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霊能力美少女の家 ―逝かせてあげる♡―  作者: 如月るん
第四話 幽霊の住む家
26/96

その2 なんて恥ずかしい顔

 リビングでお菓子を食べながらアイスコーヒーを飲む茉莉花と雅と神田。

 茉莉花は天井を見上げてボソッと言った。


「おりてこないね、桜子」


 雅が答える。


「うん。訊いたんだけど、アイスコーヒーいらないって。出かけるからお昼もいらないって言ってたよ」


「出かける?どこへ?」


「知らないわよ。欲しいものがあるみたいよ」


「なんだ。言ってくれれば付き合うのに」


「茉莉花は行きたいとこ無いの?」


 茉莉花だけルームウエアのまま、ソファに身を預けてお菓子をかじりながら答えた。


「んー、べつに無いなー」


「お日様の元で遊びたいんじゃなかったの?晴れたわよ、今日」


「いやよ。紫外線、強そうじゃない」


 苦笑いする雅。


「安心したわ、茉莉花のままで。昨日はお日様の元で遊びたいとか言い出すから、どこのアオハルヒロインかと思って怖くなったわよ」


「わたし、ディスられてんのかな?」


「やぁね。面白がってるけど、ディスってはいないわ」


「おーい。なんのフォローにもなってないぞー」


 聞いていた神田がクスクスと笑った。そして、しみじみ言った。


「仲がいいのね」


 茉莉花がアクビをしてから言った。


「二十代のくせに、何をおばちゃんみたくタソガレてんのよ」


 膨れる神田。


「おばちゃんって、ひどくない?」


「違うわよ。そんなに若くてキレーなのに、おばちゃんみたいな発言は似合わないって言ってんの」


「あ、あらそーお?」


 機嫌が良くなった神田を見て茉莉花が一言。


「ちょろ」


 機嫌が悪くなった神田。


「ちょろって言ったあ!今、ちょろって!」


 舌を出す茉莉花。

 そこへ桜子が顔を出した。本当に文字通りリビングの出入り口から顔だけである。


「ね~え、雅ちゃ~ん。ちょっとお願~い」


 雅は立ってリビングを出ていった。

 しばらくして戻ってきた雅に、茉莉花は訊いた。


「桜子、なに?」


 座りながら雅は答えた。


「ああ。髪の毛、頼まれた」


「で?桜子は?」


「もう出かけたわよ。すっごいおめかししてた」


「買い物に行ったのよね」


「…て言ってたけど、あの気合いの入れようは男かもね」


「ぷっ!」


 茉莉花が腹を抱えて笑い出した。大爆笑である。


「おとこ?あの子が男?雅、あんた正気?」


「わかんないじゃない。可愛いわよ、桜子」


「かわいいけどさ」


「あのなんとかいう二年生にだって狙われてたでしょ?」


「まさか、あいつにちょっかい出されてるんじゃないでしょうね」


「それは無い無い」


「なんでわかんのよ」


「あのあとどうなったか彼のSNSで確認したけど、ビビってたわよ」


「そりゃ、生き霊と呪いのハイブリッドじゃビビるわ」


「違うわよ。ビビってたのは茉莉花に対してよ。もうあたしたちには近づくのやめたって」


「あ、あーそー。思うつぼだけど、なんか腹立たしいのはなぜかしら」


 拳を握る茉莉花を見て雅は笑った。





 通行人の邪魔にならないよう桜子は新幹線改札口から少し離れて待っていたが、結城の姿が見えた瞬間からそわそわし始めた。

 まもなく結城も桜子に気付き、笑顔で手を振った。桜子は気持ちを抑えて小さく手を振り返した。

 改札を通過する結城。かかとを上げ下げしながら心を引き止める桜子。

 結城は改札を出て桜子の方へまっすぐに二歩、三歩、四歩。耐えかねて桜子は走り出した。

 なんのためらいもなく桜子は結城に抱きついた。勢いをぐっと受け止める結城。

 桜子は結城の胸に顔をうずめて震える声で囁いた。


「おかえり…」


 結城は片手に荷物をさげたまま、両腕を桜子の背中にそっと回した。


「ただいま」


 桜子はその姿勢のまま結城の顔を見上げて訊いた。


「体…大丈夫なの?」


 優しく見おろす結城。


「ごめんね。もうすっかり治ったから心配ないよ」


