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霊能力美少女の家 ―逝かせてあげる♡―  作者: 如月るん
第四話 幽霊の住む家
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その9 近所の面白おにいさん

 楢崎夫人が全員の前に紅茶と手作りクッキーを並べる。雅はそれを手伝った。

 全員が神田と耕平の周りに集まって座っていた。楢崎夫人と雅も席につくと、茉莉花が口を開いた。


「なんで結婚て事になんのよ」


 神田が照れ笑いして答えた。


「上手くいった方が良かったんじゃないの?」


「いや、だってこんな引きこもり男子…」


「ちょっと!あたしのダーリンを悪く言わないでくれる?」


「本気なの?」


「本気よ」


「だって、こんな短い時間の漫才を見せられたって、結婚に至る要素が見当たんないもん」


「あたしたちには時間が無いからね。短い時間にギュッと詰まってるのよ」


「う~ん。納得できない」


「だから『ガキ』なのよ」


「…………」


 茉莉花の仏頂面に神田は吹き出した。


「あはっ。種明かしをするとね、ここへ来る前に時間があったから、マンチカンに頼んで農家の奥さんたちに話を聞きに行ったのよ。少しでもお見合い相手の事を知りたくてね」


 それには耕平も驚いた。


「そうなの?」


 神田は耕平を見て優しく微笑んだ。


「ごめんね。でも実を言うと、それで気持ちがかなり結婚に傾いてたのよね」


 茉莉花が怪訝な顔をする。


「わたしたちも聞きに行ったけど、紫織ちゃんにフラれた不甲斐ない話でしょ?どこに惹かれる要素があんの?」


 耕平は情けない顔をしたが、神田は笑顔で答えた。


「あるわよ、たくさん。聞きながら、ずっとキュンキュンしっぱなしよ」


 茉莉花が首を傾げる。


「そうかなあ」


「ボランティアの彼女の事だけじゃないわ。まず奥さんたちとコミュニケーションを取ってるところから、人と関わろうとしてて健気じゃない?」


「それは奥さんたちのお陰じゃん」


「もちろん切っ掛けはそうかもしれないけど、そこで外へ出る決心をして、地域の人たちと交流して、その地域の人たちにあんなに好かれてる。凄い事よ」


「そんなに凄い事かなぁ」


「凄い事よ。人に裏切られて社会に裏切られて大きく傷ついた人にとっては…」


 そこで神田は自分の失言に気づいた。


「あ…」


 神田は気まずそうに耕平を見た。耕平は苦笑いした。


「そんな話も聞いたんだ」


「ごめん…」


「別に大丈夫。僕が自分で明乃さんたちに話した事だもん。情けないよな。典型的な競争社会の負け組だからね」


「情けなくなんかない。営業ウーマンだったあたしが言うのもなんだけど、競争を煽ってそれについてこれない人は負け組だなんて、そんな社会がどうかしてるのよ」


 代わりに憤慨してくれる神田に、耕平は微笑んだ。


「ありがとう。でも引きこもる前の昔話だよ」


「そう思ってるならいいんだけど。奥さんたち言ってた。耕平くんは人と競ったり争ったりするのが苦手なんだって」


「苦手っていうか、嫌いなんだ。なんか人の不幸を自分の糧にしてるみたいで。だからみんなで幸せになろうと頑張ってるこの地域の人たちは素敵だなって思うんだ」


「そういうふうに考える耕平くん、好きよ」


 赤くなる耕平。言った神田自身も少し照れて、話す対象を茉莉花へ戻した。


「奥さんたちに、この家での話やボランティアの彼女の話や地域の人たちとの交流の話なんかを聞きながらキュンキュンが止まらなくて、ものすごく楽しみにしてきたの、ここへ。そしたらなんと、見た目もあたしの好みじゃない?」


 茉莉花が鼻で笑う。


「えっ?ウソでしょ?こんな…」


「おい、やめとけって」


 マンチカンが茉莉花の言葉を遮る。

 神田はマンチカンの方をチラリと見て鼻で笑い返した。


「あたし、イケメンかもしれないけど女にがっついてる感じがするマンチカンみたいな男は好きになれないのよ」


「オレ止めたのにディスられた…」


 マンチカンはうなだれた。

 神田は続けた。


「正直なこと言うと、ここへ来て、彼の不器用さ加減を見ながら最初からずっとキュンキュンしてたのよね。で、最後の質問。最初にキスをするのはどこって聞いてデートスポットを発想してくれる人と結婚したいって昔から思ってたの。あたしにとってはデートから、もっと言えば待ち合わせからが前戯だもん」


