ねらった
「・・・乾物屋さんのあの話は、本当はセイイチさんにはしてはいけないものだった。 あの話をすれば、彼はきっと、《自分の予想よりもはるかに父親がボケてきている》と、思ってしまうだろうとわかっていました。が、―― ぼくはあえて、それを狙いました」
「ねらった?」
そうですよ。
と、お坊ちゃまはうなずいた。
「ぼくがみたかぎり、『とめや』のなかはひどい《緊張状態》にあったので、それを、どうにかしたかったんです」
「『緊張』って、あんた・・・」
あの、一回きりの訪問で、この男はあの家の中のことを、全て見抜いたとでも言うのだろうか?
そこで、すぐに動いた、とでも?
言葉もだせずに驚く顔を笑った男は、言ったでしょう?と身をもどして湯飲みを置いた。
「はずれたこと、ないんですよ。ぼくのこういう『思い込み』って」
「・・・・・・・」
「また、そういう『ろくでもねえ』って言いたそうな顔をしないでください」
言いたくもなる。
ヒコイチなど、いまだに、よくは、わからないままなのだ。
倒れたセイベイの見舞いに行ったのは、セイベイの容態が落ち着いたと聞いてから。
倒れてから、六日も経ってのことだった。