「よかった…」


 再び顔をうずめる桜子。つぶった目から涙がこぼれる。

 しばらくそのままいたが、通行人の咳払いに桜子は我に返った。


「あっ…」


 パッと離れて赤くなる桜子。目を逸らす。


「ご、ごめん…」


 左右を見ながら結城。


「場所を変えようか」


「…うん」


 ごく自然に差し出された結城の手を桜子は恥ずかしそうにそっと握った。



 駅ビルの中の喫茶店に向い合わせで座る桜子と結城。店員に注文を訊かれている。

 結城はテーブルの上に広げたメニューを見ながら桜子に言った。


「ボクお昼まだなんだ。食べていい?」


 桜子も食べていない。


「あ、わたしも…」


 結城は店員を見上げた。


「じゃあ、ボクはナポリタン大盛とアイスレモンティー」


 メニューに見入る桜子に優しい笑顔を向ける結城。それに気付いて慌てる桜子。


「あ、じゃあ、じゃあ、エビピラフとコーヒー、ホットで」


 注文を繰り返してから店員は去っていった。

 今日の結城は注目を集めていなかった。なぜならば眼帯も包帯も無く、Tシャツとジーパンにジャケットというシンプルな服装だったからだ。

 桜子は言った。


「今日は普通だね」


 結城はキョトンとしている。


「なにが?」


「なにがって…」


 それから桜子は辺りを見渡した。こちらに過剰反応をしている人は見当たらない。

 桜子は再び結城の姿を見て言った。


「わたしたちって、どう見えてるんだろ」


 結城が訊き返す。


「どうって?」


「えっと……わたしたちの関係?」


「ははっ。そんなの彼氏と彼女に決まってるじゃないか」


「そ、そうかな…」


「だって事実だろ?」


 桜子は赤くなった。


「そうだよね……そうなんだよね…」


「変なヤツだな。でも、そういうところも可愛いくて好きだよ」


 桜子はさらに赤くなった。結城はこういう事をさらりと言う。その攻撃に桜子は自分が耐えられるとは思えなかったが、その悦びから逃げる事もできない。

 桜子は自分が挙動不審になっている事を自覚しながら、話題を変えた。


「じ、事故って言ってたけど、何があったの?」


 結城はあっけらかんと答えた。


「ああ、ただの交通事故だよ。大したことないから」


「入院してるんだから、大したことあるよね」


「十日ぐらいの入院だったけど、骨を折ったわけでもないし、手術したわけでもない。何針か縫ったんだけど、普通に生活するとよく動いて開いちゃうような所だから安静にしてただけ。ある程度くっついちゃえば問題ないし、上げ膳据え膳で身のまわりの世話もしてもらえて、かえって楽だった」


「そう。それならいいんだけど…」


「ホントにごめんな。連絡したかったんだけど、連絡先が壊れたスマホの中に入れっぱなしでさ。よくわかんないんだけど、説明書を見ながら新しいスマホを設定してたら連絡先が戻ってきたから連絡できたんだ。ホッとしたよ」


「へえ。スマホって凄いね」


「そうだね」


「でもスマホが無かったんならヒマだったんじゃない?」


「そんなことないよ。授業も受けられないし、来週の火曜日から期末テストだろ?むしろ勉強がはかどって良かったよ」


「え?来週からテスト?」


「のはずだけど…」


「全然勉強してない…」


「えっ、ホントに?」


 青ざめて頷く桜子。

 結城は優しく微笑んで言った。


「注文したものが来たらゆっくりご飯を食べて、そしたら今日は解散にしよう。帰って勉強しなよ」


「でも…」


「ボクも長く休んで不安だし、帰って勉強するよ」


「だけど、やっと会えたのに…」


「テストが終わったら、またいくらでもデートできるよ。梅雨だって多分もうすぐ明けるし、今度こそお日様の元で遊ぼう」


「…うん」


「きょう来てくれたのは凄く嬉しかったよ。好きな人とご飯を一緒に食べられるだけでボクは幸せだよ」


「うん…………」


 今日の結城の整った顔は眼帯で隠れていない。その甘い笑顔で「好きな人」などと言われて桜子は舞い上がった。注文したものが届くまでのあいだ、桜子の視線は結城の顔に捕らわれ続けた。





