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霊能力美少女の家 ―逝かせてあげる♡―  作者: 如月るん
第六話 夏休みの始まり
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その7 峠を越えてきた少年

 セバスチャンの車に乗ってキャンプ場から帰ってくると、家の前にはバイクが停まっていて、その傍らには一人の少年が立っていた。

 短めの髪の少年は優しそうな顔だった。長身だが細すぎず、Tシャツにジーパンにスニーカーというシンプルな格好をしている。

 バイクの後ろには大きめの荷物がくくりつけてあった。旅行中のライダーのように見える。

 少年はセバスチャンが車を停めるのを待ってから、バイクを置いて近づいてきた。そして、車から降りた雅にかけよった。


「雅!」


 雅は立ち止まった。


「大輝くん…」


 桜子は驚いたが、茉莉花とセバスチャンはわかっているようだった。

 茉莉花は雅に言った。


「行っといで」


 雅が答える。


「でも、お昼ご飯の用意しなきゃ」


 そこでセバスチャンが申し出た。


「よろしければ、わたくしがお作りしますが」


 茉莉花が頷く。


「そうしてもらお」


 申し訳なさそうな雅。


「…ありがとう、セバスチャン」


 バイクを押す大輝と雅は並んで歩きだした。

 茉莉花は動かずに見送っている桜子を引っ張って家の中へ入った。



 リビングでセバスチャンの入れてくれたコーヒーを飲みながら、桜子は訊いた。


「あの人でしょ?雅ちゃんの彼氏って」


 茉莉花もコーヒーに口をつけてから答えた。


「雅は否定してるけどね」


「毎年夏に来てるんでしょ?」


「毎年って言っても、まだ二回よ。今年で三回目」


「充分すごくない?」


「そうね」


「絶対に好きでしょ」


「でしょうね。毎年フラれてんのに来るんだから」


「フラれてるの?て言うか、雅ちゃんフッてるの?」


「もう来るなとか、忘れてくれとか言ってるみたいだからね」


「そんな冷たくしなくても…」


「逆。雅は優しいのよ。期待を持たせる方が酷でしょ?」


「ホントに脈が無いんだ」


「そこら辺はちょっと微妙なんだけどね」


「と言うと?」


「見ててみなよ。たぶん今年も彼、夏の終わりまで長野に居座るつもりだろうけど、そのあいだの雅の態度が面白いように変わるから」


 桜子はワクワクが抑えられずに身を乗り出した。


「え?どんな態度?どんな態度?」


「迷惑そうなこと言ってるわりにめっちゃ幸せそうなの。可愛いったら」


「うわっ。なにそれ、なにそれ。雅ちゃんもぜったい好きじゃん」


「だと思うんだけどね」


 そこでセバスチャンが声をかけた。


「お食事が出来ました」


 ダイニングに行くと、テーブルには昼食が並べられていた。

 セバスチャンは茉莉花と桜子が席に着くのを待ってから言った。


「それでは、わたくしはこれで…」


 茉莉花は手を振った。


「ごめんね、セバスチャン。ありがとね」


 セバスチャンは帰っていった。


 セバスチャンの作ってくれた料理を食べながら桜子は訊いた。


「ねえ。雅ちゃんてそんなに大輝くんのことが好きなのに、なんでフッちゃうの?」


 茉莉花は噛んでいる物を飲み込んでから答えた。


「雅にもいろいろあんのよ。長野に来て人生をやり直してるみたいなとこあるし」


「過去を捨ててきたみたいな?」


「そうね」


「大輝くんとの関係も捨ててきたってこと?」


「かもね」


「大輝くんって雅ちゃんの秘密を知ってるのかな」


 その言葉で茉莉花は食べている物を喉に詰まらせてむせた。


「桜子…あんた……」


 桜子は自分のミスにまだ気付いていない。


「え?…なに?」


「……雅の秘密って?」


 それは桜子にとっては不思議な質問だった。昨晩のテントの中での茉莉花と雅の会話で、なんとなくだが茉莉花は秘密を知っている感じがした。そうでなくても二人が一緒に風呂に入っているのなら知らないはずはないとも思う。


