その7 生理周期とブラサイズ
心霊研究会の部室に入るなり茉莉花は机に突っ伏して、コーヒーを入れに立った雅を見ながら言った。
「なんか、ここにコーヒーを飲みに来てるだけみたい」
ここのところポストにはまともな依頼が入っていない。部室棟二階の一番奥という人が通らない場所である事も関係ありそうだ。
雅が答える。
「いいじゃない。授業のあと一休みできる場所があるのはありがたいことよ。放課後に動く場合には拠点にもなるし」
「そうだけどさ。中学の時はもっと依頼があったじゃない」
「――って言っても、ハズレだって多かったわよ。高額な仕事には結びつきにくかったし」
「まあねー」
「今なんてマンチカンがコンスタントに高額な依頼を持ってきてくれるようになったから、こっちが無くてもなんとかなってるじゃない。少しは感謝しなきゃ」
「わたしたちの実績の結果でしょ?マンチカンにはむしろ感謝されたいわ」
「また、そうやって…」
雅がコーヒーカップを丸いステンレストレーに並べているのを見て、桜子は訊いた。
「雅ちゃん。このまえ、そのお盆で防いでくれたよね。そんな事もできるんだね」
雅が笑顔で答える。
「ああ。百均で買った同じトレーだけど、あの時のはあたしの部屋にあるわよ。トレーを中心に結界の壁を作るよう細工がしてあって、盾にしてみたの」
「そうなんだぁ。なんかカッコいいね」
「ふふっ、ありがと」
そこへ、またしても颯空が現れた。
颯空を見たとたん、茉莉花が前と同じセリフを吐いた。
「何しに来た」
颯空は適当に座りながら前と同じセリフで答えた。
「やだなあ。心霊研究会の会員なんだから、来るの当たり前でしょ?」
「認めてない」
「だから、奈々子先生が認めたんだってば」
「だぁーかぁーらぁー!」
雅が後ろから茉莉花の両肩を軽く叩いた。
「どーどー」
茉莉花はハッキリわかるように舌打ちをした。
桜子は何だか颯空の顔を見られなかった。日下部の一回目の浄霊失敗を思い出す。もちろん颯空のせいなどではないのはわかっている。
颯空は真面目にこちらの質問に答えてくれた。理解を深めたいなどと偽って利用したのは、むしろ桜子の方なのだ。それで失敗して茉莉花に余計に悪印象を与えてしまった気がする。そんな後ろめたさで桜子は下を向いた。
雅は入れたコーヒーを茉莉花の前、自分の席、桜子の前に置き、桜子の頭をぽんぽんと軽く叩いた。それから颯空の前にもコーヒーを置いて言った。
「会長の茉莉花が認めない限りあたしたちもあなたを会員とは認められないけど、他にやりたい部活が無いならコーヒー飲みに来るぐらいはいいわよ」
茉莉花が顔を上げた。
「ちょっと!」
「いいじゃない。可愛いし」
「雅までなに言ってんの!?」
颯空がウルウルと雅を見上げた。
「雅ちゃん、大好きぃ~」
雅が微笑んだ。
「そのかわり、女の子だけの内緒話をしたい時は言うから、遠慮して席を外してくれるかしら?」
「ボク、恋バナなら好きだよ」
「違うわよ。例えば『生理周期』の話とか『ブラサイズ』の話とか、女の子には男の子に聞かれたくない話が色々あるから」
「あー、オーケー、オーケー。ボクも側でそんな話をされたら恥ずかしいから席を外すよ」
「ありがとう」
それから雅は茉莉花に向かって言った。
「これなら問題ないでしょ?会長」
茉莉花はコーヒーを啜ってから不服そうに言った。
「そんなに男が好きなのか。大輝くんはもうお払い箱か」
「なんてこと言うのよ」
ふてくされる茉莉花。
「もうっ。雅がそれでいいならいいわよ。勝手にして」
「うん」
それから雅は桜子にも訊いた。
「桜子もそれでいいでしょ?」
急に話をふられて、桜子はキョトンと顔を上げた。
「え?わたし?わたしはいいけど…」
喜ぶ颯空。
「わーい。ありがと、桜子ちゃん。これからもヨロシクね」
「う、うん…」
颯空は浄霊の事など何も知らずに屈託なく笑っている。茉莉花はあの時の話を持ち出す気配も無くスマホをいじっている。その様子を見て、桜子の気持ちは少しだけ軽くなった。
第三話 日下部くん
――終わり――
次回からは「第四話 幽霊の住む家」が始まります。
「その1 霊能力美少女の家」は一週間後の8/20(火)に投稿する予定です。
8/16(金)にはおまけの話を投稿する予定です。