 桜子はリビングのソファに座らされていた。隣には茉莉花がぴったりと張りついている。

 桜子は茉莉花の方をチラリと見て訊いた。


「どうしたの?茉莉花ちゃん。お仕事の話?」


 茉莉花はさらに体を寄せて、逆に訊き返した。


「桜子。今日はどこ行ってたの?」


 桜子は視線を逸らした。


「あ、えと…お買い物」


「何を買ったの?」


「え…と、ノートが欲しかったんだけど、いいのが無くて買わなかった。ホントよ」


「そう。駅ビルの東流サンズにもいいの無かった?」


「え、あ、え?」


 そこへ雅がアイスコーヒーを運んできて並べながら言った。


「やめなさいよ、茉莉花。自分の想像が外れたからって」


 茉莉花は雅に噛みついた。


「そんなつもりじゃないわよ。わたしは桜子が心配なだけ」


 雅は座りながら言った。


「いや、絶対に怒ってるでしょ」


「怒ってないよ」


 傍観していた神田がアイスコーヒーを一口飲んでから言った。


「だったらストレートに訊けばいいんじゃないの?」


 神田の正論さに茉莉花は舌打ちをして言った。


「わかったわよ」


 茉莉花はあらためて桜子に向きなおって口を開いた。


「あのね、えーと……つまりね、あれよ。そう、えーとね……」


 雅が割り込んだ。


「桜子。今日、結城くんと会ってた?」


 桜子は目と口を大きく開けて固まった。それを見て、雅は笑顔で言った。


「会ってたのね?」


 桜子は目と口を開けたまま、コクリと頷いた。

 茉莉花も目と口を大きく開けて桜子を問い詰めた。


「なんで?どうしてそうなるの?」


 桜子は情けない顔になった。


「あの、その、あの…」


 茉莉花も情けない顔になった。


「アイツに弱みでも握られてんの?色々と上手いこと言われて惑わされてんじゃないの?なんか変なことされてない?」


 雅が立ち上がった。


「ストップ!ストーップ!」


 茉莉花と桜子の情けない顔が同時に雅へ向けられた。二つ並んだ情けない顔に苦笑いしながら雅は静かに言った。


「少し落ち着いて」


 雅は座り直して続けた。


「どう見てもあの写真は弱みを握られてるとか変なことされてるとかじゃないでしょ?まずは桜子に見せたら?」


「あ、はい…」


 茉莉花は素直に頷いて、スマホを取り出した。

 画面を開いて画像を表示する。駅の改札の前で桜子が結城と抱き合っている画像だ。

 一瞬にして桜子の血の気は引いた。頭の中は真っ白だった。

 茉莉花が画面をスワイプすると、今度は桜子が結城と手をつないで歩きだしているところだ。それをさらにスワイプすると、喫茶店の中で向かい合って座り、結城を見つめてうっとりしている桜子。