 大きく頷く茉莉花。


「激しく同意」


 桜子が茉莉花に訊ねる。


「ゼンギってなあに?」


 吹き出す面々。答える茉莉花。


「あっち向いてホイの前のジャンケンよ」


「へー」


 ツッコミを入れるマンチカン。


「よしなさいって」


 それを無視して茉莉花は真面目な顔を耕平へ向けた。


「これで満足よね。ゴッコどころかホントに主役じゃない。この上ないでしょ?」


 耕平はゆっくり頷いた。


「そうだね。彼女を連れてきてくれて感謝してる」


「でしょ?大丈夫よ。二人一緒に逝かせてあげるから。神田さんもいいわね」


 神田も頷く。


「ええ」


 茉莉花は、そろそろ眠そうな目をしている桜子の肩に手を置いて言った。


「じゃあ送ってあげて。二人を」


 桜子は目を擦って立ち上がった。



 神田と耕平を並んで立たせ、その前に桜子が立っている。桜子はおごそかに言った。


「本日は牧師が不在なため、わたくし巫女が代わりを務めさせていただきます」


 後ろで茉莉花が小さく吹き出した。雅が肘でつつく。

 桜子は続けた。


「新郎、宇須井耕平さん。あなたは新婦、神田…………」


 桜子が小声で「名前は?」と訊くと、神田は笑いながら「綾音あやね」と答えた。

 桜子は続けた。


「新婦、神田綾音さんを妻とし、病める時も健やかなる時も…」


 茉莉花が笑いながら小声でツッコミを入れる。


「もう死んでるって…」


 雅がさっきより強く肘でつつく。

 桜子は続けた。


「悲しみの時も喜びの時も、貧しき時も富める時も…」


 茉莉花が調子にのる。


「無一文だけどね」


 雅が茉莉花の脇腹を拳で小突いた。


 桜子は続けた。


「死がふたりを分かつまで…………死んだあとも、愛し続ける事を誓いますか?」


 耕平は大きく頷いた。


「誓います」


 桜子は続けた。


「新婦、神田綾音さん。あなたは新郎、宇須井耕平さんを夫とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しき時も富める時も、死んだあとも、愛し続ける事を誓いますか?」


 神田は大きく頷いた。


「誓います」


 桜子は静かに言った。


「では誓いのキスを…」


 神田と耕平は少し見つめあったあと、照れながらキスをした。目の前の光景に桜子は両手で顔を覆い、大きく開いた指の隙間からキスシーンをガン見していた。

 二人が離れると桜子は姿勢を戻し、両手を大きく広げて高らかに告げた。


「祝福を!!」


 みんなの拍手が響いた。桜子は二人に近づいて言った。


「送ってあげるから抱き合って」


 促されて神田と耕平は恥ずかしそうに抱き合った。そこにそっと張りつくと、桜子は言った。


「結婚おめでとう。逝かせてあげる♡」


 桜子は目をつぶった。すると神田と耕平の姿が光り始めた。

 耕平が声を漏らした。


「ああっ、綾音さん…」


 神田も声が漏れた。


「こ…耕平くんっ…」


「あ…綾音さんっ……もう逝きそう…」


「逝こ……一緒に逝こ…耕平くん……」


 そして二人の声が揃った。


「逝く……!」


 神田と耕平の姿がひときわ明るく輝いた。二人は恍惚とした顔を近づけてお互いの耳元で何か囁きあっている。そして更に強く抱き合うと、光がおさまるのと同時にスッと消えた。

