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霊能力美少女の家 ―逝かせてあげる♡―  作者: 如月るん
第七話 長野びんずるの夜
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その5 幽霊電車

 茉莉花たちはノンキボーテに来ていた。目的は桜子の浴衣を買う事である。


「桜子、どれがいい?」


 茉莉花に訊かれて桜子は大いに迷った。


「みんな可愛いよ。選べない」


「でも、やっぱピンクかなぁ。この桜の良くない?」


「うん。これ好き」


 茉莉花が袋に入ったままの浴衣を桜子の体に当てる。


「いいんじゃない?」


「あ…でも、大丈夫?わたしちっちゃいけど」


「ダイジョブよ。おはしょりで調節できるから。それでも大きかったら雅に調節してもらえばいいし」


「びんずるまでに間に合う?」


 雅が頷く。


「たぶんね。あした一日あるし」


 茉莉花が浴衣をカゴに入れる。


「じゃあ、これに合わせて小物類も揃えるよ」


 雅が付け加える。


「スリップも欲しいわね。桜子、持ってないでしょ?」


 桜子が首を傾げる。


「スリップ?」


「本当は浴衣の下に肌襦袢はだじゅばんとか和装下着が正式なんだけど、要は下着のラインが見えにくくて、汗を吸ってくれて、和装が似合うように体のラインを補正してくれて、動きやすければいいの。夏は暑いから、吸水性のあるスリップだと快適よ。安いし、たぶんここにも売ってるし」


「へえ。雅ちゃん、詳しいね」


「女の子なら知ってて損はないわよ」


「でも、ホントにいいのかな?色々と買ってもらって」


「まあ、この値段なら予算内ね。ホント安いね、ノンキ」


 茉莉花が悪い顔で笑う。


「まだまだ買うわよ。水着だって買わなきゃなんだから。桜子なんて、中学のスクール水着しか持ってないし。それはそれで需要ありそうだけど」


 雅が渋い顔をする。


「ついでに自分のも買う気なんでしょ?」


「雅だって買うでしょ?新しいの」


「あたしはいいわよ。去年の白のワンピースで」


「それはもう大輝くんに見せたでしょ?」


 雅がほんのり赤くなる。


「別に大輝くんに見せるために着るわけじゃないもん」


「そお?でも、新しいの見せたいでしょ?」


「だからいいって。去年ので」


「大輝くん、喜んでくれると思うなぁ」


「去年のだって、すごく褒めてくれたもん。可愛いって」


「ほお。それは初耳ですなぁ」


 ニヤける茉莉花。ときめく桜子。

 雅は悔しそうに膨れた。





 夜になり、マンションの最上階の一室に茉莉花たちは来ていた。そこに一人で暮らす三十代の女性が言うことには、夜中の2時頃に窓の外を電車らしきものが通り過ぎるという。電車「らしきもの」と表現したのは怖くて窓の外を見ていないからだ。ただ、横切る光と音は、通り過ぎる電車そのものだという。


