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霊能力美少女の家 ―逝かせてあげる♡―  作者: 如月るん
第七話 長野びんずるの夜
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その1 茉莉花は何も悪くない

 朝食を食べながら、桜子は言った。


「結城くんとびんずる行くことになった」


 雅が微笑む。


「あら、よかったじゃない」


 茉莉花がいまいましげに吐き捨てる。


「爆発しろ!」


 苦笑いをする雅。


「なんてこと言うのよ」


「だって、わたしはまだアイツを信用してないから」


「茉莉花が信用しようがしまいが関係ないわ。桜子が信用してるんだから」


「雅は桜子が心配じゃないの?」


「桜子はいつだって心配よ。でも、それは結城くんのせいじゃないもん」


「雅はアイツを信用してるって言うの?」


「正直よくわからない。――桜子の話を聞いた限りでは、大切にされてるみたいだけど」


 茉莉花は術をかけるようなジェスチャーを大袈裟にしながら言った。


「大切にしなかったら霊を取り憑かせてやる」


 実際はそんなこと出来ないのだが、桜子は慌てた。


「大丈夫だよ、茉莉花ちゃん。結城くんは優しいし」


「恋は盲目って言うからなぁ」


 そのときインターホンが鳴った。雅が出てみると、マンチカンだった。



 三人の朝食が済むまでマンチカンはリビングでコーヒーを飲んで待っていた。

 食事のあとリビングに揃った三人に、マンチカンは言った。


「仕事が入ったぞ」


 茉莉花は仏頂面をマンチカンへ向けた。


「食事中に乱入して来ないでよ」


「乱入て。別に暴れたわけじゃあるまいし」


 茉莉花は目の前に置かれたコーヒーを一口すすってから言った。


「無駄口はいいから、仕事の話をはよ」


 マンチカンも仏頂面になりかけたが、気持ちを鎮めて言った。


「……まあ、いい。仕事だけどな、今回は四つ持ってきた」


「そんなの一度に出来ないわよ」


「もちろん順番にやればいい。じゃあ端から話すぞ。一つ目は――」


 一つ目は日帰り温泉施設に出る霊だった。

 多くの人が訪れる人気の温泉施設で、内湯の他に露天風呂もある。休憩室が広く、食事も出来るので長時間滞在する人も少なくない。

 その男湯に21時の営業終了間際になると出る男性の霊がいる。正確に言うと何時頃からいるのかわからないのだが、騒ぐ客もいないので最後の確認の時に初めて気付いたようだ。


 営業終了のアナウンスで全ての客が出ただろうと浴場を確認に行くと、まだ露天風呂に浸かっている人がいる。最初は普通に人間だと思って「もう営業終了ですよ。申し訳ないのですが上がっていただけますか?」と声をかけたが、男性は振り向いてにっこり笑うとスッと消えた。


 それからは、同じ場所に毎日その男性の霊は現れた。従業員は何か別の事が起こると怖いので、毎日「もう営業終了ですよ。申し訳ないのですが上がっていただけますか?」としか言えなかった。このセリフを聞くと、霊は振り向いてにっこり笑って消える。

 それだけで特に害は無いのだが、いつか他の客に気付かれて騒がれたり噂になったりするのではないかと危惧していた。


 その後、施設側は従業員に協力してもらい、日替わりで霊に声をかけ、見覚えがないか顔を確認してもらった。もちろん嫌がる者に無理強いはしていないので全従業員ではないのだが、その霊の顔に見覚えのある者は一人もいなかったため、常連客ではないだろうという話になった。

 その話を聞いたマンチカンも従業員の格好をして見に行ったが、余計なことをすると桜子の浄霊の邪魔になりかねないと思い、他の従業員と同じセリフで振り向いて笑って消えるところを確認できただけだった。当然ではあるがマンチカンにも見覚えなどあるはずもなく、それ以上は調べようがなかった。


「営業終了って聞いて素直に消えてくれるぐらい良心的な霊なら、たぶん大丈夫」


 と桜子は言った。

 調査不足と言われても困る。マンチカンはホッとして話を次へ進めた。


「二つ目は――」


 二つ目は、深夜のコンビニに現れる霊らしきものだ。入口のチャイムが鳴って見てみると誰もいない。最初はチャイムの誤動作かと思ったが、毎日午前3時頃にチャイムが鳴り、どうやら同時に自動ドアが開閉している様子である。

 それでも風で飛んでくる枯れ葉やゴミ、または虫などに反応しているのだろうと気にせずにいたのだが、ある日バックヤードでの作業中に防犯カメラのモニターに映っている入店する女性を確認し、見に行くと誰もいなかったという。いつ出ていったのかと不思議に思って防犯カメラの映像を確認してみると、見たはずの入店の瞬間が全く映っていなかった。

 そこで、別の日の3時頃に店員の一人がレジに立ち、もう一人が防犯カメラのモニターを見守ってみた。すると、モニターでは女性が入店して食べ物や飲み物をかごに入れ、レジへ持っていったのに、映っているレジの店員は全く反応しない。女性はそのまましばらくじっと待ったあと、店員が対応してくれないので買い物かごを置いたまま出ていった。レジに立っていた店員の証言では、ドアは開いたが何も見ていないという。もちろんレジには買い物かごなど置かれていない。そしてリアルタイムには見れた映像も、記録としては全く残っていなかった。