 桜子は懐から数珠を出し、目を閉じて手を合わせた。それからゆっくり目を開けると微笑んで言った。


「逝っちゃった…」


 みんなは笑顔で頷きあった。そこには少しの寂しさを含んだ優しい空気が漂っていた。

 茉莉花は桜子と雅に言った。


「帰ろ、家に。明日は学校よ」


 桜子と雅は頷いた。





 授業が終わって部室へ行くと、マンチカンがコーヒーを飲みながら待っていた。茉莉花はうっとうしそうに大きく溜め息をついて言った。


「ここも段々と居心地が悪くなってきたわね」


 苦笑いする雅。


「じゃあ、愛好会の部室使用の権利、放棄する?」


「絶対いや。男が寄りつかんモスキート音とか無いもんかのー」


 それに対してマンチカンは自分の鞄に手を突っ込みながら言った。


「そう言うなって。早い方がいいと思ってサンドリヨンの支払いの残金、持ってきたぞ」


 マンチカンが封筒を差し出す。


「あら、あんがと」


 それを受け取るために茉莉花が手を伸ばすと、慌てて雅が横からかっさらった。

 膨れる茉莉花。


「ちょっとぐらい持たせてよぉ。わたしだって働いたのに」


 雅は封筒を鞄にしまいながら言った。


「イヤよ。結局はこっちへ返すはめになるのに返せだの返さないだのの一連のやり取り、面倒くさい」


「雅ちゃん、冷た~い。もっと会話のキャッチボール、楽しもうよ」


「キャッチボールと思ってるなら暴投はしないでほしいんだけど」


「暴投なんてしてないてば」


 そこでドアがノックされ、雅が「どうぞ」と言うと颯空が入ってきた。

 茉莉花は舌打ちした。


「また男だ。まったく男臭いったら…」


 入ってきた颯空はマンチカンに気づき、ビクリと後ずさった。


「だ、だれ?」


 茉莉花は悪い顔で答えた。


「不法侵入者よ」


 雅は大きく手をひらひらさせた。


「違う違う。そんな物騒な人じゃないわ。ただの近所の面白おにいさんよ」


 コーヒーを飲んでいたマンチカンはむせて咳き込んだ。


「ゴホッゴホッ…雅までなに言ってるんだよ」


 マンチカンは颯空に向かって訂正した。


「心霊研究会の相談役の僧侶です」


 そして茉莉花に訊ねた。


「このお嬢さんは?新人さん?」


 颯空は元気よく右手をあげた。


「はいっ。北山颯空ですっっ」


 当然、茉莉花は否定する。


「ちゃうちゃう。新人でもなきゃお嬢さんでもない。男、男」


 ポカンと颯空を見つめるマンチカン。

 わざとらしく顔に手を当てる颯空。


「ボクって可愛いから気持ちはわかるけど、そんなに見つめちゃ恥ずかしいですぅ」


 ハッと我に返るマンチカン。


「えっと…こちらのお嬢さんは?」


 茉莉花の眉間に深いシワが入り、険しい顔になった。


「だから男だっつってんだよ、クソ坊主」


「え…と、どっち?生まれは男?女?心は…」


「生まれも心も男だよ!ただの女装男子だってば」


 可愛いポーズで訂正する颯空。


「男の娘、ね♪」


 情けない顔で反復するマンチカン。


「オトコノコ…?」


 頭にクエスチョンマークをつけたまま、マンチカンはゆっくりと雅を見た。雅は苦笑いしたまま二回頷いた。

 マンチカンは茉莉花に訊ねた。


「なに?神田の代わりに雇うの?」


 マンチカンに冷ややかな視線を送る茉莉花。


「ばっかじゃない?やっとうるさいのがいなくなってせいせいしてんのに」


 雅が颯空の前にもコーヒーを置いてから言った。


「そんなにうるさくもなかったじゃない。あたしは彼女がいなくなってちょっぴり寂しいけど」


 桜子も同意する。


「わたしもー」


 茉莉花は溜め息をついた。


「いや、そも神田は少女じゃないから美少女の家には似つかわしくないのよ」


 桜子が寂しそうな顔をした。


「でも、誰かが家で待ってるって嬉しかったんだけどなぁ」


「……まあ、そうね」


 茉莉花は桜子に優しく微笑んだ。



第四話 幽霊の住む家

――終わり――


次回からは「第五話 家族の残照」が始まります。

「その1 デパ地下とうらら系」は一週間後の9/24(火)に投稿する予定です。

9/20(金)にはおまけの話を投稿する予定です。

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