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『おい お茶屋』
あの日は、飯をかきこみ堀端をまわっていこうかと、お堀を見ながら、のんきに流していたのだ。
この辺は、白壁のお屋敷が並ぶ場所で、流しの売り子は馴染みの野菜売りぐらいしか呼び止められない。
その日の売り物はお茶だった。
だから、適当に、お茶畑の様子を文句にして気持ちよく唄ってながしていた。
「 おい!お茶や! 」
「・・・・」突然、白壁のむこうから怒鳴りとめられた。
きっと、こんなところで商売するなとか、早く向こうへ行けとかだろうと思っていたら、再度、お茶や!と呼ばれ、へい、とこたえる。
「 ―― おまえさん、いい声だな」
「・・・は?」
「はいっといで。お茶をもらおう」
むこうに裏木戸があるから、といわれ、そこから入る。
石が敷かれ、植木がみっしり生えた、立派な池がある庭だった。