「あれ?だって茉莉花ちゃんも知って…………」


 そこで桜子はようやく気付いた。脱衣場での出来事を茉莉花は知らないはずだった。

 桜子はうろたえた。


「あっ、違うの茉莉花ちゃん。たまたまなの。茉莉花ちゃんがいない日にたまたまお風呂に入ろうとして、たまたま脱衣場に入ったら、たまたま雅ちゃんがお風呂から出てきたの。事故みたいなもんなの。別に覗いたとかそういうんじゃないの。だから悪気はなかったのよ。ホントよ」


 茉莉花は少し桜子を見つめたあと、大きく溜め息をついた。


「はぁ。そっか。見ちゃったか。まあ、あり得る事だとは思ってたから『入浴中』の札を設置しようとは考えてたんだけどね。女の子しかいないって感覚だったので忘れてた。わたしのミスね。――わたしがいないのを忘れて雅自身も油断したみたいだけど」


 桜子は急に脱衣場での出来事の続きを思い出して身震いした。


「あ!ねえ、茉莉花ちゃん!わたしが喋ったこと雅ちゃんには黙ってて!お願い!この通り!」


 桜子は合掌して頭を下げた。

 茉莉花は首を傾げて訊いた。


「見たこと雅に気付かれてないの?」


「ううん。めちゃめちゃ気付かれてる。だから喋ったことバレると殺されちゃう」


「殺されはしないでしょ」


「殺されるよ。だって雅ちゃん、喋ったら殺すって…」


「あーまあ、そうなるか。殺す気なんてないだろうけど、それだけ隠すのに必死だからね」


「どうしよう。どうしよう茉莉花ちゃん」


「そんなに雅が怖い?」


「怖かったよ、あの時の雅ちゃん。あんなに睨むんだもん。喋ったなんて知られたら絶対に不安を与えちゃうよ」


 茉莉花はあれ?な顔をした。桜子は自分の命の心配もしているのだろうが、それと同時に雅の気持ちを無意識に心配している。


「ダイジョブだよ。言わないから。ただし、桜子も今後ほかの人にうっかり言わないように充分気をつけて。あの子、命がけで隠してるから」


 桜子は雅の「バラしたら死んでやるから…」という言葉を思い出した。


「うん。ごめんなさい」


「わたしに謝られても。――ホントは桜子がここへ来るってなった時に危惧はしていたの。でも雅が望んでないのに言うわけにはいかないでしょ?びっくりしたよね。ごめんね」


 桜子は大きく首を横に振った。


「大丈夫。でも、正直まだよくわかってないんだ。雅ちゃんの秘密」


「ああ、そうか。見ただけだもんね。ただね、詳しくはわたしからは話せない。アウティングって言って、本人の望まない個人情報を勝手に第三者へ伝えるわけにはいかないのよ。ただ、彼女は誰が何と言おうと紛う方なき女の子よ。それだけは忘れないでね」


「日下部くんの逆みたいな?」


「だから訊かないでよ。言えないんだから。まあ、間違ってはいないけど」


 困り眉の茉莉花を見て桜子は意識的に話題を変えた。


「ねえ。あの大輝くんって、どこに泊まるの?」


「知らない。去年とおととしはどっかでキャンプだか野宿だかしてたらしいよ。今年も同じじゃない?」


「え?そんなワイルドなタイプには見えなかったよ」


「そお?東京から長野まで碓氷峠うすいとうげを自転車で越えてやって来ちゃうような一途な子よ。雅に会うためなら野宿でも何でもするでしょ」


「そうなのよね。そこがなんかキュンとしちゃうなぁ」


「まあ、わかる。だからこそ切ないのよね。雅の選択が」


「雅ちゃんの気持ちって変わらないのかな」


「頑なだからね。夏が終わって彼が帰ったあとはめちゃくちゃ落ち込むくせに」


「そうなんだ」


「わたしね。正直、心配してたんだ。今年は来るかなって。苦労して自転車で来てフラれて帰るわけでしょ?イヤになるんじゃないかなって。雅にしてみればそうなるように仕向けてるんだろうけど」


