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慣(なら)わし
「ぼくの友人いわく、三日泊まれば、三回違う女性がくるらしい。 まあ、育ったところがそういう習慣じゃあ、しかたないよね」
「・・・ま、まさか、あの、えっと、」
「そう。嫁いできたお嬢さんは、まさしく、そういう『習慣』のところから来た。 だから、来てすぐに、ここでも、その『習慣』に従った」
それなりの歳の男とならば、自然に、そうするだろうことを。
「サネさんいわく、男につかう色目っていうのが、すごいらしいですよ。 仕事の合間でも、ちょっとしたことでそういう目を流すって。 まあ、若くてかわいい娘にせまられてそんな関係になったら、男なら誰でも優しくしてあげたいですもんねえ」
だから、お店の中はいっとき、それはそれはおかしな空気になったという。
若奥さまと《秘密の関係》を持ったのは、みな、自分だけだと思っている。
誰も彼も、そういう目を女にむける。
―――それを、大旦那はすぐにみてとった。




