表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊能力美少女の家 ―逝かせてあげる♡―  作者: 如月るん
第二話 愛しのジョージ
12/96

その4 オフィスの恋

 いつもならセバスチャンが運転しているミニバンを、今日はマンチカンが運転している。後部座席には茉莉花と雅と桜子が、いつもよりも「よそいき」な格好で座っていた。


「セバスチャンは来ないの?」


 桜子の質問に茉莉花が答える。


「泊まりになるからね。セバスチャン本人は来てもいいって言ってくれたけど、休日出勤な上に泊まりの出張なんて、そうはさせらんないよ」


「ふうん。わたし、執事って24時間365日休み無しなんだと勝手に思ってた」


「そんなわけないじゃない。労働基準法だってあるんだから」


「でも茉莉花ちゃんの実家には普段いるんでしょ?」


「普段って言ったって、仕事が終われば帰るよ。自分ちに」


「自分ち!?通いなの?」


「うん。基本、土日は休みだし」


「あれ?このあいだ、買い物つきあってくれたじゃない」


「あん時はお願いして来てもらったのよ。車を出してほしくて」


「えっ、そうなの?なんか、わたしのために悪いなあ」


「大丈夫。こっちの都合で出勤してもらう時は、ちゃんと代休を取ってもらってるから」


「大切にしてるのね」


「まあ、得がたい人だしね」


「それに比べてマンチカンはコキ使うのね」


 運転しているマンチカンの方を気の毒そうに見る桜子に、茉莉花は反論する。


「人聞きの悪いこと言わないで。頼ってきてんのはマンチカンの方だから」


「前もそんなこと言ってたね」


「そもそもセバスチャンと違って雇ってるわけでもないしね。桜子が必要だって言うからこうして来てるけど、わたしたちへの依頼はそもそも現場での除霊や浄霊だけよ。そこまでのお膳立ては話を持ってくるマンチカンがやって当然じゃない?」


「あ、もしかしてわたしがマンチカンや茉莉花ちゃんたちの仕事を増やしてる?」


「マンチカンは桜子が浄霊師ってわかっててスカウトしてきたんだからいいのよ。わたしや雅は東京についでもあるし、気にしなくていいわ」


「ついで?」


「雅は実家が東京だし、わたしは会いたい知り合いがいるのよ」


「そっか」


 ミニバンは高速道路を東京へ向けて軽快に走った。





 今朝の長野市の空は雨模様だったのに、四人が待ち合わせの喫茶店に着いた時には新宿の空は晴れ渡っていた。


「今、午後2時30分か」


 スマホの時間を確認するマンチカンに茉莉花が訊いた。


「約束、何時なの?」


「3時だ」


 店員が飲み物を並べて立ち去ると四人はくつろいだ。


「あの車、乗り心地はいいんだけど、それでもずっと乗ってると疲れるわね」


 茉莉花が大きく伸びをした。

 マンチカンも伸びをする。


「運転してたオレの方が疲れたよ」


「だったら新幹線にすればよかったんじゃない?」


「ばか、いくらかかると思ってやがる。高速代とガソリン代と宿泊費でギリだよ」


「必要経費は別徴収じゃないの?」


「別徴収にしたとしてもムリだろ。依頼主にしたら東京行きなんて何が必要なのかわかんないし、四人分の新幹線代なんてこんなあやしいヤツらに笑って出せる額じゃない」


「あやしいとは何だ」


「一般的なイメージだよ。わかっとけよ、そのぐらい」


「なんだと、チカン野郎」


 そこに雅が割って入った。


「ごめん…。わたし来たの、余分だった?」


 茉莉花が訊き返した。


「え?どうして?」


「三人なら新幹線で来れたのかなって」


 申し訳なさそうな表情の雅に、マンチカンは慌てた。


「いやいや、三人でも車の方がぜんぜん安上がりだから」


「でも、新幹線なら運転疲れないよ」


「大丈夫、大丈夫。運転は好きだから」


「そう?でも桜子がいれば、わたしは必要ないのでは?」


 今度は茉莉花が慌てた。


「いる、いる。雅は絶対必要だから」


「ホントに?ついでに連れてきてくれただけじゃないの?」


「違う違う。なんていうか、冷静な人が一人は必要っていうか…」


「ならいいんだけど…」


「ごめんね、なんか新幹線とか余計なこと言っちゃって。ハハハ…」


 わざとらしく笑う茉莉花に合わせて、マンチカンも笑って言った。


「ホントだよ。余計なことを言いやがって。ハハハ…」


 茉莉花の笑いが引きつる。


「ハハハ。おまえ、あとで覚えとけよ。ハハハ…」


 花咲部長との面会前に、もめ事は望ましくない。茉莉花とマンチカンのそうなりかけた空気を結果的に鎮めたのが雅であることに、桜子はなんとなく気づいた。計算だったのかまではわからない。



