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霊能力美少女の家 ―逝かせてあげる♡―  作者: 如月るん
第二話 愛しのジョージ
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その3 異世界のツンデレ姫はホントは勇者を守りたい

 ビルの2階にあるオシャレなカフェ。その店内のテーブル席に結城と向い合わせで座る桜子の鼓動は鎮まってはくれなかった。


「どうしてこんな事に…」


 もちろん「どうしてこんな望ましくない状況に陥ってしまったのだろうか」という意味ではない。なにしろ目の前にいるのは桜子にとって自分の彼氏なのだから。



 引っ越してきてからこちら、桜子はいつも茉莉花や雅と行動を共にしていた。離れたのは結城に追いかけられた時ぐらいである。

 特に放課後といえば、部室棟へ行くときも、まっすぐ帰るときも、雅の夕食の買い物に付き合うときも、ずっと一緒だった。


 ところが今日に限って桜子は一人にされてしまった。雅は手芸店で「一人で」ゆっくり買い物がしたいと、さっさと行ってしまった。茉莉花は実家に用事があると言って、迎えにきたセバスチャンの車で行ってしまった。

 行く前に茉莉花は「引っ越して来てから表参道の方とか駅前とか見て回ってないでしょ?散策してきたら?」などと言っていたが、案内も無しにうろつくのは桜子にはハードルが高すぎる。たとえ長野市が地方の都市だとしても、田畑や野山ばかりの環境で育った桜子から見たら立派な都会である。


 しかたなく家へ帰ろうとしたところで、結城が声をかけてきた。茉莉花に桜子への接近をずっと阻まれていた結城にとっては絶好のチャンスだった。

 そして今、結城に誘われるままにカフェにいる。



 交際することが決まったあの日から、桜子には交際しているという実感が無かった。結城との接触が全く無かったからだ。

 その間、スマホを手に入れたりもしたが、そもそも連絡先を交換するチャンスさえ無い。そのうち桜子の中で交際の話は夢だったのではないかとまで思えてきたところだった。


 そんな時に唐突に始まった恋愛シチュエーションである。心の準備など桜子に出来ているわけもない。だから「どうしてわたしみたいな陰キャがキョドるようなこんなリア充展開に急に陥ってしまったのだろうか」という意味での「どうしてこんな事に…」だった。



 桜子は上目使いに結城を見た。


 ――こんなイケメンとチンチクリンなわたしじゃ釣り合わない。ほら、みんな笑ってる…。


 店内の他の客の目が気になる。その視線が本当は包帯だらけの結城に向けられていることを桜子はすっかり忘れていた。


「遠慮せずに食べてよ」


 結城は実にスマートに促した。桜子の前にはコーヒーとレアチーズケーキ、結城の前には紅茶とシフォンケーキが置かれている。

 桜子は小さく手を振った。


「またおごってもらうのは悪いよ。今度はわたしに払わせて」


「心配ないって。スポンサーから入金があったばかりだし」


 ――スポンサー?親のことかな?


 そう思いながら桜子は言った。


「そういう事じゃなくて、前回もおごってくれたでしょ?男の子が払うのは当たり前みたいなのがイヤなの」


「だって、前回も今回も誘ったのはボクだよ。予定になかった出費でしょ?」


「それでも…」


 正直、出費はきつい。だが、今後も結城とつきあうのなら、おごらせているという後ろめたさがずっと付き纏うのは耐えられない。

 結城はそれを察したように言った。


「じゃあ、今回だけ払わせて。次からは学生らしく割り勘にしよう」


「うん」


「でも変わらないんだな」


「ん?なにが?」


「前世でも桜子は常に対等であろうとしてた。ボクが桜子を守るって言ってるのに、桜子もボクのことを守るって言って折れないんだ。お姫様なのに」


 桜子は面食らった。


「わたし、お姫様なの?!」


「なにを今さら。――ってか記憶が無いんだっけ」


 お姫様は女の子の憧れである。こんな話は中二病の妄想だとわかってはいるが、結城がどんな物語を空想しているのか、自分をどんな風に登場させているのか、桜子は少し興味を持った。