「でも来たよ」


「うん。しかも今年はバイクに乗ってきたみたいね。二年後には車の免許を取って、冬にも来るんじゃない?」


「わあ、楽しみ」


「桜子が楽しみにしてどうすんのよ。ま、雅も彼が来るのをひそかに期待してた気がするけど」


「だよね」


「今年もびんずる行くんだろうな。二人で」


 桜子の頭にクエスチョンマークが立った。


「…?びんずる?」


「ああ、そか。桜子は長野来たばっかだから知らないか」


「うん。知らない」


「お祭りよ。八月に入ったらすぐやる長野市の最大の祭り。しゃもじを持った踊りの連がたくさん出て、見るだけでも楽しいよ。去年もおととしも雅は浴衣着て大輝くんと一緒に行ってるから、今年もそうかなって」


「へえ、いいなぁ。わたしたちも行こうよ」


「イヤよ。人が多いし、クラスメイトとかにも会いそうだし」


「えー?!」


「それに、どうせ桜子はアイツと行くんでしょ?」


「アイツ?」


「結城よ。長野市内のカップルはイチャつくために全員びんずるに行くみたいよ。知らんけど」


 言われて桜子は結城と祭りへ行く想像をした。うっとりとして口が半開きになった間抜けな顔を茉莉花がスマホで激写した。それを桜子に見せつける。


「なんてバカっぽい顔なの?ほれ」


「や~ん。消してぇ」


 伸ばす桜子の手からスマホを遠ざける茉莉花。


「無駄だ。永久保存してやる」


「やめてぇ」


「…………」


 茉莉花は少しのあいだ動きを止めたが、鼻をフンッと鳴らして言った。


「やめた」


 いつもならここで雅が止めているはずだった。スマホを操作して写真を消しながら茉莉花は言った。


「ツッコミがいないとジョークになんない。つまんない」


「なにそれ」


 そう言いつつも桜子はホッとして伸ばした手を引っ込めた。





 雅は夕方には帰ってきてメイド服に着替え、夕飯の支度を始めた。平静を装っているが、どことなく楽しそうではあった。

 案の定、一人でキッチンに立っていると油断するようで、誰も聞いていないと思って料理をしながら鼻歌を歌い始めた。キッチンの側を通りかかった桜子にもそれが聞こえ、思わず笑顔になってしまった。雅が鼻歌を歌うなど珍しい事だったからだ。



