生きてはいない
その猫が、割れたひどい声で、しゃべる、 『それ』 を、 おさまりきらないように、口から、のぞかせていた。
「 ――― ・・・っな・・んで・・」
猫の、ひらきっぱなしの口の《中》からは、どこかでみた、《ヒトの口》が、はみだしている。
はみだした唇は分厚く、魚のように突き出ていて、それに血の通う色はない。
紫というよりも、黒に近い。
「 いや、実はな、このカンジュウロウが、今度のことをいろいろと心配して、教えてくれたのさ。 ―― セイイチの腹に溜め込んだものとか、食べちゃいけない『佃煮』のこととかねえ。 祠のことも、すすめてくれてね」
セイベイは、いつものように、縁側での茶のみばなしのように言う。
ヒコイチは気付いた。
黒猫の、ガラスのような金色の眼が、
―― 生きてはいないのを。
きれいなそれは、動かない。
まるで、ガラスを埋め込んだように、死んでいる。
『 まあ、これから先も、大事にしろよ 』
その、動く骸からのぞく、《死人の口》が、ヒコイチに命じた。