 だからドキドキしながら、つい訊いてしまった。


「それ、どんな話なの?」


「それって?」


「あの…守るとか守られるとか」


「ああ、その時のことね」


「うん」


「えーと……ほら、ボクって勇者じゃん」


「勇者!!」


「まあ、その頃は正確に言うと勇者見習いだったけど。魔王を倒すべく修業中の身だったからね」


「そっちか~。前世ってそっちか~」


「そっちかって、どっちだと思ったの?」


「あ、ごめん。いいの、いいの。そっちの方が好きだし」


「――?」


 桜子は前世と言われて、てっきり同じ世界線の前の時代かと思っていた。そこでお姫様と言われたので、時代劇に出てくるような和風なお姫様を想像してしまった。名前が桜子のままらしいので当然である。

 ところが勇者や魔王が出てきて初めて異世界転生という意味での前世だと気づいた。つまり桜子は洋風なお姫様、サクラコ姫だったに違いない。


 ――そうだった、そうだった。あの眼帯の下にドラゴンだか何だかの力を宿してるんだった。中二病って、そんな感じだった。


 カッコいい冒険物語にはあまり興味のない桜子だったが、勇者見習いとお姫様の恋物語にはワクワクしてしまっていた。


「それで?修業中の勇者見習いがどうしたの?」


「あ、うん。あれは実地での修業のために初めて山を下りる前の日のこと、桜子はとても不安そうな顔をしてたんだ」


「ちょっと待って、ちょっと待って。わたしも修行してるの?」


「そりゃそうだよ。桜子にだって魔力を使いこなしてもらわないと、同じパーティーには入れられないじゃん」


「同じパーティー?!」


「そうだよ。そのために師匠が連れて…」


「し、師匠?!」


「……ねえ。いちいち驚いてたら、話が進まないよ」


「あ、ごめん。黙ってるから続けて」


 クスリと笑って、結城は続けた。


「んで、その日の夜。ベッドに入ってからしばらくしてふと見ると、隣に寝ていた桜子が目をパッチリと開いたまま天井を見つめてたんだよ」


「えっ!?い、一緒に寝てるの?!」


「だーかーらーー」


「あ、ごめん……」


 桜子は「お口にチャック」のジェスチャーをした。





 ユウキたちは山での修業のためにロッジで寝泊まりしていたが、師匠の指示によりユウキとサクラコは同じ部屋をあてがわれていた。

 最初の頃こそひと悶着あったものの、長い日数を過ごすうちに慣れ、寝つけない夜などには話をすることもあった。その多くで話しだすのはサクラコからであったが、その日はユウキから話しかけた。


