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霊能力美少女の家 ―逝かせてあげる♡―  作者: 如月るん
第八話 見えざる敵と危険なバカンス
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その5 千社札

 別荘から階段を上っていくと左右に伸びる細い道路に出る。それを横切るとさらに上へ伸びる階段があるが、そこから先は木々に囲まれていて急に建物が無くなる。この林の中の階段を進むと、その先に神社があるらしい。確かに神社への道しるべが立ててある。

 楓花の作った地図によると、神社へ向かって上がっていくと鳥居があり、その鳥居の手前から神社の周りを大きくぐるりと囲むような遊歩道があるという。それを左へ入り、時計回りに歩いていくと、神社の右の方角には下へおりられる抜け道があり、道路に出られるようになっている。その道路を右へ進んでくれば、今いる出発点に右側から戻ってくる形になる。

 出発点の横の小さな空き地には古い木のベンチがあり、茉莉花はそこに座って待機する事になった。別荘で待っていてもいいと言われたが、なんとなく嫌な予感がして一緒についてきた。それをクラスメイトたちには、実は寂しがり屋なのではないかという好意的な目で見られているようだったが、茉莉花は気付いていなかった。


 肝だめしが始まった。

 一番手は楓花と亮だった。地図は楓花の作ったものだったが、少し前の記憶に基づいて作ったものなので、コースに変わりはないかを初めにチェックする意味も含まれていた。

 楓花と亮は懐中電灯の灯りを頼りに歩きだした。


 二番手以降はアミダで順番を決めていた。一番手が出発した三分後に、二番手の沙羅咲と奏太がスタートした。

 そのまた三分後にマンチカンと杉浦が、そのあとは三分おきに雅と大輝、明日香と颯空、陽葵と穂乃莉、桜子と結城が順に出発した。



 明日香と颯空は神社へ向かう坂道をのぼっていた。

 明日香が訊いた。


「颯空ちゃんって呼んでいい?」


 颯空が微笑む。


「もちろん。ボクなんかもう勝手に明日香ちゃんって呼んでるよ」


「それは構わないけど、ほら。ちゃん付けで呼ばれるの嫌がる男子もいるかなって」


「可愛いって言われたくなくてカッコいいって言われたい男子とか?」


「そうそう」


 颯空が笑う。


「あはは。ミニスカート穿いてる子がそんなタイプに見える?」


「まあ、見えないね」


「むしろ可愛いって言われたいし、ちゃん付けで呼ばれるのは大歓迎だよ?」


「でも一人称はボクなんだね」


「だって男の娘だもん」


「そこがよくわからないのよね。女の子になりたいわけじゃないって言ってたでしょ?」


「うん」


 そこで明日香はハッとなった。


「あ、ごめん。こうやって二人だけで話したこと無かったじゃない?だから、つい訊いちゃったけど、あまり深入りしてほしくない話題だったかな?」


「えーと、多分そういう深刻な人もいるのかもしれないけど、ボクのはそういうんじゃないから大丈夫だよ」


「そうなの?」


「好きな服装、好きな趣味、好きな話題、好きな役割なんかが女性寄りってだけで、男子は男子だから」


「ふ~ん」


「女の子になりたい人って、手術とかしたいんでしょ?よく知らないけど。それは嫌だもん」


「なるほど。わかりやすい」


 明日香と颯空は鳥居の前まで来た。

 明日香が懐中電灯の灯りで左側を指し示す。


「こっちみたいだね」


 頷く颯空。


「うん、行こ?」


 歩きだす颯空。

 慌てて追いかける明日香。


「ちょっと待って、ちょっと待って」


 颯空の横に並ぶと明日香は辺りをキョロキョロ見回して言った。