 花咲は時間通りに店に入ってきた。席まで店員に案内されて来ると、少し驚いた顔をした。

 マンチカンと雅はすぐに立ち上がってお辞儀をする。それを見て桜子も慌てて立ち上がってお辞儀をした。茉莉花は立つ様子もなく、無表情で花咲の全身を舐めるように見ている。


 会社は休みだと聞いていたが、花咲はスーツを着ていた。

 部長という肩書きから茉莉花たちが想像していたのは五十過ぎのオジサンだったが、どう見ても三十代ぐらいである。

 センスのいいメガネとネクタイが目を引く。左手の薬指に指輪が光っていることから、既婚者らしいとわかる。


 マンチカンは顔を上げると笑顔で言った。


「お待ちしてました、花咲さん。わたしがお電話しました徳満です。狭くて申し訳ありませんが、どうぞお掛けください」


 花咲は空いている席に座った。


 飲み物などを注文して落ち着くと、マンチカンは話しだした。


「お呼び立てにお応えくださりありがとうございます。あらためまして、わたくし信州は鶴林山秀峰寺かくりんざんしゅうほうじにて僧侶をしております徳満智寛と申します」


 それからマンチカンは茉莉花たちを示して続けた。


「こちらは亡くなった方たちの供養を手伝ってもらっている学生さんたちです」


 雅と少し遅れて桜子は頭を下げた。茉莉花はストローでジュースをすすった。

 花咲は困惑した顔で口を開いた。


「花咲です。お電話の口調が丁寧だったので、もっと年齢のいっている方かと思ってました。何というか……お若い」


 マンチカンが丁寧に頭を下げる。


「失礼いたしました。僧侶としてはまだまだ駆け出しの未熟者です」


 茉莉花がユルい口調で付け足した。


「この人、まだ19歳ですよー」


「19歳?!」


 と、驚いた声を出したのは桜子だった。一瞬、全員が桜子を見たが、すぐにスルーした。

 マンチカンは更に笑顔を作って言った。


「こういった駆け回る業務は寺の中でも若い者の仕事なんです。お許しください」


 花咲は困惑した顔のまま答えた。


「いや、それは構いませんが…」


「それで早速なんですが、あなたの長野時代の部下で亡くなった方いらっしゃいましたよね」


「ああ、加賀谷かがやでしょ?」


「そう、加賀谷さん」


 本当は名前などわかっていなかったが、マンチカンはとっさに合わせた。花咲は気づいていない。


「加賀谷について何か聞きたい事があるとか?」


「加賀谷さん、どんな亡くなり方をしたんです?」


「ん?知ってて来たのだとばかり思ってたんですが?」


「え…と、まあ知ってはいるんですが…」


 マンチカンの目が泳ぐ。

 茉莉花が小さく舌打ちをして口を出した。


「知ってますよ、もちろん。自殺ですよね」


「なんだ、知ってるじゃないですか」


 茉莉花がマンチカンに代わって続ける。


「その自殺の状況が知りたいんです」


「詳しくは知りませんよ。薬を飲んだとか。わたしがこちらへ引き上げてからの話です」


「その引き上げが自殺の原因でしょ?」


「…………」


 花咲は何かを言いかけてから口をつぐんだ。

 マンチカンは面食らった。


「え?え?なに?どういうこと?」


 茉莉花が薄ら笑いを浮かべた。


「わかるでしょ?部下の女性社員を相手に単身赴任を楽しんだって事よ」


「え?あ、なに?そういうこと?」


 桜子ひとりだけピンと来ていない。


「どういうこと?」


 茉莉花が笑って答える。


「デキてたってことよ」


「デキてた?なにが?」


「男と女の関係が」


「どこに?」


「花咲さんと加賀谷さんの間に」


「……えっ?そうなの?」


「そうよ」


「なんでわかるの?」


「だって、そもそも得体の知れない坊主相手にすんなり面会をオーケーした時点で、なんか後ろめたい事でもあんのかと思うじゃない」


 マンチカンがツッコミを入れる。


「得体の知れないは余計だ」


 茉莉花はそれを無視する。


「それにね。結婚指輪してる人が休みにスーツ着てんだもん。奥さんいる人が仕事だってウソついて出てきたってことでしょ?加賀谷さんとのあいだに何も無いなら正直に言って出てくると思わない?」


