いや 実は
池の向こう側の離れ。
すう、と障子がひかれると、そこからまず先に、座布団が出てくる。
縁側の板にそれが置かれると、ゆっくりと隠居が現れ、そこへ座る。
池のほうをじいっと見つめる。
池のむこうがわで、社の土台を作る大工達の様子をながめながら、―― 口を、動かした。
「―― ・・ありゃあ、ひとりごとだ。おれたちに話しかけてんじゃあねえ」
ぼそぼそと口を動かす年よりは、ふいに口をつぐみ、頭を動かし、そして、笑う。
「なんだか、だれかの話にうなずくみてえに笑うのさ」
それはそれは、なんとも嬉しそうな顔を、こちらにむけられ、職人達は、そろって目をそらし、あわ立った肌をさすった。
困ったことに、気味が悪いだけで、これといった害はない。
だが、気は散る。
お社は、かなり気を集中させる作業を必要とするのだ。
宮大工まではいかずとも、釘を使わず、木を喰わせることでつなぎあわせていかねばならないし、細工もこまかい。
棟梁が、さすがに息子に訴えでれば、いや実は――。と、座敷に招かれた。
ここだけの話にしていただきたいのですが、どうにも、ボケてきたらしくて
――と、重ねた手をさすり、腰を落ち着きなく浮かす息子は、このところ理解できない言動をするおのれの父親を語り、鼻をすすりあげた。