 依頼を受けてマンチカンは店へ行き、客のフリをして店内で待ち、女性客の霊が入ってきて商品を物色してレジで買い物を諦めて帰っていくまでを確認した。気付かれると危険と判断して、後はツケたりしなかった。

 夜勤の従業員に話を聞くと、一人がモニターに映った女性の顔を覚えていて、たまに買い物に来ていた人だという。サラダチキンをよく買っていたらしい。


「三つ目は――」


 三つ目は、過去に四十九日法要をしたが本人は残ったまま逝っていないケースの一つだ。マンチカンがその家に久しぶりに連絡をとってみると、まだ本人はいるという。送れるのなら送ってほしいという家族からの依頼だ。


 本人が逝かない理由はわかりやすかった。

 その女性が亡くなったのは一年前だが、残されたのは夫と、当時は小学六年生と小学四年生だった息子二人である。

 その女性も夫も他県の出身で、身内が近くにはいない。つまり夫一人で二人の息子を育てなければならず、近しい協力者もいない。妻として、母としては心配に違いない。


「四つ目は、これはちょっと都市伝説っぽいんだけど――」


 マンションの最上階に一人で暮らす三十代の女性の話だが、夜中の2時頃に窓の外を電車が通り過ぎるという。怖くて実際には見ていないが、引っ越してきてから毎晩のようにカーテンに映った光と電車の音が通っていくらしい。

 同じ階の他の住人にそれとなく訊いてみても、何も無いそうだ。

 特に害は無いし、以前に住んでいた所が線路脇で聞き慣れた音ではあったので、気にしなければなんてこともなかった。ただ、そうは言っても気になるし、自分の幻覚ならば病気を疑う必要性も出てくる。迷ったあげく人に相談したら、マンチカンに話が通じたらしい。

 マンチカンはその電車を確認しようとしたらしいが、依頼主の女性に断られた。それはそうだろう。一人暮らしの女性が真夜中に部屋に男性を入れるのは、それはもう泊めるのと同義である。


「なに考えてんだ。チカン野郎」


 茉莉花の罵りに、マンチカンは形ばかりの反論をする。


「そんなこと言ったって、部屋に入らなきゃ確認できないじゃん」


「そういう時は、すぐ話を持ってこいよ。女の子なら問題ないんだから」


「いや、ちょっと確認するぐらいなら問題ないと思うだろ」


「思わないよ。あんたのエロい顔を見たら誰だって警戒するでしょ?」


 マンチカンの眉間にシワが入る。


「どこがエロいんだよ」


「自覚ないの?頭ん中のエロさが顔に出てるのよ。どうせ、あわよくば依頼主とエロい関係を築けたらとか企んでたんでしょ?わかってるんだから」


「おまえ、相手は三十代だぞ」


 茉莉花の眉間にもシワが入ったが、眉尻は下がっていた。


「あんた、三十代の女エロ教師と初体験してんじゃない!!新宿に行った時に会いにいってるのだってわかってるんだからね!!」


 うろたえるマンチカン。


「あれ?どうして…」


 茉莉花のマンチカンへ向ける表情が憎しみに変わった。


「やっぱり……」


 コーヒーカップを掴みあげる茉莉花。とっさに雅が手を伸ばす。


「茉莉花!それは……!」


 茉莉花はマンチカンの顔に向かってコーヒーをぶちまけた。

 マンチカンは固く目を閉じ、手でコーヒーを拭った。


「あちっ……あちち……」


 雅は素早く立ち上がり、マンチカンに駆け寄った。エプロンのポケットからハンドタオルを取り出してマンチカンの顔に当てる。


「立てる?」


 マンチカンは手を振った。


「いや、いい。大丈夫だ」


「大丈夫なわけないでしょ?お風呂場に行くよ」


「わ、悪い」


「いいから早く」


 雅は桜子にも声をかける。


「桜子!悪いけど冷凍庫から氷をビニール袋に入れて持ってきて!」


 桜子も慌てて立ち上がった。


「うん、わかった」


 雅とマンチカンは風呂場へ向かった。



 桜子が氷を持って風呂場へ行くと、膝をついて前屈みになっているマンチカンの顔に雅がシャワーの水を当てていた。

 雅がマンチカンに訊いた。


「痛い?」


「ちょっとだけ。コーヒーが少し冷めかけてたから、そんなにひどくはないよ」


 桜子が雅に訊いた。


「氷、どうする?」


 雅が指示を出す。


「袋の口を縛って、その辺のタオルにくるんでくれる?」


「わかった」


 しばらくしてから雅はシャワーを止め、マンチカンを支えながら脱衣場に出た。マンチカンを座らせると、桜子から氷の入ったタオルを受け取りマンチカンの顔に当てた。

 マンチカンは自分で氷を持って言った。


「大丈夫。自分で持てるから」


 雅は氷を離さず言った。


「いいから。壁に背中つけて楽にして」


「ありがとう。ごめんな」


「謝らないでよ。悪いのは茉莉花なんだから」


「いや、違うよ。ホントは茉莉花は最初から何も悪くない。オレが悪いんだよ」


 マンチカンの顔は濡れていてわかりにくかったが、目に涙を溜めているのは雅も桜子も気付いていた。だからといって何も言えない。茉莉花とマンチカンの間に何かがあったのは確かなようだが、それは触れてはいけない火傷の痕に思えた。


次回「その2 最期の混浴」は11/26(火)に投稿する予定です。

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