 それを桜子に見せながら、茉莉花が低く訊いた。


「これ、桜子よね」


 桜子は観念した。


「う…ん」


「明日香が駅で見かけて送ってきたのよ」


「……」


 明日香というのは茉莉花と雅の中等部時代からのクラスメイトである。

 茉莉花は一枚目の写真を見せて静かに訊いた。


「これ、抱き合ってるわよね?」


 桜子は小声で答えた。


「うん…」


「そういう仲ってこと?」


 桜子は急に早口になった。


「違うの。結城くん入院してて、連絡が無くて凄く心配で、やっと会えて思わず抱きついちゃっただけで、あんなのは初めてで、いつもしてるわけじゃないの」


「つまり連絡は取り合う仲なのね」


「あっ……それはそうなんだけど……結城くんと連絡を取り合えば、よりスマホを使い慣れる練習になると思ったの」


 そう思ったのは嘘ではない。

 茉莉花は二枚目の写真を見せて訊いた。


「これ、手をつないでるわよね?」


「うん…」


「なにも無い男女が手をつないで歩かないわよね」


「違うの。わたしがすぐに道に迷うからつないでくれるの」


「なんか、いつもそうしてるみたいな口ぶりね」


「いつもじゃなくて、まだ三回目だよ」


 茉莉花の声が冷ややかになった。


「ふ~ん。知らないあいだに、そんな何回も会ってたんだ」


「……」


 下を向く桜子。神田が小さく「茉莉花こわっ」と呟いた。

 茉莉花はさらに問い詰める。


「いつからなの?」


「えっ?」


「正直に言って」


「えーと…ショッピングモールへ行った日に道に迷って結城くんに連れて帰ってもらった話はしたでしょ?」


 茉莉花が桜子から聞いていたのは、結城が責任を感じて桜子をショッピングモールまで連れ帰ったという話だけだった。逃げた時の状況はセバスチャンにも聞いている。


「あの時からか!」


「う、うん」


「だって迷った元凶でしょ?どうしてそうなんの?」


「結城くん、優しかったから…」


「なにホダされてんのよ。とんだマッチポンプじゃないの」


「でも謝ってくれたよ。追いかけて悪かったって」


「そんで仲よくなって何回も逢い引きしてんの?」


 照れる桜子。


「やだなぁ。逢い引きとか、そんな大人な感じじゃなくて、お茶したりおしゃべりしたりするだけよ」


「おしゃべりって、何しゃべんのよ。アイツ中二病だよ」


「知ってる。でも憎めないというか、そこが可愛いというか…」


「もうダメだ。頭お花畑なこと言い出してる」


「ひどいなぁ、茉莉花ちゃん」


「ねぇ、好きなの?アイツのこと好きなの?」


 目が泳ぐ桜子。


「す、好きとかそういうんじゃなくて…」


 茉莉花は三枚目の写真を見せて訊いた。


「これ、見つめてるわよね?」


「う、うん」


「この顔、ぜったい恋してんじゃない。うっとりしちゃってんじゃない」


「違うの。それはきっと写真の加減でそう見えるだけなの」


「解像度たかいわよ。めっちゃくっきりよ。明日香グッジョブよ」


 茉莉花は桜子のだらしない顔を画面いっぱいに広げた。桜子は画面を両手で覆った。


「やめてぇ~っ。恥ずかしい~。こんなのわたしの顔じゃない~」


 茉莉花はスマホの画面を桜子に押しつけた。


「よく見なさい。これが桜子のホントの顔よ。なんて恥ずかしい顔なの?」


「あぅ~…」


 見かねて雅が茉莉花のスマホを奪い取った。


「やめなさいって。悪趣味よ」


 スマホを奪い返そうと手を伸ばす茉莉花。


「いいじゃない。裏切られたお返しよ」


 茉莉花の手からスマホを遠ざける雅。


「別に裏切ったわけじゃないでしょ?恋愛は自由なんだから」


 茉莉花は奪い返すのを諦めた。


「違うでしょ?アイツ、わたしたちの仕事にケチつけてんのよ。敵じゃない」


「それは…まあ、そうだけど」


「桜子にも仕事やめろとか言うんじゃない?」


 桜子は慌てて否定した。


「それは無いよ。お仕事のことは言ってないから。アルバイトしてるってしか」


 雅が冷静に返す。


「ずっと隠し通すのなんて無理じゃないかしら。このまま彼と仲よくするつもりなら」


 ドヤ顔の桜子。


「でも今のところバレてないよ?訊かれることも無いし」


「そうじゃなくて、何かのはずみで桜子がペロッとしゃべっちゃいそうだもん」


「しゃべらないよ。信用ないな」


 膨れる桜子に雅は苦笑いした。


「あら、それはごめんなさい。このまえ桜子のペロッとを見た気がしたんだけど、あたしの勘違いね、きっと」


「…………?」


 東京からの帰りの車の中で、桜子が「彼氏には会えたの?」と雅に質問した件である。桜子はもう忘れている。

 雅は事務的に言った。


「でも万がいちバレてやめろみたいな事を言われたら、すぐにあたしたちに言うこと。いい?」


「うん」


 雅は茉莉花にスマホを返しながら言った。


「茉莉花もそれでいい?」


 茉莉花は渋い顔でスマホを受け取った。


「いいけど…」


「あと、別に賛成はしなくてもいいから、桜子が彼と交流を持つのは黙認すること」


「それは!アイツ、桜子に変なことしそうじゃん」


 桜子は両手と首を激しく横に振った。


「しない、しない。ホントにお話するぐらいだもん」


 茉莉花はふてくされた。


「アイツとの事は逐一報告しなさいよ」


 高校生の恋愛ごときに口出しする気は無かった神田だったが、苦笑いしながら思わずツッコミを入れた。


「よしなさいって…」


 茉莉花はまさか桜子が報告なんてしてくれるはずないと思った上で言っているし、雅もそう思っていた。けれども桜子はバカが付くほど素直である。恥ずかしさはあったものの、茉莉花を安心させるために、ある程度は報告する気になっていた。


次回「その3 事故物件」は8/27(火)に投稿する予定です。

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