「遊歩道って言うからもっと小洒落た感じなのかと思ってたのに、完全に林の中だね」


「でも、あちこち木の板とか丸太で道が補強してあるから、迷ったりはしなそうだよ?」


「けど、遊歩道と言うよりは林道だよね」


「もしかして、怖いの?」


「まあ、少し」


「手、つなぐ?」


「うんうん」


 笑う颯空。


「正直だね」


 二人は手をつないだ。

 明日香は颯空に体を寄せると、訊いた。


「颯空ちゃん、恐くないの?」


「少しは怖いよ」


「あんまり怖そうに聞こえない」


「一応ボク、幽霊とか見える人なので」


「ホントに?!」


「さっきからいっぱい見えてるよ」


「えっ!?」


 明日香は辺りを見回しながら颯空に張りついた。

 颯空は笑った。


「ウソだよ。こんな所に幽霊なんていないよ、多分」


 明日香はつないでいるのとは反対の手で颯空を軽くはたいた。


「やめてよ、脅かすの」


「こんな所より街中の方が見かけるよ、幽霊」


「へえ、そうなんだ」


「そんな事より、さっきから胸が当たってるんだけど」


 明日香は颯空に張りついたままだった。


「なんだろ。抵抗が無い。その格好、そういうの狙ってないよね」


「狙ってはいないよ。ラッキーって思う事はあるけど」


「軽いなぁ。もっとドキドキとかしなさいよ」


「あはは、してるよ。吊り橋効果がヤバいかも」


「それ、胸が当たってドキドキしてるんじゃなくて、夜道にドキドキしてるって事じゃない」


「もうどっちのドキドキだかわからないよ」


「しめしめ、あたしに恋するのも時間の問題ね」


「あははははは」


 颯空のおかげで明日香は怖さが半減していた。肝だめしなのだから怖い方がいいのだろうが、明日香も颯空も存分に会話を楽しんでいた。



 最後の一組が出発してから少し時間が経っていた。ベンチに座る茉莉花は暇を持て余していたが、バタバタと早足で右の道から帰ってくる楓花と亮が見えてきた。楓花は亮に手を引かれている。

 出発点に辿り着いた時には二人は息を切らしていた。亮は大きく深呼吸をしてから言った。


「ビビった~。なんだよ、あのオバさん」


 楓花が頷く。


「ホント。なんか睨んでなかった?」


「睨んでた、睨んでた。こっちの歩くのに合わせて顔が動くのが視界の隅に入ってて、めっちゃ怖かったんだけど。あれ、お前の仕込みじゃないだろうな」


「違うわよ。近所の人じゃないの?」


「かもな」


「別に騒いでないんだから、あんな睨まなくてもよくない?」


「ふだん観光客に迷惑かけられてるんじゃね?」


「そんなの、とんだとばっちりじゃない」


 少しすると、沙羅咲と奏太も同じように帰ってきた。

 沙羅咲が泣きそうに訴えた。


「怖かったよ~」


 そして楓花に突っかかった。


「ちょっと楓花~。仕込みはしてないなんて嘘じゃない。最後の最後にあんな怖いの~」


「違うよぉ。あんな人、知らないよぉ」


「えー?そうなの~?わたしはてっきり…」


 その時、茉莉花のスマホが鳴った。出るとマンチカンだった。


『やられた…』


 戻ってきた四人を気にしながら、茉莉花は冷静に小声で訊いた。


「どうしたの?」


『抜け道から道路に出たすぐの所に、オレでもわかるほどヤバい霊がいる。杉浦先生がいたのでとりあえず無視して通り過ぎようとしたんだけど、先生がコンバンハって挨拶しちゃって目をつけられたみたいだ。すぐに先生は意識を失った』


「今の状況は?」


『先生を背負って神社の方へ少し後退した。本連数珠ほんれんじゅずをかざして牽制してるからか睨み合ったまま膠着してるけど、どれだけ効果があるかわからないし、いつ何を仕掛けてくるかもわからない。このあと雅が来るはずなので防御結界を頼むつもりだけど、後続も来ちまうから、その前になんとかしたい』


