あたし、思い出したのよ。ヘアドネーションって確か31センチ以上でしょ」


「あっ…」


 茉莉花の笑顔が消えた。

 桜子は質問した。


「ヘアドネーションってなに?」


 雅が説明する。


「病気やその治療で髪の毛を失う子供っているじゃない?そんな子供たちに、寄付された髪の毛でウィッグを作って無償で提供する活動をヘアドネーションって言うのよ。その寄付する髪の毛の基準が31センチ以上なの」


「え、じゃあ……」


「うん。パイセン、ヘアドネーションに参加してるんじゃないかな」


「紗季ちゃんのために?」


「どうだろう。紗季ちゃんの生前の髪の状態は霊からはわからないけど、もしかしたら最初のきっかけはそうだったのかも」


「紗季ちゃんのウィッグを作りたかったんだね」


「紗季ちゃんのウィッグと言うよりも、何かしたかったんじゃない?そもそも一つのウィッグを作るのに三十人から五十人分の髪の毛が必要なのよ。パイセン一人の髪の毛じゃ作れないもの」


「え、そんなに必要なの?」


「それに、紗季ちゃんが亡くなった今でも続けてるでしょ?病気に対して無力な自分にも出来る事があるって気付いたのよ、きっと。紗季ちゃんと同じような境遇の子供たちを少しでも笑顔にしたいって思ってるんじゃないかな。そういう意味では紗季ちゃんのためって言ってもいいのかもね」


「そうだね。きっと、そうだね」


 大きく頷く桜子。

 茉莉花は黙ったまま神妙な面持ちをしていた。





 その日の午後、セバスチャンの車に乗り換えて、茉莉花たち三人は信濃テレビに到着した。


 前日の夜、恋々菜からLINEが来た。翌日のインタビュー撮影が急に決まったのだという。

 もう出演は断るつもりだったが、恋々菜ひとりでは言い出す勇気が出ない。その「助けて」のLINEだった。


 テレビ局のロビーでは既に恋々菜が母親と一緒に待っていた。

 茉莉花たちは母親に挨拶をした。


「こんにちは」


 母親は笑顔で応えた。


「こんにちは。恋々菜の応援で来てくださったんですってね。なんかごめんなさいね。我が儘を言って」


 茉莉花が答える。


「いいえ。やっぱり心細いでしょうから」


「もう何回か撮影はしてるんだから、そろそろ慣れてもいいと思うんだけどね。インタビューってなると、かしこまっちゃうのかしらね」


 茉莉花は「ん?」となった。会話が噛み合っていない。

 恋々菜は出演を断る事をまだ母親に言えていないのだろう。それを瞬時に悟った茉莉花は、恋々菜に訊いた。


「このあと、どうするの?」


 恋々菜は救いを求めるような目を茉莉花に向けた。


「このあとプロデューサーさんが迎えにくるんですけど、出来ればそこでお話をしたいです」


「わかった」


 茉莉花はゆっくり大きく頷いた。



 まもなくプロデューサーだという中年男性がやってきた。


「お待たせしました。行きましょうか」


 それを茉莉花が止めた。


「ちょっと待ってください」


 プロデューサーは、あくまでも笑顔で訊いた。


「はい?君は?」


「恋々菜ちゃんの学校の先輩です」


「ん?見学の方かな?」


 茉莉花は車イスの横にしゃがんで恋々菜に訊いた。


「自分で言える?」


 小さく頷いてから、恋々菜はプロデューサーにか細い声で言った。


「さ…撮影の前にお話があります」


 プロデューサーは首を傾げた。


「何かな?」


「大切なお話です」


 プロデューサーはロビーを見回すと、テーブルとソファのある方を指して言った。


「じゃあ、あそこで話そうか」



 プロデューサーは全員の前に紙コップのジュースを並べてから自分もソファに座った。


「話って何かな?」


 恋々菜は言いかけて、下を向き、また顔を上げて言いかけて、動きが止まった。

 茉莉花が横から恋々菜の背中に手を当て、囁いた。


「代わりに言おうか?」


 恋々菜は茉莉花の目を見つめて泣きそうな顔をしたが、目を固くつぶって小さく首を振った。

 それからゆっくりプロデューサーの顔を見ると、正面から見てくるプロデューサーの視線を避けるように斜め下へ目を逸らしながら小声で言った。


「あの……出演を…………辞めさせてください……」


 プロデューサーは豆鉄砲を食らったような顔をした。


「え?」


 慌てたのは母親だ。


「何を言い出すの?!」


 すかさず茉莉花は言った。


「ごめんなさい。とにかく最後まで話を聞いてあげてください」


 母親は何かを言いかけたが、言葉を止めた。

 口を開きながらも次の言葉が出てこない恋々菜に、茉莉花は囁く。


「頑張って」


 小さく頷く恋々菜。やっと言葉を絞り出す。


「わたし、ホントは天文学者なんて目指してません。嘘をついてごめんなさい」


 プロデューサーは豆鉄砲の顔のまま言った。


「え?そうなの?」


 恋々菜は頷き、そのあとはせきを切ったようにまくし立てた。


「進路なんてまだまだ何にも決めてません。ごめんなさい。勉強は嫌いじゃないけど、好きでもないです。秀才なんて言われてごめんなさい。天文部に入ったのはなんとなくたのしそうでらくそうだったからです。いいかげんでごめんなさい。わたし、ただの怠け者です。ポテチを食べながら男性アイドルグループの動画を見るのが大好きです。イメージを壊してごめんなさい。普通に生活すること以外、何も頑張ってなくてごめんなさい」