「眠れないのか?」


「うん…」


「明日のこと、怖いの?」


「…………ダメ?」


「ダメじゃないけど…」


「けど、なに?」


「イヤ、ダメじゃない……ダメじゃない、ぜんぜん」


「そう…」


 少しの沈黙のあと、サクラコが訊き返す。


「あなたは怖くないの?」


「ボクが?怖いかって?怖いわけないじゃないか。勇者なのに」


「そうなの?」


「そうさ。だからサクラコも心配するな。ボクがサクラコを守ってやるから」


 再び沈黙のあと、サクラコは小さく言った。


「やだ」


「ん?やだって、なにが?」


「守ってくれなくていい」


「なに言ってるんだよ。パーティー組むんだから、仲間を守るのは当たり前だろ」


「じゃあ、わたしもあなたを守る」


 ユウキは吹き出した。


「怖がってるやつが、なに言ってるんだよ」


 サクラコは膨れた。


「怖くたって守れるもん。わたしだって修業したもん」


「ムリするなって」


「じゃあ、もういい!違う人とパーティー組むから!」


「なに言って……。ダメに決まってるだろ」


「ダメじゃないもん。決まってないもん」


「決まってるんだよ。師匠が決めたんだから」


「だったら師匠に言うもん。わたしのこと信じてくれない人とパーティー組みたくないって」


「そんなの通らないに決まってるだろ」


「決まってないもん」


「決まってる」


「決まってない」


「決まってるって」


「あなたなんて大嫌い!!」


 サクラコは背中を向けた。

 しばらく重い空気が漂っていたが、ユウキはサクラコの背中に言った。


「まだ起きてる?」


「………………」


「……ごめん」


「…………」


「ほんとはサクラコにカッコつけたかっただけなんだ」


「……」


「ほら、お姫様を守る勇者ってカッコいいじゃん。お前を守る!みたいなセリフを言ってみたかったんだよね」


「……バカ」


「ああ、バカだよ。そんなセリフを言いたがるなんて幼稚だよな」


「違うよ。何もわかってないって言ってるの。カッコつける必要なんてないのに…」


「わかってるって。まだまだ見習い勇者だもんな。カッコなんかつかないさ」


「ほら、やっぱりわかってない。だからバカって言ったの」


「なんだよ。怒ってるから素直に謝ったのに」


 背中を向けていたサクラコは、寝たままくるりとユウキの方を向いた。


「ホントは怒ってないよ」


「うそだあ」


「うそじゃないよ。ただ悲しかっただけ」


「悲しい?」


「わたし、修業がんばってるんだよ?それなのに守られるだけなんて…」


「悪かったよ。考えてみれば能力の種類が違うんだからボクに出来なくてサクラコには出来る事だってたくさんあるし、パーティーなんだから連携が必要だろ?それって言ってみればお互いを守りあうってことだもんな」


「うん」


「だから、あらためて言うよ。ボクにはサクラコが必要だ」


 言われてサクラコは再びくるりと背中を向け、上擦った声で言葉を返す。


「し、しかたないなあ。そんなに言うなら、ずっと一緒にいてあげる」





 桜子は自分のベッドの上で顔を真っ赤にして身悶えた。思いのほか妄想がはかどってしまったからだ。

 もちろんベースは結城の前世話である。山を下りる前夜のやり取りも、大きく違ってはいない。しかし、そこには桜子の乙女おとめチックフィルターが少なからずかかっていた。


 桜子は帰ってきてから自分の部屋で結城の話を思い出しながら妄想に浸っていた。

 気づけば、もう午後6時半だった。下の階から音がしているので、少なくとも雅は帰ってきているはずだ。


 一階へ下りようと桜子がベッドから立ち上がったその時、いきなりスマホの通知音が鳴った。LINEの着信だ。確認すると連絡先を交換したばかりの結城からだった。

 桜子はドキドキしていた。なにしろ直前まで結城の顔や声を使って恥ずかしい妄想を展開していたばかりだ。元が中二病の作り話だとしても、実在の人物に感情移入してしまったらそれが現実の感情なのではないかと錯覚しそうになる。

 妄想の余韻を残したまま、桜子はLINEの内容を確認した。


『今日のデートは楽しかったよ。ステキな時間をありがとう』


 ――デデデデ、デート?あれってデート?それに、なに?このイケメンなセリフは…。


 桜子は、その文を眺めながら固まってしまった。どう返していいのかわからない。LINEに慣れていないからという事もあるが、それよりは相手がドキドキの張本人だからという方が大きい。

 何か「彼女」らしいスマートな返事をした方がいいのだろうか?それとも今の気持ちを正直に伝えるべきだろうか?


 ――あれ?今の気持ちって?というか、そもそもわたし、結城君のこと好きなんだっけ?


