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わかってても こわい
滑稽だ。
いや、滑稽なはずだ。
なのに、
―――鳥肌しか、たたない。
開いた猫の口に歯は見えない。
ただ、その《人の口》だけが、めいっぱい、そこからのぞいて言葉を発する。
―― ヒコイチのことを気にかけた言葉を。
「 ――・・・そのまま、猫はどっかいっちまった。 じじいとは、なに話したかも覚えてねえ。いつ戻ったかも、よくわかんねえ。 ・・・で、頭は痛くて寒気はおさまらねえで、五日寝込んだ」
「その合間に、セイベイさんが?」
「ああ。 『あれは、忘れろ』なんて言いにきやがった」
無理だ。絶対に。
困ったことに、あれから、猫と、夜が、怖くなった。
乾物屋は、何もしない。
それは、わかっている。
わかっているが、
――怖いのだ。




