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違うかたちで
なんだか眼を合わせ、しばし固まったあと首をまわしたヒコイチは、すっかり冷めた薄い茶を飲み、松庵堂の包みの上に残った餅に手をのばした。
「 ―― まだ、聞き終わってねえよ。 結局あの新しい祠はよ? あの観音さんは、何なんだ? 意味はねえけど、ボケるふりでちょうど良かったってだけかい?」
ああ、と受けた男は、少しうつむいた。
「・・・あれは、亡くなられたお嫁さんの、お腹の子につくったんです」
「・・は、・・はらんで?」
「これも、セイイチさんは知らないことです。 亡くなった方の、検死というんですか?それを、例の懇意のお医者様にしてもらったそうです。 で、それがわかった」
「・・その、父親は・・」
「誰でしょうねえ。 セイベイさんが、いちばん心配していたのもそこです。 もし、子どもができたとしても、誰の子か、わからない。 跡取りを気にする《老舗》の商売人にとっては、ご先祖様に顔向けできない」
「でも、その子どものせいじゃねえ」
「うん、・・そうだ。 だから、セイベイさんも、通夜では弔えなかったその子を、どうにか違うかたちでも、弔いたいと思ったんですよ」
――― セイイチには、本当の理由を知られずに。




