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佃煮
「セイベイさんが言わなければ、だれも、ことの真相をセイイチさんに伝えない。サネさんは言いたくてしかたなかったそうです」
「・・そりゃ・・そうだ・・」
「だから、うらみが、溜まってしまった」
腹に溜めて、時を過ごすうち、その父親がおかしなことを言い始める。
―――新しい社を作りたい。
独り言もはじまり、これはもしやボケたのか、と、思った息子は
―――毒を手にする。
「・・・それって、やっぱりあの、ネズミ用のやつですかい?」
「それが、はじめはどうやら違うみたいです。」
ある日の食事に出した佃煮を、隠居が手もつけずに戻してきて、器の下に小さな紙切れがさしてあるのにサネは気付いた。
紙にはひとこと。
『 早々に 捨てよ 』
すると、珍しくも若旦那が台所を訪れ、親父は全部食べたか、と聞く。
サネは、直感で、はい、とうなずいた。




