かげんは よくない
「 ―― そういえば、セイベイさんのおかげん、いかがなんでしょう?」
お茶を飲み、若旦那となにやら話すお坊ちゃまの声がいきなり耳にはいった。
―― なに言ってやがんだ。さっき、あんた――
言おうとして、先に出た息子の「良くありません」という言葉に、それを失う。
若旦那は、なんとも暗い笑いを畳に落とした。
「 ―― どうやら、ヒコイチさんや、お客様がいらしてるときは、気が張るのか、元の親父のようですが、・・・二人きりになったりすると、ひどいものでして・・・」
「そうですかあ。二人きりになると、やはり、自分の命を狙うのか、とか、セイイチさんに言うのですか?」
あいかわらずのお坊ちゃまは、天気を確認するように聞いている。
「ええ・・。自分でそのように言ったことすら、あとで覚えておりません。とにかく、波が激しいのです」
「それでも、この母屋には呼ばずに、庵でひとり過ごして、大丈夫なのですか?」
「元々、頑固な人ですからね。呼んでもあそこを離れようとはしません。 それに、むこうにいれば、わたくしと言い争うこともなく、ただ、独り言をつぶやいているだけですので・・・。きっと、本人もあそこに居るのが楽なのでしょう」