 桜子が感心する。


「茉莉花ちゃん、探偵みたい」


「あってますよね?花咲支社長さん」


 茉莉花に訊かれて花咲が呻くように低くつぶやいた。


「だったらなんだ…」


 マンチカンが声を落とす。


「いや、そうでしたか…」


「とぼけなくてもいいよ。電話で加賀谷について話があるなんて言われたから、そうじゃないかとは思ってた。小遣いが欲しいんだろ。今回だけはやるから、痛い目にあいたくなければそれで我慢しとけ」


 凄む花咲に茉莉花が笑いだした。


「あははっ。わたしたちユスリにされてるよ。どうする?マンチカン。小遣いもらっとく?」


 マンチカンが慌てた。


「ばか言うなよ。協力を仰いでるのはこっちだぞ」


「違うでしょ。この人のせいで加賀谷は死んだのよ。その尻拭いしてやるんだから礼ぐらいもらったってバチ当たんないわよ」


「報酬は依頼主からもらうだろ。この人は依頼主じゃない」


「だって、どう考えたって加賀谷はコイツに未練ありそうじゃない。それが原因でああなってんでしょ?何がしたいのかはわかんないけど」


 花咲が話を止めた。


「ちょっと待ってくれ。依頼主って何だ?それに加賀谷が生きてるみたいな事を言ってるようだが、どういう事だ?」


 マンチカンが答える。


「加賀谷さんは亡くなってます。なんと言いますか、遺書があって――」


 その言葉を遮るように茉莉花が割り込んだ。


「もういいんじゃない?わたしたち不倫をネタにゆするガキどもって思われてんのよ。信用なんてそもそも無いんだから、ホントの事を言っちゃえば?」


「いや、しかし……」


「信じなくてもいいじゃない。話さえ聞ければいいんだから」


「そうだけど…」


 煮え切らないマンチカンに再び舌打ちをして、茉莉花は花咲に言った。


「わたしたち、おたくの支社が入ってたビルに後から入居した会社の依頼で動いてんの」


 花咲は話がまだ掴めずに訊いた。


「なんで後から入った会社が加賀谷のこと?」


「出るのよ、毎日。女の霊が。夜になると必ず」


「は?」


「信じなくてもいいからとにかく聞いて。その霊は加賀谷に間違いないわ。それを供養するのがわたしたちの仕事よ。そのために一番の関係者であるあなたに話を聞きに来たの」


「聞いてどうするつもりだ」


「加賀谷の未練を断ち切って成仏してもらうのよ」


「…………」


「別に幽霊なんて信じてなくていいわ。亡くなった人のお墓や仏壇に好きだった食べ物を供えたりするでしょ?身内の元気な姿を見せて安心させたりするでしょ?その延長だと思ってくれていい。加賀谷に好きだったあなたの思い出ばなしのひとつでもしてあげれば供養になるのよ」


「思い出ばなしって言われても……お互い割りきった関係だったからな」


「割りきった関係?」


「そうだよ。毎日終業後、みんな帰った後で一緒に晩飯を食いに出て、そのあとオフィスに戻って……そういう事してたってだけの関係だよ」


 そこで桜子があっけらかんと訊いた。


「そういう事って、どういう事です?」


 そんな桜子に茉莉花と雅とマンチカンが目を見開いて驚き、花咲はバツが悪そうに答えた。


「いわゆる情事だよ」


 桜子の頭にハテナマークが乗っている。


「ジョージ?どちらさん?」


 雅が桜子に素早く耳打ちをする。桜子は見る見る赤くなり、聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で言った。


「お話の続きをどうぞ…」


 茉莉花は花咲に訊いた。


「休みの日にデートぐらいしたでしょ?」


 花咲は首を横に振った。


「休みの日は毎週こっちへ帰ってたからな」


「あなたの部屋で泊まったり近くのホテルで泊まったりは?」


「俺の部屋は妻や子供が来る事もあるから痕跡を残せない。ホテルでの泊まりも夜に家族からリモートで連絡が来たりするから駄目だ。終業後のオフィスだから仕事ってことで通せるんだよ」


