おまけ 長野の夏祭りについての会話
リビングで茉莉花たちはアイスクリームを食べていた。
桜子は口にチョコレートをつけたまま、ボーッとした顔で言った。
「びんずる、楽しかったぁ」
茉莉花はティッシュで桜子の口を拭きながら言った。
「それは良かったね。わたしなんか散々よ」
そう言いながらも楽しそうな茉莉花を雅はからかった。
「マンチカンを散々連れ回したんでしょ?」
茉莉花は膨れた。
「違うわよ。マンチカンに連れ回されたのよ」
「はいはい」
「ちょっ。だいたい、アイツが無理やりバイトなんかさせなければ、わたしは家でのんびりしてたのに」
「でも、美味しかったんでしょ?色々」
「なによ、その色々って」
「色々は色々よ」
「まあ、バイトは短時間で予定より多く貰えて美味しかったし、レストランの食事も美味しかったけど、それだけよ」
「そう?」
「なによ」
「何も言ってないじゃない」
「マンチカンと一緒だったけど、そんなのただウザかっただけだから」
「マンチカンの事なんてひとことも言ってないのに…」
桜子は茉莉花に訊いた。
「茉莉花ちゃんは毎年びんずるに行かないの?」
茉莉花は答えた。
「小学生までは親に連れられて行ってたよ、毎年」
「そうなんだ」
「あ、でも二年生だったか三年生だった時に一回だけ浮気した」
「う、浮気?」
「毎年、びんずると同じ日に『松本ぼんぼん』ってあるのね。家族でたまには行ってみようかってなって、行ったことがあるの」
「松本のお祭り?」
「そ。松本ぼんぼんも踊りの連がたくさん練り歩くお祭りよ」
「長野県の夏祭りって他にもあるの?」
「そりゃ、いっぱいあるでしょ?」
「どんなの?」
「いや、そんなに知らないよ。長野県って広いんだよ。地域ごとにやってるもん」
「そんなにってことは、少しは知ってるの?」
「少しはね。例えば、市内だったら善光寺で盆踊りとかやるよ。あと、もう終わっちゃったけど、従姉が上田市にいるから『上田わっしょい』は知ってる。みこしの連とか踊りの連が出るらしいよ」
「他には?他には?」
「お隣の須坂市では『カッタカタまつり』ってやるよ。やっぱり連で踊るの。あと、一度は行ってみたいと思ってるのが『いいやま灯篭まつり』ね。約一万個の灯篭が幻想的で、日本夜景遺産にも認定されてるんだよ」
「いいなあ」
「あとは花火大会かな。長野県はとにかく多いから」
「ほんと?じゃあ、まだ浴衣を着る機会はいっぱいあるね」
「あ、でも花火は七月が多いかな」
「え?そうなの?終わっちゃってる?」
「ううん。八月にもある事はあるよ。有名なのは諏訪湖の花火だけど、ここからだとちょっと遠いんだよね。子供のころ行った事あるけど、帰りがめちゃくちゃ渋滞するし。泊まれたら最高なんだけどね」
「近くのは?」
「多分あるはずだから、調べてみて行けたら行こうか」
「うん!」
雅が注意を促す。
「マンチカン、お盆前後は忙しいみたいよ」
茉莉花は頷く。
「わかってる。セバスチャンもお盆はお休みだから車を頼めないし、そこは外すよ。もしくは電車かバスで行ける所にする」
雅が疑いの眼差しで茉莉花を見た。
「電車かバスなんて混むだろうから絶対に嫌がるくせに」
「はは…まあね」
「桜子も浴衣をまた着たいだけなら近所の盆踊りとかでもいいんじゃないの?」
桜子は口を尖らせた。
「花火は見たいよぉ」
「花火なら秋にも冬にも見れるよ。要は結城くんに浴衣姿を見せたいだけなんでしょ?すごく褒められたって何回も言ってたじゃない」
「え~?そんな何回も言ったぁ?確かに結城くんには可愛いって言われたけどぉ」
「桜子。ノロケって言葉、知ってる?」
「え~?そんなんじゃないよぉ。だって結城くんてば平然としてるんだよ。口ではドキドキするとか言っといて。なのに、また見たいとか言うじゃない?そしたら仕方ないじゃない。また着なきゃ」
茉莉花は桜子の結城とのノロケ話をうんざりした顔で聞いていたが、雅は桜子のそういう様子を少し楽しんでいた。
おまけ 長野の夏祭りについての会話
――終わり――
次回「第八話 見えざる敵と危険なバカンス その1 デッキチェアーの水着の彼女」は1/24(金)に投稿する予定です。