 プロデューサーはたじろいだ。


「な、なるほど……」


 茉莉花が補足する。


「恋々菜ちゃんは自分から嘘をついたわけじゃありません。天文学者になりたいなんて言ったこともないし、イメージだって周りが勝手に作ったものです。むしろ、それに自分を合わせようとしちゃってたんです」


 プロデューサーは腕を組んだ。


「でもさ。いいイメージに合わせられるんなら、それは自分の成長に繋がるんじゃない?将来の夢は天文学者にする必要ないけれど、せっかく撮影も進んでるわけだし、ここまで頑張ったんだからもったいないよ」


 茉莉花は舌打ちをした。


「だから、もったいないって誰にとって?」


 プロデューサーは渋い顔をした。


「君が恋々菜ちゃんに変な入れ知恵をしたのかな?放送はあと十日後に迫ってるのに困るなあ」


 そこで恋々菜の声が大きくなった。


「違います!わたしが先輩に辛いって相談したんです。先輩は悪くありません」


 プロデューサーは困惑の表情を浮かべた。


「そうなの?でも、僕が言ってる事は恋々菜ちゃんのためなんだよ。この番組に出てる他の人って、みんな前向きで生き生きしてるでしょ?恋々菜ちゃんも仲間になろうよ」


「え……でも……わたし…………」


 恋々菜が下を向く。

 茉莉花はプロデューサーを睨んだ。


「あんた。中学生を言いくるめようとして、恥ずかしくないの?」


 プロデューサーは茉莉花を見返した。


「僕は恋々菜ちゃんのために――」


 茉莉花はプロデューサーの言葉を最後まで聞かずに静かに言った。


「よほど感動ポルノが好きなようね」


 プロデューサーは言葉を止めた。渋い顔で呟く。


「……それを言うか」


 沈黙の中、桜子が雅に囁いた。


「感動ポルノってなあに?なんかエッチなヤツ?」


 苦笑いしながら雅が囁き返す。


「違う、違う。わかりやすく言うと、身障者とかを感動的に描いてお涙を誘うコンテンツを批判的に言った言葉ね。大抵は身障者って前向きで努力家で品行方正ってイメージを持たれてるでしょ?感動ポルノのお約束のフォーマットなのよ」


「な…なんか、見世物にされてるみたいだね」


「されてるみたいじゃなくて、されてるんでしょうね」


 桜子と雅の声はいつの間にか大きくなっていて、他の人にも聞こえていた。雅の言葉に茉莉花が反応した。


「別にわたしはチャリティー番組に自ら進んで出てる人たちを批判するつもりはないのよ。すごいことしてるなって思う。でも、それが身障者の一般的な姿ってわけじゃない。逆に特別な人たちだと思う」


 桜子が首を傾げる。


「特別な人たち?」


「そ。チャレンジ企画なんて特にね」


「チャレンジ企画?」


「身障者が山を登ったり海を泳いだりするでしょ?」


「ああ、見たことある」


「桜子、山を登ったり海を泳いだりする?」


「し、しない」


 茉莉花は恋々菜にも訊いた。


「恋々菜ちゃん、山を登ったり海を泳いだりする?」


 恋々菜は苦笑いしながら答える。


「絶対にイヤ」


「でしょ?健常者にも身障者にもそういう人がいるってだけで、むしろダメなとこ持ってる人の方が多いんじゃない?」


 頷く桜子。


「そうね」


「なのに、感動ポルノのせいで身障者がダメなとこ見せると健常者以上に批判されるのよ。おかしいでしょ?ただでさえ普通に生活するだけで努力を必要とされる場面が少なくないのに、健常者以上に頑張らなきゃいけないなんて」


「ホントだ」


「恋々菜ちゃんは望まない事では何も頑張らなくていい。ダメなところがあったって全然いい。わたしたちにだってダメなところはあるんだから」


 雅が茶々を入れる。


「茉莉花は特にね」


 膨れる茉莉花。


「そこ、うるさい」


 それから恋々菜に優しく笑いかけた。


「自分が夢中になれる事を何か見つけたとき、そのとき頑張ればいいのよ。今は自分に正直に、毎日を楽しめばいい」


 頷く恋々菜。


「はいっ」


 茉莉花はプロデューサーに向き直った。


「というわけで、良識ある大人の見解は?」


 プロデューサーの眉はハの字になった。


「これで出てくれとは言えないだろ。言い訳に聞こえるかもしれないけど、番組のあり方が議論にはなってるんだ。ただ、今の形で募金が集まるのも確かなんだよ」


「それはわかるけど、子供を出演させるなら慎重にお願いします。本当に本人が望んでいることなのか。子供相手にNOを言いにくい空気を作ってないか」


「耳が痛いな。そうするよ」


 恋々菜は頭を下げた。


「ありがとうございます。もっと早く断ればよかったのに、ギリギリに我が儘を言ってごめんなさい」


 プロデューサーは笑って言った。


「いいさ。こちらも少し強引だったと反省してる。ただ、最後に一つ訊いてもいいかな?」


「はい」


「将来の夢って、ホントに何にも無いの?」


「……あの……笑いませんか?」


「おっ……笑いませんよ」


「あの……カッコいい男の子と恋がしたいです」


「そりゃ………………納得しました」


 プロデューサーは笑顔でゆっくり頷いた。


次回「その5 だって愛してるもの」は都合により2週間後の6/20(金)に投稿する予定です。

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