「都合のいい女ってわけね、加賀谷は」


「人聞きの悪いこと言うなよ。誘ってきたのは加賀谷の方だ。夜のオフィスだけの関係って決めたのもあいつだし。性欲が満たされればそれでいいらしくて、面倒なのはイヤなんだとさ」


 茉莉花は眉間にシワを寄せた。


「それがホントなら自殺なんてしないよね、普通」


「だろ?それを俺のせいとか言われても。新しい男と何かあったんじゃないのか?」


「おかしいな。あのオフィスビルに居座ってるから絶対あなたが原因だと思ったんだけどな」


 そこへ桜子が割り込んだ。


「違うよ、茉莉花ちゃん。加賀谷さんは花咲さんを好きだったから自殺したのよ。間違いなく」


「何を根拠に?」


「だって、だって、男の人のことは知らないけど、女の人は好きな人とじゃないと――」


 桜子は声を落とした。


「そういう事できないよ」


 茉莉花は小さく笑った。


「そうとは限らないと思うけど…。好きだったらもっと一緒にいたいとか、奪ってやりたいとか思うでしょ?それがオフィスだけなんて考えられる?」


 桜子は大きく横に首を振った。


「加賀谷さんの気持ちになって考えるとすんなりわかるよ。彼女は花咲さんが好きだったの。でも、花咲さんには家族がいる。毎週末に帰ったりして大切にしてるのもわかってる。自分のこと少しでも見てほしくてつい誘っちゃったけど、好きだからこそ好きな人を困らせたくもなかったの。だからオフィスだけって決めたの」


「う~ん。まあ、割り切って不倫を楽しむような図太い人物像と自殺って結びつかないのよね、確かに」


「でもね、逆に終業後のオフィスの時間だけは大切だったの。誰にも邪魔はされたくない。だから必死に追い出そうとしてるの」


「ん?なんのこと?」


「今の加賀谷さんのやってる事よ」


 少し考えてから茉莉花とマンチカンが同時に「あー」と言った。

 桜子が思い出しながら怯えた顔で続けた。


「あれ、絶対に怖がらせて追い出そうとしてるもん」


 茉莉花は苦笑いをした。


「確かに怖がらせられたら怖いよね」


「だからね、あのオフィスの人たちにいったん出てもらって、そこで花咲さんに会わせたいの」


 一瞬だけ沈黙があり、桜子以外の全員がほぼ同時に「えっ」と言った。

 茉莉花が訊き返す。


「この人を連れてくってこと?」


「うん。いいアイデアでしょ?」


「いや、ダメでしょ」


「なんで?」


「家族になんて言う気?」


「そのへんは、なんか上手いこと…」


「高速道路や新幹線に乗ってくような所の用事をなんか上手いことで済ませられると思う?」


「そんなのわかんない。でも加賀谷さんはオフィスの人たちを追い払えば花咲さんに会えると思ってるのよ」


「そうかもしんないけど、別の方法で説得できない?」


「そういう事じゃなくて、純粋に会わせてあげたいじゃない」


「会わせてあげたくても無理なものはしょうがないでしょ?」


「無理じゃないよ。この人が不倫なんてするのがいけないんだから。加賀谷さんがかわいそう」


「あのね。コイツのやった事は最低だけど、加賀谷も自業自得でしょ?」


「だって加賀谷さんは、ホントは好きだったのよ。この人に責任をとってもらおうよ」


「いや、だから、責任って事なら加賀谷にもあるでしょ?コイツに離婚のリスクを負わせてまで責任をとらせる気?」


「離婚されてもしょうがない事したんじゃない。加賀谷さんなんて死んでるのよ」


「いやいや、加賀谷は火遊びだって嘘ついて勝手に自殺したのよ。その責任までコイツにとらせるつもりなの?」


「だって、だって、加賀谷さんの気持ちを考えてよ。この人が好きだからこそ嘘をつき通したのよ。それなのに会えないなんて切なすぎるよ」


 茉莉花が身を乗り出す。


「だから~。感情だけで考えずに、もっと現実的な――」


 そこで雅が手を伸ばして茉莉花の発言を止めた。


「落ち着いて、茉莉花。あたしだって理屈ではコイツも加賀谷も同罪だと思ってるけど、桜子が感情でモノを考えなかったら、たぶん浄霊は上手くいかないわよ。目的を忘れないで」


