お坊ちゃまによろしく
「ああ、そうそう。 あそこの祠、なにを入れるのか気になっていたのだろう? 帰りにみていくといいさ。 ―― いいのが、できあがった」
少し開いた障子の向こうに、ちょうど銅で打った真新しい屋根が見える。
そのあとは、なぜか結局、一条のお坊ちゃまの話になってしまい、ヒコイチがはじめて知るようなことを隠居に聞かされて帰ることとなり、『今度のこと』の話はうやむやなままとなってしまっていた。
「―― ってことでよ、サネばあさんも、お坊ちゃまによろしくって」
当のお坊ちゃまの話をしたのをふせて伝えれば、なんでもお見通しの男をだしぬいてやったようで気分がいい。
お坊ちゃまも、それは良かった、などと鷹揚にうなずいていて、それがおかしい。
「ヒコさん、セイベイさんにぼくのつまらないはなし、きかされませんでしたか?」
「い!?いやいや」
「・・ふうん・・。まあいいや。ところで、ヒコさんが今回倒れたのって、流感ですか?」
「そんなもんで倒れるわけねえでしょ」
胡坐をかいているのは、このところ入りっぱなしのせんべい布団の上だ。
掛け布団は現在、同じ長屋の世話好きなおかみさんの命により、窓枠で陽に当てられている。
「ですよねえ。・・なんの悪い病です?」