「わかった。すぐ行く」


 茉莉花は電話を切ると、右の道へ駆け出した。

 楓花が茉莉花の背中に声をかける。


「どこに行くの?!」


 茉莉花は振り向かずに答えた。


「マンチカンが怖くて泣いてるから、迎えに行ってくる!」


「え?」


 その場のメンバーは唖然として茉莉花を見送った。



 茉莉花が到着すると、雅が既に結界を張って防御していた。もちろん大輝も一緒にいる。

 茉莉花は霊の横を素早くすり抜けて結界の中に入った。


「サンキュ、雅」


 集中しながらも、雅はチラリと茉莉花を見た。


「詳細はわからないけど、物凄い怨念のこもった霊波を送ってきてる。ターゲットが無差別なところを見ると、よっぽど社会や人間に怨みを持って亡くなったんでしょうね」


「こんなのぜったい桜子には会わせらんないね」


「あの子、こんな化け物の前でも丸腰で『ほら、恐くない』とかやりそうなのよね」


「ホント、そっちのが怖いわ」


 その時、霊に動きがあった。茉莉花たちを睨み付けながら、ゆっくりと近づいてくる。それが雅の結界に触れたとき、激しく空気が震えた。凄まじい怨念に結界が反応しているようだった。

 霊は弾き返されながらも、構わず近づこうとしている。


 茉莉花はチラリと雅に視線を送って言った。


「じゃあ、少し耐えててね。エネルギーチャージするから」


 雅は頷く。


「心得てるわ」


 茉莉花は目を閉じて合掌したあと、目をカッと見開き、両手の指を組み合わせて特殊な形を作った。それと同時に落ち着いた低い声で言葉を発した。


りん


 指の組み合わせを変化させ、次の言葉を発する。


ぴょう


 また指の組み合わせを変化させる。いわゆる九字印くじいんである。そして言葉を発する。


とう


 茉莉花は九字切くじぎりを行っていた。続けて印を結びながら唱えた。


しゃ――かい――じん――れつ――ざい――ぜん


 茉莉花は九つ目に結んだ印をそのまま自分の胸に持ってきて、ぐっと力を溜めたあと、両手を開いて前に突き出した。


穢悪えお滅却……波ぁっっ!!」


 茉莉花の手から光の玉が放たれた。光の玉は手から離れた時はバレーボールぐらいだったが、霊に達した時には全身を包み込むほどの大きさに膨れ上がっていた。

 霊は驚愕の表情を浮かべていたが、叫び声はあげなかった。


『あっ……あっ…………あっ………………』


 霊体は頭の右斜め上あたりから徐々に消えていき、左足を最後に全て消えて無くなった。

 茉莉花は手を下ろし、雅は結界を解除した。

 茉莉花は言った。


「ちょっと神社へ行ってみない?なんか引っ掛かるのよね」


 マンチカンは首を振った。


「オレは戻るよ。杉浦先生を連れて帰らなきゃ」


 そこで今まで黙っていた大輝が口を開いた。


「杉浦先生は俺がおぶって戻ります。三人で行ってきてください」


「いや、それは悪い――」


 そう言いかけたマンチカンの言葉を遮って、茉莉花が割り込んだ。


「助かるわ。お願い。――先生は疲れて寝ちゃったことにしといて。あと、マンチカンが氏神うじがみさまに挨拶をしておきたいって言い出したので、わたしたちはそれに付き合って神社へ行ったってことにしといて」