 茉莉花は溜め息をひとつつき、自分の頬を軽く叩いて座り直した。

 雅はそれを待って、今度は桜子に言った。


「桜子。あなたが浄霊師として加賀谷さん視点になるのはわかるわよ。でも考えて。この件での被害者は加賀谷さんじゃなくて、この人の奥さんやお子さんよ。この人が離婚されたとしたらそれは当然の報いだと思うし、何らかの償いはすべきだと思うけど、何も知らない奥さんやお子さんは裏切られた上に急に幸せを奪われるのよ」


「大丈夫よ。母子家庭だから不幸って事はないから。わたしのウチもそうだけど、わたし頑張ってるよ」


 笑顔で小さくガッツポーズをする桜子に、雅は優しく微笑んだ。


「そういう事じゃないのよ。被害者である奥さんやお子さんは、どうして加害者である加賀谷さんのためにそんな目に合わなきゃいけないの?ってこと。それにこの人のお子さんがあなたのように強くなかったらどうするの?」


「…………」


 桜子は黙ってしまった。

 雅は全員に向けて話を続けた。


「責任うんぬんなんて、別にあたしたちが決める事じゃないでしょ?桜子の推理が当たっているかはわからないけど、おおむね辻褄は合っているし、大きく違わないんじゃないかしら。そして、その事は花咲さんにも伝わったはず。その上でこの人がどうしたいかじゃない?加賀谷さんのために何かあたしたちに協力してくれる気があるのかどうか」


 その場の全員が雅の言葉に納得していた。

 花咲の辛そうな顔を見て、茉莉花は穏やかに言った。


「加賀谷に対して性のはけ口程度の感情しかないって言うのなら、もう何も求めないから心配しないでいいよ」


 花咲はしばらく下を向いて黙っていたが、ゆっくり首を横に振った。


「そんなわけないよ。あいつは入社した時から俺が育てた大事な片腕だったんだ。なのに……なんで手を出したかなぁ」


 花咲は顔を上げた。


「何かしてやりたい。あいつがそれで救われるのなら。でも、行けないよ。家族に知られたくない。少しでも気取られたくないんだ。自分勝手なのはわかってる。でも家族を泣かせたくない」


 花咲は再び下を向いた。


「それでも協力できる事って何かありませんか?家族に知られずに済む協力なら出来る限りさせてください。お願いします」


 沈黙したまま、茉莉花たちは下を向く花咲を見つめた。しばらくして、ふと思い立って茉莉花は桜子に訊いてみた。


「あのさ、桜子。霊に対してビデオレターって意味あると思う?」


 目から鱗の表情で桜子は答えた。


「うん!もちろん!」


 暗くなりかけていた桜子から笑みがこぼれた。



 マンチカンのタブレットを使って花咲のビデオレターを近くの公園で撮影し、花咲とはそこで別れた。別れ際に花咲は「よろしくお願いします」と深く頭を下げた。


「あれ本心だと思う?アイツがビデオレターで言ってたこと」


 歩きながら茉莉花が疑問を口にする。雅がそれに答える。


「どうかしら。少なくともビデオレターを撮る意図は理解していたみたいだし、芝居してもいいって言ったのはこっちだものね」


 桜子が大きく首を横に振る。


「本心だと思うよ。あれがお芝居だったら俳優さんになれちゃうよ」


 雅は桜子の方をチラリと見たが、表情を緩めて言った。


「確かにね。あれは芝居には見えなかったわね」


 マンチカンが水を差した。


「どっちでもいいよ。要件は満たしてるから」


 茉莉花が冷ややかな目をマンチカンへ向けた。


「仕事の話をしてんじゃないんだけど。無神経な男子は女子トークに入ってこないでくれる?」


 マンチカンはふてくされた。


「なんだよ。仕事の話じゃないってんなら、なんの話だよ」


「だから、そういうんじゃないんだって」


 そこで桜子が楽しげに言った。


「恋ばなじゃない?」


 茉莉花は思わず笑った。


「あははっ、恋ばなかなぁ。アイツの言ってた事って本心だとしても不倫男のたわごとだよ?」


 雅は桜子に賛同する。


「あたしたちの気分的には恋ばなって言ってもいいんじゃない?」


 それには茉莉花も共感できた。


「まあ確かに、あの動画を見たとき加賀谷がどんな顔すんのかドキドキするもんね」


 桜子ははしゃいだ。


「そうそう。わたし浄霊なんか忘れて観客として見てたいもん」


「いや浄霊、いちばん忘れちゃダメだから」


 茉莉花と雅と桜子は笑い、仲間はずれのマンチカンは後ろからつまらなそうに三人を眺めた。


次回「その5 新宿の休日」は7/9(火)に投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