そんなの、
「・・・セイベイさんは、セイイチさんの前では、本当にボケたようなそぶりをしていたそうです」
「な、・・なんで?」
「・・・・」
半眼の坊ちゃまがゆっくりと口を開けた。
「 ―― 自分を、・・・ 殺させたかったんですよ」
「・・・・・・・こ・・」
「本気で、自分を殺そうと思ってる息子に、その『機会』を与えたかった。と、おっしゃいました。 ―― ぼくは、・・・やっぱりセイベイさんのこと、こわいですよ」
ヒコイチは、声もだせなかった。
自分には、親の記憶はない。
兄弟もいない。
血のつながった人間がどこにいるかも、わからない。
だが、けれども、自分が思うその強い絆には、そんなこと、あるわけはない。
「セイイチさんの中では、セイベイさんは幼いころから怖く厳しいだけの存在で、長じてみたら、今度は、自分の愛しい妻と、安定していた店を、奪いとった憎い相手だ。 きっと、父親だという感覚も、ちゃんともてたことがないんじゃないかなあ・・・。 そんな感情を、セイベイさんは気付いていても、どうにもできなかったんだね。 だから、せめて ――」
「おかしい!!そんなの、おかしいだろおがよ!!」




