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まだ全部じゃない
「地蔵菩薩。ぼくも見せていただいたけど、なんとも優しいお顔だったね」
「・・・じじいが、・・このまえおれに見せながら、ずっと、撫でてやがった」
「・・・さ、これで、全部ですよ。 あと、今回のこの話、書きはしないけど、買わせていただきます」
お坊ちゃまは胡坐のまま頭を下げる。
こんな狭くて汚い家に不似合いな洋装の男のつむじを見ながら、ヒコイチは手にした餅を、ようやくほおばった。
―――と、そのとき、窓際のそれに気付く。
「っこ、こらあああああ!!」
ヒコイチの怒鳴り声に身をすくめたのは、干した布団の上でくつろごうとしていた猫だった。
怒鳴っただけでは足りないのか、餅とドテラを落とした男は窓際に駆け寄り、両手をやたらと振り回した。
「・・・ヒコさん? どうしました?」
「・・・ノブさん・・」
「はい?」
「まだ、全部じゃねえだろ?」
「え?」