 勢いでつきあうことになってしまったのは事実だ。ただ、まんざらでもなかったのは自覚している。

 自分の気持ちがわからない。少女漫画のような恋愛に憧れていた桜子だったが、野山ばかりの故郷にはガキ大将はいても王子様はいなかった。初めて生で見る美形男子が自分へ好意を向けてくれている事に浮かれているのも確かだ。


 桜子はつきあうことになった日の結城の言葉を思い出していた。


『今のボクも知ってほしい。そして少しずつ好きになってくれればいい』


 ――そうよ。結城君は今すぐ好きになれなんてひとことも言ってないじゃない。


 つまり、曖昧な気持ちだって今は構わないってこと。はっきりしていない今の気持ちを伝えるなんてナンセンス。それならば、正直に。シンプルに。

 そしてLINEを送り返した。


「今の自分の気持ちはわからないけど、でもわたしも楽しかった。ありがとう」


「また前世のお話、してくれる?」


「そしたら嬉しいな」


 そう入力した。そして送信した。ところが慣れない文字入力で時間がかかったり言葉を選んだりしているうちに、結城から返事が来てしまった。


『楽しんでくれたのなら嬉しいよ』


『もちろんいくらでもするし、それで記憶が戻ってくれたらいいけど、でも戻らなくても心配しないで』


『こうやって交際を続けることで、少しずつ好きになってくれればいいから』


 慣れている結城は入力と送信が速い。この三つの文が桜子の最後の一文に先駆けて着信したことにより、その順序によって意味が変わってしまった。


「今の自分の気持ちはわからないけど、でもわたしも楽しかった。ありがとう」


『楽しんでくれたのなら嬉しいよ』


「また前世のお話、してくれる?」


『もちろんいくらでもするし、それで記憶が戻ってくれたらいいけど、でも戻らなくても心配しないで』


『こうやって交際を続けることで、少しずつ好きになってくれればいいから』


「そしたら嬉しいな」


 つまり桜子は、少しずつ好きになっていけたら嬉しいと言っている事になる。ただ、直後は桜子もそれに気づいていなかった。


『本当に?二人のことを前向きに思ってくれてるんだね。ボクは果報者だな』


 そう結城からの返信があって初めて頭に?マークが灯り、文を読み直してようやく顔から火を吹いた。

 もちろん、ここで誤解を解くような文を送るという選択肢もあるが、それは好きになるのを否定している事にならないだろうか。それに、そんな事をして嫌われたらどうしよう。


 ――あれ?


 桜子は混乱していた。


 ――落ち着け、落ち着け。


 頭の中を整理する。

 嫌われる心配をしているという事は、嫌われたくないという事ではないのか。そもそもいずれ好きになる事を自分自身が否定できないでいる。それって、つまり既に……。

 桜子は頭を大きく振った。


 ――待って、待って。短絡的に結論を出しちゃだめ。


 このあと何か返した方がいいのだろうか。何か返してさらに余計な誤解を生まないだろうか。それとも、ここで終わらせた方がいいのだろうか。そもそもLINEてどうやって終わらせたらいいのだろうか。

 などと考えが散らかってしまった、その時。電話の着信音が鳴り、桜子はびくりとしてスマホを落としかけたが、なんとか受け止めて電話に出た。相手は雅だった。


『何してるの?ご飯できたよ』


「あ、ごめん。すぐ下りる」


 桜子は電話を切ると、LINEに当たりさわりのない返事を返した。


「ごめん、ご飯ができちゃった。また連絡するね」


 桜子は考えるのを放棄した。何かを考えたところで今はスッキリした答えが出せない事も、なんとなく気づいていたからだ。

 スマホを机に置いて桜子は部屋を出た。夕食にスマホは必要ないので最近はそうしている。

 そのため、この直後に結城から返事が来ていた事を知らなかった。それに気づいたのは寝る直前になってからである。


『またな』


『愛してるよ、桜子』


 ベッドの中でしばらく眠れなくなってしまったことは言うまでもない。


次回「その4 オフィスの恋」は7/5(金)に投稿する予定です。

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