おればっか わからねえ
のぞきこむガラス玉の眼を見返し、変におそってきた寒気を気にしながら頼んだ。
「 ノブさん、今度のはなし、馬鹿なおれにも、わかるように説明してくれよ。 なんだか、まったくわからねえ。 ―― 結局、じいさんはボケてんのかい?なんで元気になっちゃまずいのか、おれにはさっぱりだ。 サネババアは、一条のお坊ちゃまに教えてもらえの一点張りで、あのおしゃべりが嘘みてえにしゃべらねえ。 しかも、若旦那は人が変わったみてえにこっちに気を遣って、帰りも見送るしまつだ。 一緒に見させてもらった祠の中は、なんだかいう有名なのに彫ってもらったっていう、観音様が入ってて、それが『地蔵さん』だとか言うんですぜ?」
「へえ」
「ほら、やっぱりおどろかねえ。 おればっか驚いて、首傾げて、わかってなくて、他のやつらはみんな『まるくおさまった』みてえな顔してやがって」
ぶつぶつというよりは、責めるように段々と声が高くなり、せんべい布団から這い出すように詰め寄ってきたヒコイチの肩を、お坊ちゃまは、どうどう、とおさえると、指を立てて説明を始めた。
「ええっと。 ―― じゃあ、まず、ご隠居さんは、ボケてなどいらっしゃいません」
「はああ? だって、いくらなんでも、毒団子食っちまったんじゃ」
「わざとです」
「・・・え?」
お坊ちゃまは近くの火鉢の上から鉄瓶をとりあげ、急須に湯を注いだ。