 現在の時刻は午前0時。今日はマンチカンは送迎だけで、部屋までは来ていない。

 女性は茉莉花と雅と桜子を歓迎してくれた。ソファをすすめる。


「楽にしてね。ご飯は食べた?」


 雅が答える。


「食べてきました」


 女性はリビングの冷蔵庫を開けて訊いた。


「飲み物は何がいい?」


 茉莉花はリビングのカーテンを開けて外を見ながら答えた。


「コーラはありますか?」


「あるある。他の子は?」


 雅も外を覗きながら答える。


「あれば牛乳をください」


「オーケー。そっちの子は?」


 訊かれて桜子も答えた。


「冷たいお茶かコーヒーください」


「オーケー、オーケー。ここに置くよ」


 女性はソファの前のテーブルに飲み物を置いた。

 茉莉花が訊いた。


「こっちですか?電車」


「そうなの」


「ちょっとベランダに出てもいいですか?」


「あ、サンダル一つしかない」


「大丈夫です」


 茉莉花は窓を開けてベランダに出た。ベランダの下や左右を確認してから、景色をぐるりと見渡す。

 茉莉花は戻って雅に言った。


「特に何も無い。見てみる?」


 雅は頷き茉莉花と交代する。

 戻ってきた雅は首を横に振った。


「霊の痕跡らしきものも無いよね」


 茉莉花が頷く。

 三人はソファに戻り、茉莉花は椅子に座っている女性に言った。


「挨拶が遅れました。わたしたち霊能力美少女の家から来ました、桐生茉莉花と香月雅と高遠桜子と申します」


「あ、はい。て言うか、そんなにかしこまらないで。もっと気楽に気楽に」


「では失礼して…」


 茉莉花がペットボトルのフタを開けると、用意してくれたコップを使わずにコーラをラッパ飲みした。

 女性は笑顔で頷いた。


「そうそう。正直、可愛い女の子が三人来たから、わたしもテンション上がってるのよね。あの金髪のお坊さんが来たときはどうしようかと思ったわ」


 茉莉花が苦笑いする。


「ごめんなさい。あいつ、デリカシーが無いので」


「あははっ。そんな感じする。たぶん彼、自分がモテるって自覚があるんじゃないかしら」


「あります、あります。だから誘えばどんな女も堕ちると思ってるんです。部屋に入れなくて正解ですよ」


「あれ?あの人、身内じゃないの?」


 茉莉花はキッパリと答えた。


「ビジネスだけの関係です。あの人のお寺と業務提携してるだけなんです」


「そういうのにも業務提携とかあるのね」


「僧侶だからといって霊能力があるとは限りませんから」


「まあ、それはそうよねぇ」


「ただ、ごめんなさい」


 茉莉花が頭を下げる。女性は首を傾げた。


「なに?」


「わたしたちの専門は除霊とか浄霊なんです。誤解の無いように最初に言っておきますけど、すぐに解決出来るとはお約束ができません。電車が通ったなんて話は聞いたことがある程度の珍しいケースなんです」


「あー。でしょうねぇ」


「現象は確認します。でも、全てはそれからじゃないと何とも言えません。ごめんなさい」


「いいの、いいの。ビビリなわたしじゃ確認すらできないんだから。来てくれただけで嬉しいよ」



 その後、電車が通るという夜中の2時頃まで、四人はマンチカンの悪口や理想の男性像などの話で盛り上がった。



 午前2時少し前。遠くから電車の走る音が聞こえてきた。茉莉花と雅は素早く立ち上がり、窓へ駆け寄る。桜子も追いかけた。

 茉莉花が女性に言った。


「カーテン開けます。窓も開けると思います。怖ければ奥へ行っていてください」


「う、うん。わかった」


 女性は奥へ消えた。


 電車の音は徐々に迫ってきていた。茉莉花は思い切りカーテンを開き、窓を開け放った。

 電車のライトが一瞬ベランダを照らす。ガタンゴトンと走る音が急速に近付く。次の瞬間には電車がベランダの向こうに差し掛かった。なんともレトロな雰囲気の電車である。

 雅が素早くスマホで写真を撮影する。

 電車は大きな音を立てて目の前を通り過ぎていった。あっと言う間の出来事だった。

 茉莉花はサンダルも履かずに靴下のまま急いでベランダへ出た。電車の去った方を確認する。けれども電車は、もう見えなくなっていた。


 戻った茉莉花に雅は言った。


「ダメだ。確実に撮ったはずなのに、全く写ってない」


 茉莉花は足の裏をはたいて中に入ると訊いた。


「見た?二人とも」


 雅が頷く。


「人が乗ってたね」


 桜子も頷く。


 電車の中は明るかった。そこにまばらではあるが、人が乗っていた。おそらく霊である。

 茉莉花は窓とカーテンを閉めると言った。


「幽霊電車って話では聞いたことあるけど、あれはわたしたちにはお手上げだね」


 桜子が情けない声を出す。


「あんなに一瞬じゃ浄霊できないよ」


「そもそも正体がわからないし」


 そこへ女性が恐る恐る戻ってきた。


「どうだった?」


 茉莉花は頷いた。


「間違いなく電車でした。ただ、どこかで停車してくれないと、わたしたちにはどうにもなりません」


「やっぱり?」


 苦笑いする女性に、茉莉花は訊いた。


「こんな突飛な出来事なのに、ずいぶんと明るいですね」


「何かされるわけでもなく、外を通っていくだけだからね。線路横の家は慣れてるし」


「そうは言っても気持ち悪いでしょ?」


「まあね。でも、わたしの精神の問題じゃなかったってわかっただけでも良かったわ。お医者さんにその可能性を示唆されて、ちょっと考えすぎてたから」


 雅が素早く質問する。


「何ていうお医者さんですか?」


「いや、病院に行ったわけじゃないのよ。行きつけのバーで知り合ったお医者さん」


「ミナミ先生じゃありませんでしたか?」


「あれ?確かそうだったわ。有名な人?」


「いえ、そうではないんですが。――連絡先とか知ってますか?」


「ううん。二、三回会っただけで、最近はまるっきり会わないし、バーの人に訊いても全く来なくなったって…」


 茉莉花と雅と桜子は顔を見合わせた。



 結局、幽霊電車から何かされるわけではないと言っても全く影響が無いという確証も無いので、壁に最低限の霊波を防ぐ結界を張り、何かあればすぐに連絡をくれるように言って、雅が調査を継続するという話で引き上げとなった。

 ただし、調べたからといって答えに辿り着くとはとても思えない茉莉花だった。


次回「その6 桜子の場合」は12/20(金)に投稿する予定です。

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