 大輝は頷いた。


 マンチカンの背中から杉浦を大輝の背中へ移しているところへ、明日香と颯空が下りてきた。

 明日香が訊いた。


「なにしてんの?こんな所で」


 茉莉花が答えた。


「ああ、急いでるから大輝くんに聞いて。じゃね」


 茉莉花と雅とマンチカンは抜け道を神社方向へ上っていった。


 抜け道を上りきると、遊歩道を左へ進む。右へ進むと残りの二組に会ってしまうし、左からの方が神社へは近かった。

 しばらく行くと鳥居があった。それをくぐってまっすぐ行くと、暗闇の中に神社が静かに建っていた。

 一応、三人とも静かに参拝をする。それが終わって茉莉花が口を開いた。


「神社なのに、あまり清浄な感じがしないね」


 マンチカンが辺りを見回す。


「放置されてるわけではなさそうなんだけどな」


「これ、わたしの正直な感想ね。元々いた神様が、何か良からぬものに取って代わられてるような感じがする」


「そうなのか?」


「あくまでもイメージの話ね。何か変なもんがいないか、ちょっと調べてみよっか」


 三人は懐中電灯の灯りを建物に当てながら、見て回った。

 ぐるりと見て回ったあと、正面に戻ってきた雅とマンチカンに茉莉花は言った。


「ここ、やっぱりおかしいわ」


 マンチカンが質問する。


「何かわかったのか?」


「逆にわからない?この建物を見て。わたしには異常に見えるんだけど」


 懐中電灯で茉莉花の照らす神社の建物をマンチカンと雅は見上げた。

 マンチカンは首を捻った。


「わからない。普通に見えるけど」


 そこで雅が声をあげた。


「わかった!――うわっ…気持ち悪い」


 マンチカンが訊く。


「えっ?えっ?なにが?」


 茉莉花は建物を指差した。


「ほら。千社札せんじゃふだが貼ってあるでしょ?」


「ああ…」


「あの千社札を見て不自然だと思わない?」


「…………」


「…………」


「………………あっ!」


「気付いた?」


「なんだ?あの千社札の数」


「めちゃくちゃじゃない?どんだけ人気の神社なのよ、ここ」


「いや、いや。こんな地元の人しか知らないような隠れた神社に、あの千社札の数は確かに異常だよ」


「なんでだと思う?」


「う~……わからん」


「木を隠すには森の中。お札を隠すにはお札の中ってね」


「え?……まさか…」


「あの千社札はカモフラージュね。裏に書かれているのか二重になってるのかわからないけど、わたしの感覚が間違ってなければ封印のお札が隠されてるわ」


「封印って、何を?」


「そりゃ霊でしょ?」


「あの数、全部?」


「あの数、全部」


「コワっ。なんでそんな事を……」


「理由とか無いんじゃない?封印する場所に困って、バチ当たりにもここに封印したのかもよ。おかげでこの周辺一帯に霊とか集まって来ちゃってるっぽいけど」


「どうする?」


「どうもしないわよ。こんな数、どうしょもないじゃない」


「確かに」


「封印した本人がどうにかすべきなのよ」


「まあ、正論だな」


「わたしたちがする事は、長野に帰るまでさっきみたいのが二度と現れないのを祈るだけよ」


「だな」



 茉莉花たち三人は、鳥居をくぐると、目の前の道をまっすぐ出発点まで戻った。

 出発点には最後の二組も戻ってきていた。もちろん途中の霊は除霊したのだから、桜子も結城も遭遇していないはずだ。

 杉浦はベンチに座っていた。意識は取り戻している。あとで聞いたが、何も覚えていないらしい。


 茉莉花は言った。


「ごめん。待たせて」


 楓花が答える。


「びっくりしたわよ。急に駆け出すから」


「マンチカンがわがままを言い出すから…」


 マンチカンは慌てた。


「いや、坊主としては氏神さまに挨拶をしないわけにはいかなくて…」


 茉莉花がツッコミを入れる。


「そんなチャラいカッコして、真面目かっ!?」


 みんなが笑った。

 全員に霊の攻撃を受ける可能性があった事は、茉莉花たち三人と大輝以外は知る由もなかった。


次回「その6 坊主は医者にはなれないの」は2/28(金)の朝に投稿する予定です。

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