 夕飯を食べながら、おそるおそる桜子は雅に訊いてみた。


「大輝くん、どうだった?」


 桜子は雅に怒られる事を覚悟していたが、雅の上機嫌は怒りなど生み出したりしなかった。雅は笑顔で訊き返した。


「どうだったとは?」


「例えば去年と何か変わってたとか」


「変わったといえば、原付免許を取った事かな」


 そこで茉莉花が割り込んだ。


「え?あれって原付バイクなの?」


 雅は頷く。


「そうみたい。あたしも知らなかったけど、原付ってスクーターとかカブだけじゃないんだね」


 茉莉花は頭に地図を思い浮かべているのか、あさっての方向を見て言った。


「てことは、やっぱり下道の峠越えか」


「そう言ってた。きのう出発して途中で休みながら来たらしいよ」


「まあ考えてみれば、高一になったばかりで取れる免許なんて原付ぐらいか」


 そこで桜子が高い声を出した。


「あれ?キャンプのとき結城くん、大きいバイクに乗ってきてたよ」


 茉莉花が訊く。


「大きいってどんぐらい?」


「わかんないけど、大輝くんのよりはかなり大きかった気がする」


「結城って中学浪人してんじゃない?実は年上だったとか」


「え?そうなの?」


 茉莉花の言葉をすぐ鵜呑みにしようとする桜子に呆れながら雅は言った。


「桜子。茉莉花が言ってるのは可能性の一つね。原付よりはかなり難しいけど、上のクラスの免許を試験場で一発合格って可能性もあるから」


 茉莉花が鼻で笑う。


「中二にそんなこと出来ると思う?」


 茉莉花の意地悪心いじわるごころを面倒に思いながらも、雅は仕方なく付き合う。


「わかんないじゃない。セバスチャンと闘った話を聞くと運動神経は良さそうだし、彼、頭もいいわよ。期末テストもクラスで4位だったし、学年でも20位以内だったはず」


 桜子が補足する。


「16位だよ」


 茉莉花が容赦なく否定する。


「だとしても無理だって。初めてのバイクで実技試験は通らないでしょ。練習しないと」


 否定的であっても結城を話題にしてくれるのは桜子にはもちろん嬉しい事であるが、バイクについてはよくわからないし、本人に訊けば済む話である。


「それは今度、訊いとくよ」


 それよりも今は大輝への興味が大きかった。そこから逸れてしまった事に気付いて、桜子は話題を戻した。


「そんな事より大輝くんはまた野宿?」


 雅は答えた。


「あ、今年はね。観光ホテルで住み込みバイトだって」


「へー」


「夏休みは観光客が増えて忙しいから募集も多いみたいよ」


「でもそれだとなかなか会えないんじゃない?」


「昼間の仕事だから夜は時間があるみたい。もちろん休みの日もあるし」


 茉莉花が茶々を入れる。


「あらいやだ。夜遊びですって。不良よ、この子」


 それを無視して雅は嬉しそうに言った。


「バイクだからすぐに会いにこれるってさ。あたしのためにわざわざ長野まで来てる人を放ってはおけないじゃない?ホント困るわ」


 茉莉花はニヤついた。


「困ってるようには見えないんだが」


「困ってるわよ。今まで夜にやってた家事を昼間にやらなきゃならないもん。夏休みだから問題ないけど」


「問題ないなら困ってないじゃん」


 茉莉花の漫才よりも雅の恋に興味津々の桜子は、さらに訊いた。


「びんずる行くの?大輝くんと一緒に」


 雅が答える。


「ああ、それ?わかんない。長野びんずるって毎年第一土曜日なのよね。土曜日ってホテルはきっと忙しいでしょ?どうなるかな?」


「行けるといいね」


「うん…」


 はにかんで頷く雅は完全に恋する乙女だった。こんな顔の雅を桜子は見たことがなかった。だから、つい出来もしない事を言ってしまった。


「その日に大輝くんが休めるように、代わりにわたしが入ろうかな」


 雅が笑う。


「ホテル側が認めないでしょ?きっと。それに結城くんとは行かないの?びんずるさん」


「行きたいけど、誘われてないし」


「いや、つき合ってるんだから、あなたから誘いなさいよ」


「えー?恥ずかしい」


「何が恥ずかしいのよ。お祭り一緒に行くだけでしょ?」


「だって長野市内のカップルはイチャつくためにびんずるに行くんでしょ?誘ったら、わたしからイチャつきたいって言ってるみたいじゃない」


 茉莉花を見る雅。


「茉莉花でしょ。変なこと教えたの」


 とぼける茉莉花。


「なんの事かな?」


 雅は桜子に言った。


「あのね、桜子。茉莉花の言った事なんて気にしなくていいから。男女が並んで踊りを見物したりタコ焼を食べたりしてるだけなのに、茉莉花みたいに男を誘う勇気もない人にはイチャついてるように見えるのよ」


 渋い顔をする茉莉花。


「なんだ?わたし今ケンカを売られたか?」


 雅が不敵に笑う。


「やあねぇ。マンチカンが誘ってくれないからってイライラしないでよ」


「なっ。アイツに誘われたって行くわけないでしょ?」


 それをスルーして雅は桜子に訊いた。


「そういえば、桜子は浴衣とかある?」


 桜子はかぶりを振った。


「無いよ。て言うか、たぶん着たことない」


「あ、そう。じゃあ仕方ないか」


 茉莉花が割り込む。


「仕方なくなんかない!買いに行くよ。我らがノンキボーテに。あそこなら安いから雅も文句ないでしょ?」


 雅が頷く。


「あ、まあ、そうね。せっかくのお祭りだもんね。結城くんに可愛いところ見せなきゃね」


 照れる桜子。


「いいの?まだ行くって決まってないよ?」


 茉莉花が胸を張る。


「いいの、いいの。びんずる行けなかったとしても、まだ花火大会とかあるし」


 そこで茉莉花のテンションが上がった。


「あ、ね。ついでに水着も見ようよ。水着。海行くでしょ?あ、プールもいいなぁ。松代まつしろの方なら学校の子たちにも会わなそうだし」


 雅はあきれた。


「遊ぶ気まんまんね」


「夏に遊ばなくてどうするのよ」


「夏は仕事も忙しくなりそうな気がするけどね」


「フラグ立てるのやめろぉ」


 夏休みはまだ始まったばかりだった。


次回「その8 バンガローにて」は11/15(金)に投稿する予定です。

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