表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/96

おまけ 長野の方言についての会話

 雅が茉莉花に言った。


「明日、午前中から洗濯機を回すから、洗濯物ぜんぶ出しといてね」


 茉莉花が気の抜けた声で答える。


「もう出したよぉ」


「ウソつかない。体操着が出てないよ」


「あれ?そうだった?」


「まさか学校に忘れてきてないわよね」


「持って帰ってきてるよ」


「ならいいんだけど」


 窓の方へ首を向ける茉莉花。


「でも明日、雨だってよ」


「だから何?ランドリールームに干すから問題なし。梅雨の時期に晴れなんて待ってたら洗濯がはかどらないでしょ?」


「まあねぇ」


「それより、他にも出してないのあったら出しておいてよね」


「ぜんぶ出してると思うけどなぁ」


「数が合わないから言ってるの」


「数え間違いじゃないの?」


「あーもう。明日の朝は茉莉花の部屋の家宅捜索ね」


「お手柔らかに」


「お手柔らかくなんてするわけないでしょ?」


「休みの日なのに、張り切るね」


「そうよ。わたしのずくを、ずく無しの茉莉花に見せつけてやるのよ」


「ずく無し言うな」


 そこで桜子が会話に加わった。


「ねえ、ずくって何?」


 茉莉花が笑う。


「そっか。ずくって長野の方言だもんね」


「方言?でも雅ちゃんも使ってたよね」


 雅も笑う。


「長野に二年近くいるからね。それに『ずく』に代わる標準語が無いのよね」


 茉莉花が同意する。


「そうなのよ。まあ言い換えると『やる気』とかなんだろうけど、なんかニュアンスが違うのよ」


「そうそう。もっと根気強くとか、労を惜しまずとか、やり尽くすとか、そんな強いニュアンスの込められた言葉なのよね。便利な言葉なので、あたしもつい使っちゃってる」


 桜子が頷く。


「ずくね。一つ覚えた。――他にはどんな方言があるの?」


 茉莉花が首を傾げる。


「方言か。パッと出てこないなぁ。若い世代は標準語を使うからね。――するしない……とか?」


 雅が頷く。


「使う人、いるね。コンビニ行くしない?……みたいに」


 桜子が質問する。


「どういう意味?」


 茉莉花が答える。


「コンビニ行かない?とかコンビニ行こうよって意味。でも他県の人に、するの?しないの?どっちなの?って訊かれる」


 雅が笑う。


「するしないは北信の方言よね」


「そうみたいね。正直、どれが北信で、どれが全県とか、わかんないけど」


「方言って思わないで使ってるのもあるでしょ。なからとか、べちゃるとか」


「えー知ってるよぉ」


「それはあたしが言ったからじゃない。最初はあたしが訊き返して、それで方言って気付いてたでしょ?」


「そうだっけ」


 桜子が質問する。


「なからとか、べちゃるってなに?」


 雅が説明する。


「なからはおおよそとかだいたいみたいな意味。掃除はなから終わったよ、みたいに使うの。べちゃるは捨てるって意味。この魚の骨べちゃっといて、みたいな使い方」


「ふうん」


「あと、わにるとか。はにかむとか照れるって意味」


 茉莉花が笑う。


「知ってるけど、あんま使わなくない?」


「北信じゃないのかな」


「世代の問題じゃない?親世代とかは使ってるイメージ?」


「あ、そうなんだ」


「他は思いつかないかな」


「そう?まだあるでしょ」


「たとえば?」


「裏の空き地に新しい家がたたった、とか」


「あ、そっか。たたったって方言だっけ」


「車は店のまえでに停めてください、とか」


「え?うそ。まえでって言わない?」


「少なくとも、あたしは」


「方言だったんだ。ちょっとショック」


 雅は舌をベッと出し、それを指さして言った。


「へら」


「え?へらも方言?」


「舌をべろとは言うけど、へらは長野で初めて聞いた」


「マジ?」


「あと、おべちゃ」


「あはっ。お風呂のことね。亡くなったおばあちゃんがよく言ってた」


「あと、水くれ当番」


「ん?どこが方言?」


「標準語だと、植物に水をあげるとは言うけど、水をくれるとは言わない」


「うそだ。言うよ。この金はお前にくれてやる、とか言うじゃん」


「意味が違うのよ。金をお前にほどこしてやるとか、恵んでやるとか、嫌々だけど譲ってやるとか、あまりいい意味では使われないのよ。放り投げるような乱暴なイメージ?だから長野のつもりで他県の人にこれくれるとか言うと、悪く受け取られるかもしれないよ」


「うわっ。気をつけよ」


「あとは、みぐさいとか?」


「それは方言だって知ってるよ」


「醜いとか見苦しいって意味よね。あたしもたまに使っちゃう。茉莉花の部屋は散らかっててみぐさい、とか」


「わかったわよ。片付けるわよ」


 茉莉花の情けない顔に、雅と桜子は笑った。



おまけ 長野の方言についての会話

――終わり――


次回「第四話 幽霊の住む家 その1 霊能力美少女の家」は8/20(火)に投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