雨の日は嫌いだと君は言った
遠い記憶。
好きだった人がいた。
その人は「雨の日は嫌いだ。」と言った。
「私も嫌い。」と言った。
君とのお出かけは楽しかった。
君とのごはんは美味しかった。
隣にいるだけでいいと思った。
隣にいるだけで幸せだと思った。
天気予報が外れて、雨が降る。
傘を忘れたが、邪魔になるだけなので忘れて正解だ。
君は傘をさせない。
君が濡れるなら、私も濡れよう。
私がいつもリュックなのは、君のため。
両手は君のために空けておくのだ。
坂道、段差、障害物、助けが必要な時に手が貸せるように。
あなたは両手で車椅子を漕ぐ。
その後ろに私。
私は好きな人と手を繋いでデートをすることに憧れていた。
手を繋ぐのは、なかなか難しい。
車の運転も手動運転装置で運転するから、両手は塞がっている。
私が好きな人は、脊髄損傷で下半身麻痺。
交通事故だったらしい。
出会った時から車椅子の君。
隣にいられるだけでよかったのにな。
あれから、何年も経った。
お気に入りの傘とオシャレなレインブーツが雨の日の憂鬱を弾いてくれることを知った私。
「雨の日は嫌いだ。」と言う君を懐かしく思う。